コロナ禍の悲劇は「福祉的な強力なサポートが必要」 資金の融資・貸付だけでは解決しないケースも
緊急事態宣言が延長され、解除の時期が様々に取り沙汰されています。
そもそも、今回緊急事態宣言を延長するに当たっては、「期間を短めに設定して、再度延長する」よりも、「期間は長めに設定しておいて、状況が改善した地域から、順次解除する」というやり方の方が、受け入れられやすい、やりやすい、ということですので、「状況が改善されなければ、解除に至らない」というのは、当然のことになります。
そして、「状況が改善されたかどうか」の判断について、将来的な感染の再拡大の可能性なども含め、慎重に検討する必要があり、一部の数値が要件をクリアしたら即解除ということにはならない、ということでもあります。たしかに、新規感染者数は、ピーク時より減少傾向にありますが、新規感染者数だけではなく、死者や重症者の数、病床利用率等の医療の状況なども踏まえる必要があります。
新規感染者数は減っているが、重症者や入院患者の数がそこまで減っていないのは、現在は、病床が不足し、自宅等で入院を待っておられた方が、随時入院していっているという状況にあること、新型コロナに感染してから、発症し重症になるまでには一定の時間を要し、さらに、人工呼吸器等を装着した場合には、回復までに時間を要すること等が考えられます。ただ、新規感染者数がこのまま減少していけば、重症者や入院患者も減少していくと考えられ、解除に向けた環境に近付いていきます。
■解除にはタイミングが重要
緊急事態宣言の早期の解除を求める声の背景には、宣言が及ぼす社会経済へのマイナスの影響を懸念して、ということがあるわけですが、その観点からも、必ずしも、できるだけ早期に解除することがよい、ということにはなりません。タイミングが重要で、感染拡大や医療の状況が十分に改善しないうちに、宣言を解除してしまうことによって、再び感染が拡大し、緊急事態宣言が再発令され、結果として、経済へのダメージが却って大きくなる、という可能性もあります。(なお、数理・統計・疫学といったものは、極めて複雑な条件を、様々な仮定の上に算出したモデルであり、あくまでも、将来の予測のひとつとして、そういった説がある、というものだと理解しています。もちろん、どういう根拠でどういった分析をされているか等によって、予測の信頼性には、高低があります。)
そして、大事なことは、緊急事態宣言が解除されたとしても、すぐに、なんの制限もなく行動できるようになるということではなく、引き続き、一人ひとりの慎重な行動が求められることになります。実際に、宣言解除後の地域でも、テレワークの推進による出勤者の7割削減やイベントの人数制限、不要不急の外出自粛も継続されています。飲食店の時短については、営業時間や対象地域は「各都道府県知事が適切に判断する」とされており、例えば、20時から21時に1時間延長をして、段階的に状況を見ていくといった取り組みが行われています。感染の再拡大を防げるかどうかは、我々の行動にかかっています。
■深刻さを増す社会経済の状況
一方で、懸念される社会経済の状況も、深刻さを増しています。
2月7日まではなんとか…と思って踏ん張っていたお店が、緊急事態宣言が延長となり、もう閉店するしかない。倒産、廃業、そして、様々な業種で仕事がなくなり、住む所まで失うといった生活に困窮する方がいます。仕事がなくなった家族のために、高校生がアルバイトで家計を支え、学校に通えなくなるケースもあります。人との交流が途絶え、相談することが困難になり、個人や家庭が孤立、自殺や心中を選んでしまうこともあります。
「もうどうすることもできない。この先の未来に、なんの希望も持てない。」コロナ禍の悲劇は、気付かれにくい形で、じわじわと広がっています。
今は、感染防止や目立つ経済対策に注目が行きがちで、こうした方たちの苦難は、行政になかなか伝わっていかない、そして、ご本人たちもどういう手立てがあるか分からないという現実があります。こういった状況においては、資金の融資・貸付等では、もはや解決とはならず、福祉的な強力なサポートが必要です。将来的には、職業訓練など自立した生活を求める方向での支援が望ましいとしても、今現在、まさに、生きていくことすら困難な状況にある方に、まずは生きることをあきらめないで済むような、公的な支援が切実に求められています。
国や自治体の政策として、どこにどのように財源を配分するか、というのは、極めて重要な政策判断なわけですが、大きな声を出せない、苛烈な状況の中で孤独に苦しむ人たちの声に、国も自治体も耳を傾け、全力で対処していただきたいと思います。
■「大阪府の独自基準」について
この連載をお読みくださる方は、関西にお住いの方も多くいらっしゃると思いますので、大阪の状況についても、考えてみたいと思います。
大阪府の緊急事態制限解除の独自基準は、7日連続で①新規感染者の直近7日間の平均が300人以下②重症病床使用率が60%未満、のどちらかを満たした場合とされていますが、これは、本来は、両方を満たした場合、とするべきだったと思います。
どちらかを満たしていればよい、ということですと、極端なことを言えば、「新規感染者が300人以下だったら、重症病床使用率が100% でも解除することがあり得る」、「重症病床使用率が60%未満だったら、新規感染者が2000人いても、解除することがあり得る」ということになってしまいます。それはやはり、おかしいですよね。
結果として、国の基準よりも緩い基準になってしまっていることにも疑問があります。もちろん、いろいろな分野の政策において、自治体が、国の設定した基準と異なる基準を設けるということは、実際にあることなのですが、それは、自治体の住民のために、明確にプラスになる方向で行われるからよい、ということになります。
「上乗せ・横出し基準」といいますが、例えば、自治体が独自の財源から負担して、補助金の額を上乗せする、子どもの医療費を無償にする、教育カリキュラムを増やす、介護保険の給付対象外サービスや利用限度額以上のサービスを提供する、環境法の分野で国の法令が規制対象としていない汚染原因物質や汚染源を、新たに規制するなど、例はたくさんあります。
一方で、今回の「緊急事態宣言の解除の基準を緩める」ことは、住民の感染拡大のリスクを高める、住民にマイナスになることを、やってしまうことになります。府が基準を緩めることになった理由は、緊急事態宣言による飲食店などの経済への影響を考慮して、ということだと思われますが、上述したように、感染拡大や医療の状況が十分に改善しないうちに解除すると、再び感染が拡大し、結果として経済へのダメージが却って大きくなる、という場合もあります。解除基準を緩めることが、経済へプラスになるとは必ずしもいえません。
もちろん、自治体独自の熱意溢れる果敢な取り組み姿勢は、大いに評価されるべきものだと思います。
◇ ◇ ◇
最後に、懸念していることをもうひとつ。
お話を聞くと、高齢者の中には「新型コロナに感染すると重症化するし、病院や周りの人たちに迷惑をかけることになってはいけないから、家に籠っている。」という方が多くいらっしゃいます。けれど、家に籠っていると、もともと元気な方でも、心身が弱っていき、深刻な状況に陥ることがあります。高齢者の方は、尚更です。新型コロナウイルスを避けようとするあまり、むしろ、心身の健康状態を悪化させてしまうことになります。
ぜひとも、感染防止策を講じながら、お散歩にいっていただく、電話やオンラインでご家族やお友だちと交流していただく等を、積極的にやっていただき、周囲の方や地域の方も、気配りをお願いしたいと思います。
春はすぐそこです。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。