米中対立の余波…バイデン政権下で難しさ増す日中関係 悪化進めば邦人の安全に影響も「企業はリスク対策を」
米国のバイデン大統領は2月7日、中国への対応の仕方について言及し、トランプ氏のような米国単独で次々に経済制裁を課すような対応はとらず、日本やオーストラリア、欧州など同盟国と連携しながら対応していく姿勢を明らかにした。バイデン大統領はトランプ氏の米国第一主義を否定し、国際協調主義を重視することを宣言している。また、バイデン大統領は中国とは今後も激しい競争になるとの見方を示し、トランプ氏同様に中国に妥協はせず、厳しい姿勢で臨むことも鮮明にした。要は、トランプ前政権とバイデン政権の対中基本姿勢は変わらず、その手法に大きな違いがあるということだが、同盟国を重視した対中戦略という意味では、日本の立ち位置はトランプ政権時以上に難しくなる可能性がある。2030年には経済力で中国が米国に並ぶとも言われるなか、米国の焦りは日に日に高まっており、日本はどう中国に向き合うのかと米国が圧力を掛けてくる可能性も、今後は十分に考えられる。仮に、米中対立と日中関係の悪化がさらに進めば、対中依存が依然として強い日本企業(現地に進出する日本企業や中国人観光客に依存する国内企業など)にはどんな影響が出るのだろうか。ここでは簡単にいくつか考えてみたい。
例えば、1つに、中国が日本に対して一部品目の禁輸、関税引き上げなどの対抗措置をとってくる可能性がある。2010年9月、尖閣諸島で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突し、中国人船長が逮捕されたことをきっかけに、中国は対抗措置として日本向けのレアアースの輸出停止・制限に乗り出したことがある。
また、現地の日系企業への影響も考えられる。当時の小泉首相が2005年に靖国神社を参拝したことがきかっけで、中国では反日感情が高まり各地で日本製品の不買運動が発生し、2012年には日本政府が尖閣諸島国有化を宣言したことで、中国各地では反日デモが拡大し、パナソニックの工場やトヨタの販売店などが放火され、日系のスーパーや百貨店などが破壊や略奪の被害に遭ったことがある。そしてさらにエスカレートすると、中国に滞在する邦人の拘束がある。今年1月、中国でスパイ容疑で拘束されていた日本人男性2人の懲役刑が確定したことが明らかになった。2019年9月にも、日本の大学教授が日本へ帰る直前に北京の空港で拘束される出来事があったが、2015年以降、中国ではスパイ容疑で少なくとも日本人15人が拘束されたが、どのような行為がスパイ容疑に当たったなどかははっきりしていない。日中関係の悪化は、対抗措置として邦人の安全・保護にも関わってくる場合がある。尖閣衝突事件直後、中国国内で大手ゼネコンのフジタの社員が拘束されたこともある。
最近では、香港国家安全維持法によって民主派メンバーの逮捕が相次いでいる。ジェトロなどが去年10月にまとめた調査結果でも、香港に進出する67%あまりの日本企業が香港国家安全維持法を懸念していると回答し、34%あまりが香港からの縮小や撤退、統括機能の見直しを検討していると回答した。適用基準がはっきりしない法律は、外交関係の悪化に邦人拘束の糸口に使用される恐れもあろう。
一方、中国人観光客と関連する国内企業も大きな影響を受ける恐れがある。日本は観光立国を目指し、近年は多くの中国人観光客が東京や大阪だけでなく、地方の温泉地や避暑地に足を運ぶことも決して珍しくない。反対に、日本の観光地は中国人観光客なくして経営が成り立たないことも少なくなく、如何に中国人観光客を呼び込むかの戦略も練っている。しかし、日中関係が悪化すれば、習政権が日本旅行を控えるよう呼び掛けたり、そういった宣伝活動を強化したりすることは十分に考えられる。そうなれば、国内企業が受けるダメージは極めて大きいことだろう。現在、コロナによって既に大きな影響を受けているが、今後国内の旅行業界やその関連企業は、受け入れる外国人観光客の多角化などを構想していく必要もあろう。
以上のようにいくつか例示してきたが、こうならないよう努めるのが政府の役目であるが、米中対立の中で日本はどうバランスを取るかが実際の課題となる。だが、経済的な影響が大きいことから、海外に出る日系企業、また中国人観光客に関連するあらゆる国内企業の経営的安定を考えると、今からリスクを最小化できる戦略を練っておく必要がある。
◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。