緊急事態宣言下での中学入試 「1月は小学校休む」「前日から会場近くに宿泊」…感染防止に各家庭も緊張感
首都圏で新型コロナウイルスの感染拡大が続いていることを受け、政府が7日に東京など1都3県(神奈川県・埼玉県・千葉県)を対象に再発令した緊急事態宣言。まさに受験シーズンに直撃しました。今回は学校など教育機関の休校要請は免れて、今のところ予定通り入試を行う学校が多いようですが、教育現場はより徹底した感染防止対策などを求められそうです。そんな緊張感の走る状況の中で、中学受験を控えている小学6年のお子さんを抱えるご家庭や、中学受験生を指導・サポートしてきた塾関係者の方々からも入試本番に向けてさまざまな声が広がっています。どのような思いやご意見をお持ちなのでしょうか? 入試期間中の具体的な感染防止対策なども含め、お話を伺いました。
■オンライン入試に変更する学校も 10日は埼玉入試が集中、感染防止のため車の送迎や前日からの宿泊…
首都圏の緊急事態宣言を発出の前後には、仙台育英学園高の併設校として4月に開校する秀光中(仙台市)は東京の大学施設や仙台市の校舎で入試予定でしたが、急きょオンラインでの実施に変更。また、横浜雙葉中(横浜市)でも入試面接を中止、このほか新型コロナ感染で当日試験を受けられない受験生に対し個別に対応して追試験(以下、追試)の措置をとるなど徐々に各学校での対応が出てきました。
緊急事態宣言の発出直後の1月10日は、栄東や開智、大宮開成、埼玉栄、城西川越など埼玉の私立中学入試が集中します。首都圏の中学入試"初回"となる埼玉入試は、東京都や近県からのお試し受験をする受験生が例年多数おり、都心から埼玉方面に向かう朝の電車は受験生などで混雑が予想されます。今回は密を避けるため、早めの電車で向かったり、車での送迎をしたり、あるいは受験会場の近くに前日から宿泊するといった対応をとるご家庭が多いようです。
この日、予定通りに入試を行うという栄東中(さいたま市)では、約6000人の受験生が出願。密を避けるため、試験日程や会場の分散に加え、本校会場では開始時間を前半・後半の2部制にしています。会場入口にはサーモグラフィーを設置し、受験生一人ひとりの体温チェックを実施。さらに全会場・全ての机に飛沫防止アクリルパネルを設置するなど徹底した感染防止対策を行うとのこと。また、咳や発熱の症状がある場合には、追試験を行うそうです。
■コロナに感染したら受験できない場合も 家庭内での予防を徹底
このように栄東中と同様、首都圏では新型コロナに感染したとしても追試を行うなど特別措置を発表している学校もありますが、実際、現時点で追試を行わないというところもあります。新型コロナの感染拡大による緊急事態宣言を受けて、受験生の保護者は感染したら受験できないという不安とともに感染防止対策への関心がより高まっています。
1月下旬に予定されている埼玉の中学を受験する男の子の保護者は「追試を行わない学校の場合、感染すると最悪受験できないことになります。これまでの頑張りが報われなくなるのは悔しいです。とにかく家庭内での検温、手洗い、消毒も徹底するつもりです」と話します。東京入試が本格化する2月1日の第1志望校受験に向けては「なるべく人との接触を避けるためにも、少なくとも(2月1日の)2週間前から小学校を休ませることを考えています」。
■受験生の保護者「2月の東京入試に向けて直前は塾のオンライン受講を検討」「1月は全日小学校を休ませる」
一方、神奈川県に住む受験生の女の子を持つ保護者は「第1志望は2月1日の午前入試ですが、1月は埼玉受験にチャレンジします。コロナ感染を心配し、受験するかどうか迷いましたが、子どもにとって、今までになく緊張を強いられるであろう中学受験。お試し受験は、やはり必要だと判断しました。ただ、電車などでの感染を防ぐため、入試日前日から会場近くのホテルに宿泊します」。さらに、入試期間の通塾については「現時点では、通塾予定ですが、感染者の推移を見て、Zoomでのオンライン受講を検討します。また、感染者数が減ってきても、2月1日の第1志望校受験直前である、1月最終週はオンラインにするかもしれません」といい、人との接触を極力避けることを検討しているそうです。
1都3県内(※千葉は1月20日から、神奈川は2月1日から)の学校をそれぞれ受けるという、東京都に住む受験生の男の子。保護者によると、「1月は全日休む」と小学校に連絡しているといいます。緊急事態宣言を受けたからといって、特に受験日程を変更する予定はないそうです。
「(新型コロナの感染拡大は)予想出来たことです。これまで通り感染対策をしながら頑張ろうと子どもとは話しています。塾では1部屋あたりの人数を減らし、手洗い消毒換気も徹底されているので、通塾も継続。また、親のメンタルは子どもに影響するのでいつもと変わらずにいることを心がけてます」と保護者。入試会場の交通手段については「父親がいるときは車で送迎。電車で行く場合も、混雑を避けるために早めに行く予定です」と話します。
このほか、医療従事者で受験生の男の子がいる保護者は「感染リスクを考えると学校自体は休校にすればよいのにと個人的には思いますが…もちろん、手洗いうがい、室内でのマスク、食事時の会話を控え、2人以上滞在時は1時間ごとに換気、テーブルドアノブのアルコール消毒などはこれまで通り継続。ただ、私が医療従事者ということもあり近隣のコロナ状況や感染に関わる情報は把握しているので、緊急事態宣言が出ても特別に慌てていません」と話し、粛々と入試に臨むといいます。
◇ ◇
■埼玉入試の期間中にさいたま市内で宿泊合宿も 試験会場に入る直前の検温、厚着に要注意!
緊急事態宣言を受けて、中学受験生を指導する塾関係者も感染防止対策の強化や生徒たちの受験校の情報収集などに取り組んでいるようです。
東京・横浜を拠点に中学受験専門の家庭教師センター「アクセス」や個別指導塾などを経営する榎本勝仁さんによると、今回は入試当日の移動距離を極力減らすため、埼玉入試が集中する1月9日から12日までの3泊4日間、さいたま市内のホテルで保護者も含め受験生の実践強化合宿を実施。日中の試験時間中は保護者を集めてセミナーを開き、夜は生徒の指導にあたるといいます。
「首都圏の中学入試開始が埼玉受験からなので、まずはここで結果を出して後につなげていきたいと考えています。合宿はコロナ禍ということで例年よりも受け入れ人数を減らしており、室内の換気や消毒、ソーシャルディスタンスをとるように努めています」と話します。
「目の前の生徒を第一に感染防止に努めて、換気や消毒を徹底し空気清浄機を複数台購入し各教室に設置しております」という、中学受験塾「ひよし塾」(横浜市)の塾長玉田久文さん。さらに、受験生の不安を少しでも払拭するため「コロナだから大変、頑張ろうというではなく、これまで2年、3年と積み重ねてきた努力があるから安心して入試会場に足を運んでほしい、と生徒たちには伝えるつもりです」とポジティブな声掛けをしていくといいます。
ただ、各会場に向かうときに注意すべきことがあるとか。それは「ますます寒くなり、防寒対策は必要ではありますが、厚着をしていると試験会場での検温の際に発熱と検知される可能性があります。実は、12月の模試会場で検温に引っ掛かった生徒がいるんです。なので、会場に入る直前にコートを脱ぐなど体温を少し下げるようにしましょう」。
■追試有無…各校の新型コロナ感染対応「足並みを揃えるべきだった」 今後の動向がどうなるか不安な声も
一方、国・私立中学受験塾「うのき教育学院」(東京都大田区)の学院長岡充彦さんは「中学入試よりも規模が大きい大学入試の対応は大変かと思われますが、大学入学共通テストを予定通り実施するといった受験に関して中止を打ち出さなかったことは政府側の最大限の配慮」などと、政府の対応を評価しています。続けて「中学入試についても予定通りの日程で実施されるようで、これまで頑張ってきた生徒たちにとってうれしいことです」。
生徒たちの様子については「多少の緊張はあるようだけれども、例年通り過去問題などに粛々と取り組んでいます。緊急事態とはいえ、逆に子どもの方が気丈で、大人の私たちの方が学ばされるところがあります」と岡さん。ただ、各学校の新型コロナ感染対応に関して「私たちの塾では東京の学校を中心に受験する子が多いですが、濃厚接触者あるいは感染した場合、追試をするという学校もあればしないという学校もあります。各学校の裁量に任されて対応がバラバラです。ある意味で不公平感を抱いてしまいます。本来ならば、各私立中をまとめる首都圏の私学協会がリーダーシップを取って、新型コロナ感染対応のガイドラインを作成するなど足並みを揃えるべきだったのではないかと個人的には思いました」と指摘しています。
また、今のところ中学入試の日程を大幅に変更する学校などはないようですが、「東京や神奈川の入試が始まる2月1日まで少し不安です」ともらすのが、学習塾「宮崎教室(miyajuku)」(神奈川県大和市)の塾長宮崎智樹さん。
「受験を行えることは大変ありがたいのですが…前回の緊急事態宣言のときよりも制限が緩い印象もあり、このまま東京の感染者数が1日1万人近くに増えてしまったらどうなるのだろうかと不安に思うところがあります。(主に2月以降、中学入試が予定されている)学校などは、1月中旬に行われる予定の大学共通テストなど入試会場の様子を見て具体的な対応を考えるのではないかと。もしそこでクラスターが起きたら、状況がいっぺんに変わる気がします」と、今後の動向を注視していくといいます。
とはいうものの、「多くの学校では昨年の夏前から入試の準備を進めていたようですから、感染防止対策などある程度万全な体制でやっているはずです。中学、高校、大学の入試が続きますが、この1カ月を何とか乗り切ってもらいたいと。これ以上感染者数が増え続けないことを祈っています」と話します。
◇ ◇
今、大人たちは子どもたちのためにと試行錯誤しながら奔走しています。何よりも、大学・高校・中学受験ともに受験生が安心して試験に向き合えるよう、各学校における新型コロナの感染対策などが最善を尽くされることを切に願っています。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)