お寺の敷地に住んでいた体調不良の猫の赤ちゃん 人馴れして無事新しい家族と新年迎える
りぼんちゃんは2019年11月、あるお寺の敷地内でTNR(T=Trap/捕獲し、N=Neuter/不妊去勢手術を施し、R=Return/元の場所に戻す)のため捕獲された8匹の猫のうちの1匹でした。手術は無事に終わり元いた場所にリターンされたのですが、ごはんをあげても食べません。顔は近づけるのに食べられなかったそうです。ボランティアさんの一人に当時の様子を聞きました。
「風邪を引いている子が多くて、りぼんちゃんも鼻水がひどかったんです。生後8か月くらいだったので初めての冬。ますます寒くなる時期に自力で風邪を治す体力はなかったと思います。リターン後1週間は薬を飲ませるつもりでしたし、不妊手術のとき抗生剤の注射も打ってもらってはいましたが、効かないと怖いので再捕獲することにしたんです。あの一件で、猫は鼻が詰まるとごはんを食べられなくなって、そのまま衰弱することもあると知りました」
通常は“美味しいもの”で捕獲器へ誘導しますが、再捕獲の際、りぼんちゃんは食欲不振。前出のボランティアさんがおもちゃで1時間近く遊び、協力者が持ってきてくれた“たも網”でようやく捕獲に成功したそうです。
りぼんちゃんはヒトに対して攻撃性はありませんでしたが、馴れるのにはとても時間が掛かりました。保護主さんの下で暮らした期間は約10か月。里親募集はもう少し早く始めていましたが、コロナの影響で譲渡会が中止になったり、手を挙げてくれたのが猫初心者で「まだ抱っこもできないしハードルが高いかも…」とご縁につながらなかったり。「クレートに入れるのも大変だったので、譲渡会も積極的には参加しませんでした」(保護主さん)
それでも保護主さんが愛情たっぷりにお世話を続けたお陰で、ゆっくりではあるけれど人馴れが進み、家族との出会いが訪れました。昨年8月末のことです。
TNRと里親募集に携わったノラ猫・保護猫専門のお手伝い屋さん『ねこから目線。』のブログを見て、りぼんちゃんを迎えたいと申し出たのは小玉誠さん、真菜さん夫妻でした。結婚したとき真菜さんが実家から連れてきたチルチル君という茶トラの先住猫がいましたが、「もう1匹欲しいね」ということになり、目を留めたのがりぼんちゃんだったのです。
「一目見て美人だなと。チルチルが男前なので、美男美女になるなと思いました(笑)」と誠さん。結婚前は“犬派”だったそうですが、チルチル君と暮らして“猫派”になったとか。真菜さんも賛成し、すぐに申し込みをしました。
保護主さん宅を訪れた面会日、りぼんちゃんはソファーの下に隠れてなかなか出てきてくれませんでした。人馴れが進んだとはいえ、決して人懐っこいわけではありません。それでもトライアルを始めることを決めた小玉夫妻。「ブログの紹介文に『馴れるのに時間が掛かる』と書かれていて、期待もしていなかったので隠れていても残念とは思いませんでした。最後は“ちゅーる”を食べてくれましたし」(真菜さん)
約1か月はケージの奥が定位置。「なるべく遠くにいようとしていた」(誠さん)そうで、フリーにしても近づくと逃げる、ごはんも目の前では食べない、という状況でしたが、二人はそうしたことを気にし過ぎないように努めました。すると…。
「チルチルと普通に暮らしていたら、そのうち起きたときベッドの上にいたり、チルチルをなでていたら近づいてきたり。ゆっくりですが、こちらの不安はなくなりました」(誠さん)
「もともと猫には無理に近づかないほうがいいと思っていましたし、時間を掛ければ必ず距離は縮まると聞いていたので、いい意味でほったらかし(笑)。チルチルのことが大好きだから、チルチルを介して仲良くなった感じです。いなかったらもっと時間が掛かったかもしれませんね」(真菜さん)
保護主さんによれば、お寺には十数匹の猫がいて、その中で一番年下だったりぼんちゃんは先輩猫たちからとてもかわいがられていたのだとか。一度リターンされたときには、先輩猫たちが「おかえり!」と言わんばかりにすり寄ってきたそうです。そんな環境で育ったから、りぼんちゃんも猫にいい印象を持っていたのでしょう。
『ボンちゃん』という新しい名前をもらったりぼんちゃんは、トライアル開始から2か月後に正式譲渡。チルチルお兄ちゃんと仲良く暮らしています。
(まいどなニュース特約・岡部 充代)