「ついカッとなって」引き取った瀕死のキジトラ子猫 11年で立派に育った比較写真にほっこり
「2010年に米子市の公式アカが役所玄関に棄てられていた子猫の引き取り手を募集していたのを見て、ついカッとなって東京から飛行機で行って引き取ってきたんだけど、11年の変化は恐ろしい」……
放送作家のトトロ大嶋。さん(@totoron3)が先日、手のひらに収まるほどの小さな子猫の写真と、11年の歳月を経てずいぶんと貫禄のついた成猫の写真をTwitterに投稿した。一緒に写っているiPhoneの大きさからも、猫チャンの見事な成長ぶりがよくわかる。それはともかく、たまたまTwitterで鳥取県米子市の引き取り手募集を見かけ、「ついカッとなって」東京から飛行機で飛んで行ったとはどういうことなのか?トトロ大嶋。さん(以下、大嶋さん)に詳しい事情をお聞きした。
大嶋さんは放送作家として光のコミケ、平成ネット史などサブカル寄りの企画・特集から、討論番組、Nスペなど社会問題まで幅広く手掛ける。2011年からは宮城県女川町など被災地でラジオ局を作るボランティアにも取り組んできた。
■猫を引き取るために東京から米子へ!
2010年、仕事の一環で企業や自治体などの様々なTwitter公式アカウントを日常的にチェックしていた大嶋さん。その中のひとつ、米子市のイメージキャラクター「ネギ太」(@negita_yonago)がある日の朝、「市役所入り口に生後間もない猫が捨てられていました」とつぶやいているのが目に飛び込んできた。「ひどいことをする人がいるなあ」と憤りを覚えつつ、「誰か拾ってくれる神が現れてくれれば」とリツイート。が、投稿は拡散されていったものの、その後も一向に“神”が名乗り出る気配はない。このままでは処分されてしまう…。
「刻々と時間が過ぎるのを見ているうちに、魔が差してしまったんですねえ(笑)」
東京在住の大嶋さん、ふと思い立って米子行きの飛行機があるのかを調べてみると、ちょうど夕方の便が。「今から飛ばせば間に合う」!ネギ太の中の人(当時の米子市職員)に「東京から飛行機で行くってありですか」と連絡を入れ、さすがに「本気ですか?」と心配されながらも、往復7万円近いチケットを買って米子行きの便に飛び乗った。
その間、ネギ太の中の人は子猫を獣医さんに連れて行き、「飛行機で東京まで運んでも大丈夫か」などの相談を済ませておいてくれたばかりか、「市役所まで来るのは大変だから」とわざわざ米子空港まで来て、大嶋さんに子猫を手渡ししてくれたという。
「飛行機はすぐに折り返しで東京行き最終便でしたから、米子(空港)の滞在時間は30分足らずでしょうか。今乗って来た人が猫を連れてそのまま引き返すのを見て、CAさんもビックリしていましたよ」
大嶋さんとネギ太とのやりとりは全てTwitter上で可視化されていたため、ジャーナリストの江川紹子さん(猫好き)から「応援するにゃん」とメッセージが届くなど、多くの人が見守る展開に。大嶋さんは「保護猫をなんとかしたい思いはもちろんありましたが、どちらかといえば不思議なご縁を感じての行動だった、というのが当時の気持ちに近いですね」と振り返る。
■「すぐに死んでしまいそう」…渡されたのは衰弱した子猫
そうして対面したキジトラの雑種、つぶ太くん。「目も開いていない、猫とも言えないような“小さい生き物”でした。猫を飼ったことはありましたが、ここまで小さい子は初めてで、責任の重大さを痛感しました」
母猫のおっぱいもほとんど吸えないまま捨てられていたため、「体温調節もできず、すぐに死んでしまいそう」だと感じたという大嶋さん。「帰宅してからしばらくは、私と妻と実家の母とがずっと交代で湯たんぽを用意して温め、ミルクをやり…という感じでした」。その甲斐あってか、半年もすると飼い主の大嶋さん(100kg超)同様立派に膨らみ、いきなり8kgサイズに。「今はちょっと痩せて6kgくらいですけど、もはや名前の由来になった“豆粒”らしさは全然ないですね(笑)」
ほとんど猫社会に触れないまま育ったつぶ太くんは、他の猫を見ると怖がり、今も高いところが怖くて1m以上の高さからはジャンプもできない。「すぐ抱っこしてもらいたがりますし、引き取った当初は明らかに自分のことを人間の赤ちゃんだと思っていた節があります」と大嶋さんは笑う。
■子供のいない家族にとって、かけがえのない存在に
仕事柄、普段から取材などで家を空けることの多い大嶋さんだったが、2011年の東日本大震災以降は、被災地で長期的なボランティアも開始。2014年頃までは1年の半分以上を東北で過ごし、「家庭を顧みず、妻や母には迷惑をかけたと思う」。でもそれを助け、家族をつないでくれたのが、他ならぬつぶ太だった。
「私たち夫婦は子供ができませんでしたが、その分、つぶ太が適度に世話をかけ、かと思うと逆にお守りをしてくれたりと、実の子供のように振る舞ってくれました。米子での衝撃的な出会いが、我が家にかけがえのない家族をくれたと思っています。感謝しかありません」
ちなみに大嶋さんがネギ太の中の人と実際に会ったのは、米子空港での30分だけ。その後はSNSなどを通じてつぶ太の成長を10年以上ずっと見守ってくれている「遠くの親戚みたい」な存在だという。「いつか再会させたい」と思い続けているが、実現には至っていない。
取材には「つぶ太を引き取って後悔したことは一度もありません」と答えていた大嶋さん。だが翌日、つぶ太の写真とともにこんなメールが送られてきた。
「基本的にはおとなしい猫なのですが、そういえば在宅ワークが増えたここ1年、私や妻が家にいるのに構ってくれないことに腹を立てて、気を引くために悪戯をするようになりました」
「洗濯物を散らかしたり、噛みついて穴を開けたり、ノートパソコンの液晶も頭突きして割られました(しかも2台)」
その被害額はすでに、米子への航空券代を上回っているそうだ。
(まいどなニュース・黒川 裕生)