スーパーの駐車場で大声アピール、駆け寄ってきた白猫を保護…実は耳が聞こえなかったが、すぐ幸せな家族に
スーパーの駐車場で大声で鳴いていたななちゃん。たくさんの猫を保護した経験を持つ村上さんでも、これほど大きな声で鳴く猫は初めてだった。獣医師に診てもらったら耳が聞こえていないということが分かった。ななちゃんはFIV(猫免疫不全ウイルス)にも感染していた。
■大声で鳴いていた白猫
2016年9月12日、埼玉県に住む村上さんは仕事からの帰宅途中、どこからか猫の悲痛な鳴き声が聞こえてくるのを耳にした。愛猫家で、何匹も猫を保護した経験を持つ村上さんは猫を探したが、どれだけ探しても姿が見えなかった。初めに猫の鳴き声を聞いた場所からだいぶ離れて、大きめの道路を横切った先のスーパーの駐車場で白い猫が鳴いていた。
村上さんが見ていることに気づき、村上さんのほうに駆け寄ってきた猫。村上さんは、
「そんなにお腹がすいているの?ちょっと待っててな」と言ってごはんをあげた。猫はあっという間にぺろっと食べて、おかわりもした。それでも、白猫は大きな声で鳴いていて、村上さんは少し違和感を感じたという。
■FIV陽性で耳も聞こえていない
スーパーの店員に聞いてみると、最近住み着いた猫のようで、お客さんがごはんをあげているということだった。
店員は、「バスが通る交通量の多い道路沿いということもあり、この子のためにも保護してもらったほうがいいと思う。ぜひお願いします」と言った。
村上さんは動物病院の獣医師の協力を得て捕獲機を設置。白猫は、たった10分で捕獲機の中に入った。すでに病院は閉まっている時間だったが、獣医師はそのまま受け入れて、翌日不妊手術をしてくれた。
声が尋常でないほど大きく、ずっと首をかしげた状態でいたので脳か耳の病気ではないかと村上さんは思った。獣医師は耳が聞こえていないし、FIV陽性だと言った。
「さすがに自宅の猫の数が増えすぎたので今度は里親を探そうかなと思っていたのですが、ハードルが高すぎます。当然、外に返すわけにもいかず、私が飼う決心をしたのです」
■声の大きさは誰にも負けないにゃ
白猫はやせていて、三角形の顔をしていた。村上さんは「苦労してきたんだな」と思った。しかし、スーパーの店員の中には、この子のことをとても心配して、気にかけていた人もいた。
「優しい店員さんやお客さんからごはんをもらって食いつないでいたのでしょうね。目が合うと走り寄って、でも、一定の距離を保って人間と接していたようです。私もまんまと策略に乗ってしまいました(笑)」
耳が聞こえないため自分の声の大きさが分からず、大音量で鳴き続ける猫。窓を開けたら2ブロック先まで、窓を閉めていても十分外に漏れてしまう。
「聞いた人は何事かと心配するだろうなと。ご近所に事情を説明して、お騒がせしていることをお詫びして回りました。幸い優しい方ばかりで、ご理解いただき一安心しました」
ずっと首をかしげているので、名前はななちゃんにした。斜めのななちゃん。「なんてしっくりくるいい名前!」
■いつもルンルン、前向きな猫
ななちゃんはとにかく明るく、前向きでへこたれないという。
「いつでも頭の上に音符が踊っているような、そんな子です。普通に歩く姿もスキップに見えるほど」
耳が聞こえないハンディを全く意に介さず、生活にも支障はないようだ。ただ、呼びかけても聞こえないので、動作を大きくしたり、壁や床を叩いて振動で伝えたり工夫している。ななちゃんは村上さんの口の動きをじっと見て理解し、通じ合えているように感じている。
FIVについては血液が混じるようなけんかをしなければ、感染力は弱いウイルスなので問題ないという。みんなとの相性を見ながら考えようと思っていた。隔離期間をあけてみたら、まったく心配ないほどみんなななちゃんに優しく接した。
「ずっと一緒に暮らしてきた家族のようにすぐに打ち解けてくれたので、今では他の子たちと変わらずフリーで生活しています」
大好きなおもちゃは電気コードをグルグル巻いて保護するグッズ。50センチほど余ったもので遊んでみたら、「ななのぐるぐる」と認定したようで、くわえて遊びに誘いに来る。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)