菅政権の看板政策「デジタル庁」の課題点は?古賀茂明氏が外国人登用などの「DX省」案を提言
デジタル庁より「DX省」を!菅義偉首相が18日に行った施政方針演説では新型コロナウイルス対策以外の施策について多くの時間が割かれ、中でも9月1日に創設予定のデジタル庁を「改革の象徴」と位置づけた。国全体のデジタル化を推進するという菅政権の看板政策について、元経産省官僚、元内閣審議官の古賀茂明氏は当サイトの取材に対し、新著「日本を壊した霞が関の弱い人たち ~新・官僚の責任」(集英社)で提言した「DX省」案を踏まえて、積極的な外国人登用など、従来の壁を打破する根本的な改革を訴えた。
菅首相は施政方針演説で「デジタル庁の創設は、改革の象徴であり、組織の縦割りを排し、強力な権能と初年度は3千億円の予算を持った司令塔として、国全体のデジタル化を主導します」と述べた。
同庁は国や地方行政のIT化などを担い、発足時に約500人中、約100人の民間人を採用予定。5人に1人が民間出身となるが、産業再生機構(2003-07年)の立ち上げに執行役員として携わり、「9割以上が民間人で、本当にやるべきことができた」と振り返る古賀氏は、まだ根本的な改革には至らないという見解だ。
古賀氏は「トップはシンボルとして民間出身の人にするかもしれませんが、局長級は役所の人がなるでしょう。局長級も全員が民間人でなければならないと僕は思う。『役所のことをよく知っている人がいないと、役所特有のしきたりや仕事のやり方もあって、うまくいかない』と言うが、役所の人がいなければ、民間のルールでできる。現場も95%くらいを民間人にできるか?そこまでやる気がないから、デジタル『庁』なのでしょう。これでは行政手続きのデジタル化くらいしかできません」と指摘する。
「世界がいま進めているのは、単なるIT化ではなくて、DX、すなわち、デジタルトランスフォーメーションです」という古賀氏。「DXとは、IT化によってあらゆる社会の課題を解決していくということです。これを本気で断行するなら『デジタル庁』でなく『DX省』にしないといけない。総務省の通信行政全般、経産省のIT関連の産業政策全般を両省から完全に切り離し、全部あわせて、どういうインフラが必要か、どういう分野で変化や改革が必要かを、『省』という一つの独立した組織、かつ、ほぼ民間人でやるべき」。そう訴える同氏だが、「『デジタル庁』には、役所でハンコをなくす、ペーパーレスにするといったこと以外の構想が見えない」と懸念した。
古賀氏は、「DX省」創設の構想で、民間人採用だけでなく、法律を改正し、省の大臣、副大臣、大臣政務官、局長から課長クラスまで、外国人を登用可能とすることを提案する。デジタル先進国からの人材採用で日本のデジタル化を進め、ポストコロナの経済復興の起爆剤にすべきだという。政府機関の要職を外国人に任せることに「壁」はないか?
古賀氏は「英国の前中央銀行総裁がカナダ人だったり、他国ではあり得る話です。法改正をして、外国人を登用する時に『日本のためにやります』と宣誓してもらえばいい。その人の国籍がある国との利益相反が起きそうな場合だけ、決定権を停止するということでもいでしょう」と説明。さらに「公文書改ざんを多くの官僚が見て見ぬふりをするような日本の組織に外国人が入れば、日本人が『しょうがないかな』と見る不正でも、国際常識から見て『通用しません』となり、正しい方向になる。企業ではどんどん外国人がトップに入っています」と合理性を指摘した。
また、第2次安倍政権で、官僚が政権に忖度する要因と指摘された「内閣人事局」について、古賀氏は「不正なことをやるように官邸から命じられたり、冷遇されないように悪事に手を染めたりするのは内閣人事局があってもなくても同じ。終身雇用で天下りも含めて一生、役所に保障された生活を維持しようと考えるから公文書改ざんのような不正が発生する」と指摘した上で「バランスが取れる官僚システムをDX省で」と呼びかけた。
同氏は「実力のある民間出身者は政治家にこびておかしな政策を作れば、逆に民間市場での評判を落とすので、より独立して政策立案を行うことができる」とDX省に不正の抑止効果も期待した。
ただ、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中、今回の施政方針演説でどんなに首相がアピールしても、現時点で「デジタル庁」というワードはコロナ禍の影に隠れている状態。それどころではない状況の中、それでも、今後の時代に不可欠な同庁(まだ「省」ではないが…)の在り方を注視していく必要がある。
(まいどなニュース/デイリースポーツ・北村 泰介)