コロナ禍で死の現場にも異変?在宅医療のスペシャリスト語る 映画「痛くない死に方」のモデル

在宅医療のスペシャリストとして全国的に知られる兵庫県尼崎市の“町医者”長尾和宏医師をモデルに、在宅医と患者と家族の物語を紡ぐ映画「痛くない死に方」が2月20日の東京・シネスイッチ銀座などを皮切りに、全国で随時公開される。人生の最期を病院で迎えるか、自宅で迎えるか。2500人を看取ってきたという長尾医師の経験を踏まえ、老境に入って「死を意識し始めた」という高橋伴明監督が、他ならぬ自身の問題として真摯に問う。髙橋監督と長尾医師に話を聞いた。

在宅医としてあるべき姿を模索する医師の河田仁(柄本佑)。「痛みを伴いながら延命治療を続ける入院ではなく、“痛くない在宅医療”を選択した」という患者やその家族と向き合いながら、先輩である長野浩平(奥田瑛二)からの教え「病院のカルテではなく人を見る」を実践しようと奮闘する。

■髙橋伴明監督「これが遺作になるかも…」

「TATTOO<刺青>あり」(1982年)、「愛の新世界」(1994年)などで知られる高橋監督は1949年生まれ。65歳を迎える頃から死を身近に感じるようになり、自分なりの理想的な死に方を「延命しない、痛くない、苦しくない」と見定めているという。だからこそ在宅医療の考え方に強く共鳴。以前から読んでいた長尾医師の著書を題材にした本作の映画化では自ら脚本も手掛けた。「TATTOO<刺青>あり」で主演を務めた宇崎竜童も、末期の肺がん患者役で出演している。

「この映画は私なりの『死に方』の提案。物語を通じて言いたいことは力まずに言えたと思う。もしかしたら遺作になるかも(笑)」

「どんな死に方をしたいかは家族にも伝えているし、日本尊厳死協会にも入っています。東京の今の家は2階建てで、その2階が生活の中心なのですが、よく考えたら死んだ後に運び出すのが大変だな、と。で、もともと国立市に住んでいたこともあって、そこに戻ることにしました。1階で寝ます。ベッドも壁際ではなく、どこからでも見てもらえるよう周囲に隙間を空けて部屋の中央に置くことを考えています」

一方、長尾医師は「これまで本に書いたり講演で話したりしてきたことが、見事に組み込まれている。他の医者にも見てほしいくらいです」と映画の完成を喜ぶ。

「フィクションなどでは死は美しく描かれすぎる嫌いがありますが、当然、美談では済まない部分がたくさんあります。そういう難しい側面も、この映画ではちゃんと表現されているのが嬉しく、そしてありがたく感じました」

「それに、僕は在宅原理主義には反対なんです。看取ることは結果であって、目的ではない。(病院か在宅かに関わらず)ちゃんとした医療を受けて、長く生きて、毎日を楽しんで、好きなものを食べて、酒も飲める。これを実現することこそが、医者の仕事だと思います」

■コロナ禍で看取りの現場に異変

実は同時期に、長尾医師の日常を追ったドキュメンタリー映画「けったいな町医者」も公開される。これは将来「痛くない死に方」がソフト化された際に収録する“おまけ映像”のような位置づけとして撮影がスタートしたが、急遽、関連作として全国の劇場で上映されることに。長尾医師が全力で走り、怒り、泣き、歌い、そして看取る姿が、時にユーモラスに、時に生々しく描かれている。

撮影を終えたのは、コロナ禍直前の2020年1月。長尾医師によると、その後、看取りの現場にはある異変が起きているのだという。

「一言で言うと、死が分断されています。家族が看取りに立ち会えないんです。旅立つ人に触れることはおろか、面会もできません。理不尽な時代、けったいな時代ですよ。死に行く人も家族もみんな、感染の有無に関わらずマスクを着けてますしね」

「『痛くない死に方』と『けったいな町医者』は、本来あるべき最期のお別れの形を描いています。人とのお別れでは、やっぱりこういう風に優しく触れてあげたいじゃないですか」

「コロナ禍のせいで、死の現場がますますおかしくなっている」と危惧する長尾医師。2本の映画が描く“理想の死に方”は今後、どう変わっていくのだろうか。

(まいどなニュース・黒川 裕生)

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