つり革を持っていないと、加速でこけてしまいそう!?40年選手…まだまだがんばる昭和版「ジェットカー」
大阪と神戸を結ぶ阪神電気鉄道には加速にすぐれる普通電車があります。地元では「ジェットカー」という名称で知られ、現在も元気に活躍しています。40年選手、昭和版「ジェットカー」5001形の魅力に迫ります。
■体が横から押されてしまう普通電車?
今回紹介する5001形は1977年にデビューし、もっぱら阪神本線(大阪梅田駅~元町駅)の普通電車を中心に活躍してきました。2021年1月時点においても新型車両に交じり、阪神本線で元気に活躍しています。
5001形は「普通の電車」に見えますが、実は加速・減速にすぐれたすごい電車です。5001形の加速度は4.5km/h/s、つまり1秒間に速度が4.5km/h上がります。一般の通勤電車の加速度は約3.0km/h/sなので、5001形は1.5倍も加速力が高いです。
始発駅の高速神戸駅から5001形に乗ってみました。加速すると体が横に押されるような感覚に。つり革を持っていない状態で立っていると、バランスを崩してこけてしまうかもしれません。5001形の加速の良さは実際に乗車するとすぐにわかるので、ぜひお試しください。なお新型「ジェットカー」は乗り心地が改善されているため、体が横に押される感じはあまりありません。
なぜ阪神電車は「ジェットカー」を走らせているのでしょうか? 答えは駅が多いことにあります。大阪~神戸間にはJR神戸線と阪急神戸線が走っています。JR神戸線は大阪~三ノ宮駅間約30キロに15駅、阪急神戸線は大阪梅田~神戸三宮駅間約32キロに16駅あります。一方、阪神本線(大阪梅田駅~神戸三宮駅間約31キロ)には倍の32駅があり、駅間の平均距離は約1キロしかありません。
しかも阪神本線には特急や快速急行などの速い電車が走っているため、普通電車がノロノロ走ることはできません。普通電車は少しでも速く走り、主要駅で特急や快速急行に道を譲る必要があります。そのため阪神の普通電車には「ジェットカー」と呼ばれる加速・減速性能がすぐれた電車が投入されているのです。
■昭和な阪神電車を感じられる5001形
5001形の魅力は単に加速・減速がすぐれているだけではありません。今となっては懐かしい「昭和な阪神電車」を感じられる電車です。
まずはクリーム色と青色の塗装に注目しましょう。かつての阪神電車は特急などに使われる急行系車両は赤色とクリーム色、普通系車両は青色とクリーム色となっており、それぞれ「赤胴車」「青胴車」と呼ばれていました。しかしリニューアル工事や新型車両の登場により次々とモダンな新塗装に。気がつけば昭和時代から続く「青胴車」は5001形のみとなりました。
首都圏ではなかなか見かけなくなった方向幕も健在です。2019年10月に「梅田駅」から「大阪梅田駅」になりましたが、方向幕は「梅田」のままです。
車内は座席の色は変わったものの、基本的にデビュー当時の姿です。若草色の壁がかつての阪神電車の標準仕様。新型車両とは異なる落ち着いた雰囲気を醸し出しています。
車端には日章旗を入れる金具、アナログ気温計、「禁煙」プレートの3点が昭和ムードを高めます。阪神電車は現在でも祝日なると車端部に日章旗を掲げます。
窓も開くので換気もばっちり! これだけしっかりと窓が開いていると、混雑した車内でも少しは不安が取り除かれるのではないでしょうか。
■引退が迫る5001形
阪神電車の資料によると、5001形は2023年度までに新型車両に置き換わる予定になっています。2021年1月現在、何本かやり過ごすと5001形に出会えるので、車内で横に押される体験をしたければぜひお試し乗車してくださいね。
◆新田浩之(にった・ひろし) 1987年生まれ、神戸市在住。子どもの頃から乗り鉄。普段は鉄道を楽しみながら、関西の鉄道を中心にコツコツと執筆活動を行う。学生時代は中東欧・ロシアの現代史を専攻した関係で、2018年からチェコ政府観光局公認「チェコ親善アンバサダー」も務める。現在は冷戦期におけるヨーロッパ・ロシアの時刻表収集にハマる。