ノラ猫を増やさない!不妊手術専門病院設立へ奔走する女性
ノラ猫の不妊手術専門病院(スペイクリニック)があるのをご存じでしょうか。日本にはまだ少ないのですが、東京、大阪、神戸など都会を中心に設立・運営されるようになってきました。
猫はとても繁殖力が高く、オスとメスが1組いれば、1年後には60匹以上になると言われています。ノラ猫たちが繁殖を繰り返せば、結果的に事故で命を落としたり、殺処分対象になる猫が増えてしまう。そうしたことを未然に防ごうと、近年ではTNR (T=Trap/捕獲し、N=Neuter/不妊去勢手術を施し、R=Return/元の場所に戻す)活動が盛んに行われていますが、不妊手術の費用はボランティアが自腹を切るケースがほとんど。助成金を出している自治体もありますが、十分とは言えません。そこで登場したのがノラ猫の不妊手術専門病院。1日にたくさんの手術を行うことで1件あたりの料金を抑え、より手術を受けやすくして“不幸な命”を増やさないことが主目的です。
スペイクリニックは都会に作られることが多いと書きましたが、本当は地方にこそ必要なのかもしれません。たとえば長崎県は猫の殺処分数が全国ワースト4位。2019年度は1660頭が殺処分され、うち1415頭が離乳前の幼齢猫でした(環境省発表)。ノラの母猫から生まれ、子猫のうちに命を奪われる子が多いということです。
そんな長崎にノラ猫の不妊手術専門病院を設立しようと奔走している女性がいます。南舘華子さん、39歳。東京出身で兵庫・川西市に住む彼女がなぜ長崎に?
「病院設立に賛同してくれた獣医師が長崎に住んでいるからです。獣医師がいなければ病院は作れません。彼女とは以前、大阪にある動物保護施設で一緒に働いていたんです」(南舘さん)
南舘さんは幼い頃から動物が大好き。都立瑞穂農芸高校畜産科学科在学中に殺処分の問題を知り、「将来は動物保護施設で働きたい」という夢を持つようになりました。その後、青山ケンネルカレッジ飼育管理学科(のちに学校法人シモゾノ学園に引き継ぎ)を経て、大阪の動物保護施設『ハッピーハウス』(公益財団法人日本アニマルトラスト)で猫の飼育スタッフとして7年間、勤務。夢はかないましたが…。
「入院棟を担当していたのですが、死に慣れ過ぎている自分がいました。頭数が多くて、あまりの忙しさに『助けたかった』と悔いる気持ちが薄れてしまって…これは良くないと思い退職したんです」(南舘さん)
東京へ戻り全くの異業種に転職しましたが、そのことでかえって「動物を助けたい!」という思いが強くなったと言います。転機は関西営業部への転勤でした。引っ越し先と駅の間でノラ猫たちにエサをあげているおばあちゃんを見掛け、ハッピーハウスの元同僚が立ち上げたスペイクリニック『のらねこさんの手術室』(大阪・池田市)に相談。そこにいたノラ猫約15頭のTNRに携わり、「ノラ猫たちの現状を何も分かっていなかった」と気づかされたのだそうです。
ある日、元同僚から「南舘さんもやってみれば?」と勧められました。簡単じゃないことは経験者ですからよく分かっています。それでも声を掛けたのは、「南舘さんならやれる」と思ったからでしょう。そして何より、スペイクリニックの必要性を痛感していたからに他なりません。
「ノラ猫を増やさないためには不妊手術するしかない。それをボランティアや寄付に頼るのではなく、しっかり利益を出して自活できるようにしたい。そう考えて、ダメ元で元同僚の獣医師に声を掛けてみたんです」(南舘さん)
返事は「いま住んでいる長崎なら」。南舘さんの気持ちは固まりました。
「TNR活動が周知されていない地域、遅れている地域でやることに意味があると思っています。体力的にもまだ頑張れる年齢ですし、社会経験を積んだ今だからこそできるんじゃないかと。人生、残り半分として、本当にやりたいことをやって、前向きに生きていきたいじゃないですか」(南舘さん)
勤務先にはすでに退職願を提出。今年5月の開業を目指し、『のらねこさんの手術室』や『伊丹ねこスペイクリニック』(兵庫・伊丹市)で研修を受けながら準備を進めています。クラウドファンディングでの資金集めもその一つ。昨年12月24日に『READY FOR』というサイトでプロジェクトを立ち上げました。苦戦しているようですが、あきらめるわけにはいきません。
『ヒトがつくりだした“のらねこ”へ 今 私たちができること』
プロジェクトのタイトルに、彼女の想いが詰まっています。
(まいどなニュース特約・岡部 充代)