住宅地で兄弟と一緒に保護された子猫、夫を亡くした妻と息子に笑顔をもたらす欠かせない存在に

野良猫のアルクくんは、子猫時代、兄弟と一緒に住宅地にいたところをボランティアに保護された。その頃、ナスカくんという猫を飼っていた角田さんは、2匹目の猫を探していた。闘病中の夫が、そう遠くない未来に亡くなることが分かっていたので、やがて来る悲しさを癒すためにも2匹目の猫を迎えようと思っていた。

■住宅地で捕獲された野良猫の兄弟

2015年11月、晩秋で気温が下がり始めた頃、東京都調布市の住宅地に、住人からフードをもらって生きている7匹の猫がいるという情報がボランティアに寄せられた。

1匹でも多くの猫を救いたいと活動しているボランティアは、すぐにキャットフードの缶詰と捕獲機を用意し、現地へ。2匹の猫がすんなり捕獲機の中に入ったという。

黒い半長毛のキジトラ猫は身体が大きく、はじめは母猫と子猫だと思われた。しかしその後、獣医に診てもらうと兄弟だということが分かった。おそらく8月に生まれ、生後3カ月くらいだということだった。

兄猫は去勢後リリースされたが、咳をしていたため再び捕獲。弟猫は身体が小さかったので手術ができず、一時動物病院が預かり、里親を探すことになった。母猫と思われる猫も捕獲、不妊手術をしてリリースした。近くに姿を見せる白黒の長毛猫が父猫ではないかということだった。

■2匹目の猫を探した理由

神奈川県に住む角田さんは、子供の頃、姉が友人から譲り受けた猫、ミーコちゃんと暮らしていた。しかし、ミーコちゃんは心臓に水がたまり、数年で亡くなってしまった。それ以来ずっと猫と暮らしたいと思い続けてきたという。

結婚後は義理の両親と同居したため「猫を飼いたい」と言い出せなかった。しかし、息子が中学生になった頃から気持ちが抑えられなくなった。2000年、あまり猫が好きではなかった夫を説得。二世帯住宅の角田さん一家の居住スペースで猫を飼い始めた。夫はまたたく間に猫のHYUくんの虜になり、HYUくんも恋人のように懐いた。角田さんも、猫との暮らしは自分に向いていると実感した。その後、2006年に2匹目の猫ナスカくんを迎えたが、2011年、HYUくんが腎臓病で亡くなったので、角田家の猫はナスカくん1匹になった。

  ◇  ◇

2015年12月、角田さんの夫は病床にいた。角田さんは、病室でパソコンを開き、2匹目の猫を探していた。

「当時、私も息子も猫を迎えたいと思っていました。ナスカが9歳だったので、これ以上齢を取ると2匹目を迎えても仲良くなれないのではないかと思ったのですが、夫が亡くなった時、私たちを襲う寂しさを紛らわせたかったことも否定できません」

ボランティアのブログで見つけたのは、調布市で捕獲された弟猫「もふくん」だった。やんちゃそうで甘えん坊の顔立ちに角田さんはくぎ付けになった。

■猫との暮らしは食事と一緒、欠かせないもの

2016年1月7日にお見合いしてもふくんを譲渡してもらうことになり、1月11日、ボランティアの夫妻がもふくんを連れて来てくれた。ハウスの中の手作りの木箱にいる時はオモチャで遊んだが、想像以上に怖がりで、ケージから出るまで9日ほどかかった。

夫亡き後に迎えたもふくん、フィンランド語で「はじまり」を意味する「Alku(アルク)くん」という名前にした。

先住猫ナスカくんがアルクくんの部屋に入りたがった時、ケージ越しにお見合いさせたが、あまりうまくいかなかった。お互いのにおいを確認した後、ナスカくんは尻尾を太くして、しばらくケージの前に陣取り、アルクくんを凝視した。アルクくんをフリーにしてから徐々にナスカくんも受け入れるようになり、仲良くとまではいかなかったが、隣で寝ていても許す関係になった。

大事な夫を亡くした角田さんと息子だが、ナスカくんとおアルクくんとの生活は、いつも笑顔の絶えない、幸せを感じられる毎日だという。

「猫を飼うのはアルクで3匹目でしたが、アルクは人生で一番つらかった時に助けてくれました。猫との毎日は、食事と一緒で欠かせないものです。爪切り担当の息子も、帰宅すると毎日写真を撮っています」

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)

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