介助されていた人が、ひとりで喫茶店通いするまで脚力回復 「人生、もうひと花」掲げ注目のデイサービス

大阪府泉大津市にあるデイサービス施設「ローズ若宮の杜」の取り組みが、いま注目されている。とくに「歩く機能」の回復は、利用されたご本人も驚くほどだ。

足の裏に着目したケアで歩行機能を回復するとともに、「歩くこと」に目的と楽しみをみつけてもらうため、隣接する神社の塀を取り払らい、散策できる「杜の小径(もりのこみち)」までつくったという。

施設を運営する社会福祉法人豊中福祉会の専務理事、八木勲氏にお話を伺った。

「デイサービスに来られている方は、元気になられます。じゃぁデイサービスに来たときだけ元気だったらいいのかというと、そんなことはありませんよね。日常生活にも、プラスの影響が出るほうがいい」

日常生活を元気に過ごしてもらって、その元気がほかの利用者さんやデイサービス全体に波及していくことで、地域社会全体が活性化していくことが期待できるという。

「当施設で力を入れているのは、運動とレクリエーションです。もともとやっていたことの良い部分を取り入れて、さらにブラッシュアップしています」

■「足の裏」に着目したケアで歩行機能を回復

その中でも、とくに着目しているのが「足の裏」だという。

「ホットパック」といって、足の裏を温めて血行を促進するとともに、硬くなった筋肉をほぐし、足指をしっかり動かして本来の機能を取り戻す。

「足の裏って、意外に意識されていない方が多いです。意識して動かさないと固まってきて、地面をしっかり噛むことができなくなります。とくに高齢の女性に多い『浮指』になると、体のバランスがとりづらく、転びやすくなります」

だからまず足の裏からケアしていって、足をしっかり地につける力をつける。そうして体のバランスを維持できるようになると、次はノルディックというスキーのストックのような杖を使って歩きながら、体幹と脚力のバランスを改善していく。

「転ぶことに恐怖心があって、怖いから動かない、動かないからますます筋力が衰えるわけです」

同施設で地域健康サポーターを務める吉田幸成氏によると「転ぶときは、どうしても転びます。でも転ぶリスクを下げることはできます。そして転んだときに、大事に至らない転び方になるようにするのです」

■歩く意欲を高める「参拝」を兼ねたウォーキング

歩くことへのモチベーションをもってもらうための工夫もある。施設に隣接する大津神社へ、参拝を兼ねたウォーキングである。それもラリー形式にして、1回参拝するとスタンプが1個もらえる。スタンプカードには、富士山の頂上を目指して25個まで押印欄があって、25個すなわち25回参拝したら、大津神社の御朱印とその月の干支のお守りが宮司さんから授与される。

スタンプカードは施設内の壁に貼りだされて、誰が何回参拝したか一目で分かるようになっている。

「あの人はもう5回も行ってはるから、自分も頑張らないと」という感じで、いい意味で競い合うことで「歩くこと」の目的と楽しみができるという。

そうして自分の脚で歩く機能を回復して、人生の楽しみを増やした人が実際にいる。

■歩けるようになり、再び地域とのつながりが持てた利用者も

昭和8年生まれの樽井チヨ子さんは、押し車を使っても自宅から10メートル歩くのがやっとだった。それ以上の距離は車いすに乗って、介助者の手助けが必要だった。

それがデイサービスに通い始めて6か月後には、押し車は使うけれど200メートルを歩けるようになり、週に1~2回は近所の喫茶店まで自分で歩いていって、モーニングサービスを食べるのが習慣になった。

以前は、家族のほかには施設のスタッフとケアマネージャーぐらいしか他人とのかかわりがなかったが、昔馴染みの喫茶店に行くようになって、旧知の知人や友人たちと再会できるようになり、日常生活の世界が広がった。

「閉ざされた世界になりがちな利用者さんが地域社会とつながりをもつことで、ご本人はもちろん、地域社会全体を元気にしていくような福祉に変えていきたいという想いがあります。それを『人生、もうひと花』と位置づけています」

豊中福祉会が運営する別の施設では、要介護がとれてデイサービスを「卒業」した事例もあるという。

「地域社会とつながり」という観点で、年に一度、大津神社の『鈴の緒』づくりを施設の利用者さんたちでやっている。製作に関わった人は鈴の緒に名前が記載される。そうして参拝に訪れる人の目に触れることで、「地域社会の一員であること」を再認識するのだ。

■施設と神社の壁を取り払って「散策道」を

「ローズ若宮の杜」が建つ敷地は大津神社の土地で、建物のオーナーも大津神社。それでも施設と神社の境界は塀で区分されていた。

その塀を取り払って施設と神社との境界をなくし、自由に行き来できるようにしたい。そんな想いを抱いた八木さんと吉田さんは、「ダメでもともと、宮司さんに話すだけ話してみよう」と持ちかけたところ、藪野信宮司は「神社はもともと地域コミュニティの拠点だった。昨今、そういう機能が弱まりつつある。本気なら、できることは協力する」と話を聞いてくれた。

先祖代々にわたって大津神社を守ってきた氏子さんたちから不安や心配の声があがったものの、ひとつひとつ丁寧に解決しながら、クラウドファンディングをスタート。目標を大きく上回る支援を得た。その資金で施設と神社の間にあった塀の一部を取り壊して扉を設け、境内へつづく道「杜の小径」をつくった。

デイサービスの利用者さんたちは毎日、この「杜の小径」を通って大津神社に参拝している。そうすることで歩くことのモチベーションを高め、歩行機能の維持や回復にも役立っているという。

今後は「杜の小径」を中心に、地域社会全体のコミュニティづくりに貢献したいという構想もある。そして豊中福祉会としては、要介護認定・要支援認定がとれて自立になることを目的としたデイサービスが、5月か6月の事業化をめざして準備が進められている。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

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