東京オリンピックの開催が懸念される「コロナ以外」の理由 感染対策に精一杯で…高まるリスク
新型コロナウイルスの第3波が日本中を襲い、緊急事態宣言が首都圏や関西圏などで発出されるなか、米国のニューヨークタイムズなど海外主要紙は、“東京五輪中止か”などと報道し始めている。
日本国内でも“もう無理だろう”、“開催しない方がいい”などの声は市民の間でも増えている。実際問題、現在の猛威が収まらない限り、最低限に規模が縮小された形での開催も難しいだろう。今、開催の是非で世論調査をしても、反対と答える市民が過半数を超えても驚くことではない。そして、こういった状況下で開催する方向で進めたとしても、1つにテロの発生が懸念される。
1972年のミュンヘン五輪や1994年のアトランタ五輪など、五輪は歴史的にもテロの標的になってきた。テロリストは多くの人が集まる場所を狙い攻撃し、不安や恐怖心を社会に拡散させようとすることから、五輪など世界が注目するイベントは格好の標的となってきた。これは今も変わらない。
日本は島国であり、また先進国と世界のテロ情勢について情報を常に共有しているので、イスラム過激派などのテロリストが日本に入国することは難しい。特に、最近は新型コロナウイルスの感染拡大で国際便が激減しているので、その可能性はさらに低い。しかし、何もテロリストは海外からやってくる者だけではない。近年、世界ではネット上の過激な思想の影響を受け、自分1人でテロを起こすことが大きな問題になっている。今年に入って、アメリカ・ワシントンの連邦議事堂を暴徒たちが襲撃したが、その多くはネットで過激な思想に共鳴した者たちだ。そして、ミサイルなど破壊力ある大型の武器を使うのではなく、ナイフやトラックなど身近に手に入るものを使うのが特徴であり、そう考えると物理的には日本で発生しても全く不思議ではない。
また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って懸念される特有のリスクもある。それは、市民や警察官など世論のテロへの意識低下である。筆者は治安分野の専門家として、東京五輪の危機管理体制について、政府や都、民間企業など関係組織と仕事をしたり、情報交換などを日々行っているが、実体験として肌で感じるのは、現在、関係者の周りでは、如何に感染を防ぐか、また、イベントを開催するのであれば如何に感染対策を実行するかで精一杯で、テロへの意識がかなり薄まっているように思う。筆者と同じように、知り合いの危機管理の研究者や警察、自衛隊OBの人々からも同様の声が聞かれる。
しかし、テロリストはそういった隙を付く。今では日常生活で手に入る物を使ったテロが主流であることから、警察官や警備員のテロへの意識が薄まるなか、仮に開催するのであればテロの発生が危惧される。
では、仮に開催されるとなれば、1人1人はどのようなことを頭に入れて置けば良いのか。
まず、人が多く集まる場所にはできるだけ近づかないことだ。近年の世界で発生したテロ事件をみても、発生する場所は主要駅や満員電車、繁華街が圧倒的だ。テロリストはナイフで無差別に斬りつけたり、トラックで歩行者天国を突っ切ったりすることが考えられる。東京でもちょうど2年前、原宿の竹下通りを車が突っ込み、多くの負傷者が出た。また、イスラム過激派などは米国など欧米大使館やイスラエル大使館などを標的とすることから、そういった施設にも近づかない、長居しない事が重要だ。
また、タイミングも重要となる。これまでのテロでは、朝や夕方のラッシュアワーなど人が混雑する時間帯を狙ったテロも多く見られた。仕事などだと中々ラッシュアワーを避けての動きは難しいかもしれないが、感染対策と同じように、人でごった返す時間帯を避ける動きもテロから身を守る上で重要となる。
◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。