「野球で恩返ししたい」新しく誕生した九州アジアプロ野球機構の代表付にPL学園の元4番 立浪、片岡と同期
熊本初となる独立リーグのプロ野球チーム「火の国サラマンダーズ」も2月1日に県内でキャンプインした。西武、ソフトバンクで活躍し、昨年ロッテを引退した細川亨氏(41)が初代監督を務めるが、機構側の代表付としてPL学園OBでもある深瀬猛さん(51)が携わる。昨年までは軟式野球の佐川印刷監督だったのに…。この急展開の裏に何があったのか。
「火の国サラマンダーズ」の前身は合志市に本拠地を置いていた社会人野球の熊本ゴールデンラークス。母体はスーパーマーケットチェーンの「鮮ど市場」で、昨シーズンを最後に企業チームから九州独立リーグのプロ球団となり、10月17日には新球団名が決まった。
そのころ、深瀬さんは監督として5年間、お世話になった軟式野球の佐川印刷を円満退社し、就活中。大産大臨時コーチ時代の教え子で、フードトラック事業などを展開する株式会社「創縁舎」(門真市)の枦山義彦さんに顧問として請われ、キッチンカー事業に参入するつもりだった。
予期せぬ展開になったのはここからだ。11月25日、深瀬さんが何気なく「ユニホームを脱ぎました」とフェイスブックにアップ。すると熊本ゴールデンラークスでGMを務め、新球団と新リーグの運営団体「九州アジアプロ野球機構」を立ち上げたばかりの田中敏弘代表から返信があり、東京・渋谷のスターバックスで10年ぶりに再会することになった。
田中さんは深瀬さんと同じ昭和44年生まれで九州学院から明治大を経て日本通運へ。深瀬さんはPL学園から専大、JR東日本でプレーしており、高校時代に甲子園で対戦するなど2人は野球を通じて何かと接点があった。構想を話していくうちに意気投合。タッグを組むことになった。
「従来の独立リーグのスキームではなく、地方創生とSDGsにプロ野球を掛け合わせるというのが魅力だった」と深瀬さん。「いまは大分との2球団ですが、将来は九州全県、さらに台湾、韓国、フィリピンに広げて行く構え。さらに、僕がキッチンカーの話をすると”こっちもちょうどやろうと思っていたところ”となり、とんとん拍子で事業を進めていくことになりました」
そのキッチンカー事業は”3密”を避け、弁当や軽食、スイーツなどを販売、テイクアウトできるとして、コロナ禍において、脚光を浴びている事業のひとつ。買い物難民の救済や災害時に被災者らへ食事を提供する機能なども期待され、業者と連携して社会実験を進めている自治体も多い。深瀬さんは言う。
「スタッフは豪雨災害に遭った人吉に乗り込んでボランティア活動もしたそうです。今後も熊本や人吉の復興のために、野球を通じて勇気と元気を伝えたい。キッチンカーでおいしい食材を大阪、東京、名古屋などに広めることで、その手伝いをしたい」
チームには細川新監督の他に、ソフトバンクとオリックスで通算182セーブを記録した熊本出身の馬原孝浩氏(38)が投手ゼネラルマネジャーとして加入。整体や鍼灸の面でもサポートしていくという。熊本・山鹿市民球場でのキャンプは28日まで。その間、オリックスや広島の2軍と宮崎県内でオープン戦を行い、3月20日に開幕する九州独立リーグに備える。開幕後は大分B-リングスや四国アイランドリーグplusの各球団、さらに沖縄オーシャンズ、ソフトバンク3軍とも対戦予定。年間80試合を計画している。
「PLの先輩でソフトバンク3軍監督の森さんには一番にあいさつしてきました」
深瀬さんは高校では4番を打ち、立浪、片岡、野村、橋本らそうそうたる面々と同期。故障でプロ入りの夢は断たれ、社会人野球を終えてからは奈良・高田商、母校・PL学園のコーチを務め、メロンパンやキムチの販売、飲食業などにも携わってきた。
「いろんなことをやり、同期のみんなとは違う形だけど、プロ野球球団に辿り着いた。偶然に偶然が重なり、不思議な感じがしますが、僕はパイプ役としてリーグやチームを盛り上げ、野球で地方創生や復興に取り組み、恩返ししたい」
決して盤石のスタートとは言えない。しかし、物語の始まりはいつもこんなものだろう。サラマンダーは西洋の伝説に登場する火の精霊。熱いシーズンになることを願ってやまない。
(まいどなニュース特約・山本 智行)