「コロナ怖い」で力士の休業認めず…法的問題は?会社員ならば同様の理由で休める?…平松まゆき弁護士に聞く

 大相撲の元琴貫鉄(22)が新型コロナウイルスの感染を懸念して現役引退した(当時序二段)。師匠の佐渡ケ嶽親方を通じて日本相撲協会に初場所の休場を申し入れたが「コロナが怖い」との理由で休場はできないと伝えられたといい、「引退」を選んだ。元琴貫鉄は心疾患もあるとしている。世界中で毎日死者が出ているウイルスに「感染したくない」との理由で休場を認めないことは法的な問題はないのか。あるいは会社員が同様の理由で休むことはできるのか。アイドルから弁護士に転身した平松まゆき氏にQ&A方式で解説してもらった。

 Q 引退した元琴貫鉄によると「誰も助けてくれなかった」とのことですが、法的な問題はないのでしょうか。例えば会社員が「コロナが怖いから休む」と言って連続欠勤した場合、究極的には退職を余儀なくされることになりかねない気がします。

 A 力士と会社員とでは、労働法規の適用を受けるかそうでないかに大きな違いがあります。会社員の場合、会社には「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」(労働契約法5条)という安全配慮義務が課せられます。そのため不衛生な状況下で勤務を強いることは安全配慮義務違反となり得、会社員は会社に対して改善を求めることができます。仮に会社が安全配慮を全くしてくれないため、やむを得ず連続欠勤をしても、これを理由に懲戒したり解雇したりすることは無効と考えられます。

 Q 力士の場合はどうなりますか。

 A 力士の場合、「労働者」に該当すれば労働法規の保護を受けられるのですが、これについては複数の裁判例があり判断が分かれています。労働基準法9条にいう「労働者」に該当するかの判断は、主に(1)使用者から「使用」され、(2)「賃金」を支払われているかを基準とします。これに関し、例えば東京地裁平成23年2月25日は、幕下以下の力士(力士養成員)の場合、(1)力士は自己の所属する部屋の師匠の指導の下、相撲道に精進し、これによって培った技量を自主的、主体的に追求すべきものであって、日本相撲協会の指揮命令権に服する性質のものではないこと等から「使用」性が認められないこと、(2)一場所ごとに支給される本場所手当をもって労働の対償とは言い難いこと等から「賃金」性も認められないこと、等を理由に幕下以下の力士の「労働者」性を否定しました。

 しかし、幕下以下の力士が本当に自主性・主体性を持って動けるのか、本場所に出場するからこそ得られる本場所手当の労務提供の対償性を否定できるのか、個人的には疑問の残る判決です。

 いずれにせよ、「個人事業主」という扱いになれば日本相撲協会の安全配慮義務違反等を指摘できず、進退は自身に委ねるという結論になってしまうのです。

 「コロナが怖い」というのは、本当に正直な心情だと思います。法律以前に、誰しもが自分の命を守ることに躊躇や遠慮をしなくて済む社会になって欲しいと思います。

◆平松 まゆき 弁護士。大分県別府市出身。12歳のころ「東ハトオールレーズンプリンセスコンテスト」でグランプリを獲得し芸能界入り。17歳の時に「たかが恋よされど恋ね」で歌手デビュー。「世界ふしぎ発見!」のエンディング曲に。20歳で立教大学に入学。芸能活動をやめる。卒業後は一般企業に就職。2010年に名古屋大学法科大学院入学。15年司法試験合格。17年大分市で平松法律事務所開設。ハンセン病元患者家族国家賠償訴訟の原告弁護団の1人。

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