障がいのある猫に、さらに見つかった心疾患 お家に迎える準備は間に合わなかったが…「大切なうちの子」
愛知県の動物病院の前に捨てられていた子猫たち。2匹には、明らかに障がいがあった。個人で猫を保護して飼っている村上さんは、2匹のうち1匹に強く惹かれたが、村上さんの状況から考えて里親になるのはあきらめた。しかし、めぐりめぐって、村上さんと子猫は強い縁で結ばれた。
■動物病院の前に捨てられていた子猫たち
2014年10月、埼玉県の動物病院の玄関前に、段ボール箱が置かれていた。中には子猫が4匹入っていた。そのうち2匹には、一見してはっきりと分かる身体的な障がいがあった。動物病院や保護施設などでは、時々このようなことがあるが、動物遺棄は犯罪だ。
埼玉県に住む村上さんは、その動物病院に勤める友人から子猫が遺棄されていた話を聞いた。村上さんは保護猫を飼っているが、里親になる時は、自分で決めた決め事を守っている。
「保護されている子の里親にはならないと決めています。保護された子は素敵な里親さんに巡り合って幸せになるチャンスをつかんでいるからです。私なんかが出しゃばらなくても大丈夫。動物病院に捨てられていた子猫の話を聞いた時もそう思っていました」
■つかみかけた幸せ
しかし、なぜかその時、村上さんは、友人から送られてきた写真の子猫に強く惹かれた。その子猫は、まるで「えっへん!」と自信たっぷりに笑っているような顔つきをしていた。
「両前脚に障がいがあり、ちょうど腰に手を当てているかのような仕草に見えて、衝撃が走るほどの可愛さでした。何度も家族会議を開いて考えました」
しかし、迎えたばかりの子猫がまだやんちゃ盛りだったことや、村上さん自身が療養中だったこと、保護したばかりの親子猫がいたことが重なり、最良のケアができる環境ではないと判断し、断念したという。
4匹のうち、目に見える障がいのない2匹はすぐに里親が見つかった。障がいのある2匹を受け入れてくれたのは、 保護猫カフェの開店準備をしていた共通の友人だった。村上さんの猫つながりの友人たちは「猫妖怪」と呼び合うほどの猫好き仲間。2匹の兄妹は、「妖怪」にちなんで、「よう」と「かい」と名付けられた。
日中、常に様子を見ることができる環境と、兄妹一緒にいられる安心の中で育ったようちゃんとかいちゃん。村上さんが特に気になったようちゃんは、何よりその天使のような愛らしさにカフェの人気者になり、とても幸せそうだった。
カフェデビューした数カ月後、ようちゃんを迎えたいという話があった。トライアルに行き、とても可愛がられていた矢先、さらなる試練がようちゃんを襲った。検査の結果、先天的な心疾患があった。トライアルは中断、カフェに戻ってしばらくの間入退院を繰り返すこととなった。身体は順調に成長したが、先天的な疾患のある心臓が耐えられなくなったという診断だった。重い障がいのあるようちゃんの体では、手術のリスクが高すぎて踏み切ることができなかった。
■今度こそ、うちの子に
いよいよ心臓が悲鳴を上げ始めた6月。できればこの先、病院ではなくおうちの子として温かさを感じてほしい、というカフェ店長の希望もあり、やっと村上さんの気持ちが固まった。
「今度こそ、うちの子になってもらおう」
その後、何度も獣医師と相談をし、どうすれば負担を少なくしてあげられるか、村上さんは考えた。迎える前に何を準備しておけばいいのかなど、いろいろなことを話し合い、準備を進めた。
「家に来ることで何かが変わるかもしれない。しかし、短くても少しでも楽しい時間を過ごさせてあげたいと思いました」
体重が増えるにつれ、体への負担が大きくなっていくのを感じ、負担軽減と自由に移動できるよう車いすの製作を始めた。
「家の中もフラットにして、車いすでどこでも行けるようにしたら楽しいだろうと思いました。ようちゃんが遊ぶ姿をイメージしながら部品選びから取り掛かったのですが、製作していた時間はとても楽しかったです」
体の小さなようちゃんには重い器具は使えない。いかに軽い部品で負担を軽減できるか。1台目、2台目とサンプルを作っては試しにつけてもらいました。
ようちゃんが安心して過ごせるように、部屋の模様替えをしていた夜、病院から電話があった。
保護した親子猫の不妊手術をお願いしていたこともあり、その結果に関する連絡かと思ったが、電話の向こうの獣医師は、「ようちゃんの心臓が止まった」と言った。
■うちの子になってくれて有難う
ようちゃんは、前足のひじあたりで内側に曲がってしまっていたため、床につくのはひじ部分。上半身の方が下がった姿勢で歩いたり、カンガルーのように遊んだりしていた。
「いつでも全身全霊で一生懸命に遊ぶ姿が天使のように可愛くて、カフェのお客様のアイドルでした。体調が悪くなってからも、面会に行くと、しんどいはずなのに可愛い顔でお腹を見せてくれたり、グルグルと喉を鳴らしてくれたりしました」
「結局、車椅子を付けて走り回る姿も、家でくつろぐ姿も見ることはできませんでした。でも、きっと天国のようちゃんは、車椅子をつけなくても自由に楽しく走り回ることができるようになっているのだろうと思います」
村上さんにとってようちゃんは、実際に触れ合った時間はとても短いが、強く、強く印象に残る子だった。
「我が家に迎えることができたのは小さな骨壺に入ってからになってしまいましたが、うちの子になってくれて本当にありがとう。みんなに愛されたようちゃんは、天国でもきっと可愛がられているよね」と、声をかけている。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)