家族に迎えた日に分かった病…話題の3COINS『猫のひげケース』愛猫との切なくも温かい日々胸に 開発者の思い
抜け落ちた猫のひげをしまう--。ただ、それだけのために作られた商品がある。3COINSで販売されている『ひげケース』(税込330円)だ。
実は愛猫家には、抜け落ちた猫のひげをジップロックなどで大切に保管している人が少なくない。そんな人たちの心を刺激したのか、『ひげケース』は昨年10月末の発売と同時に即完売。再入荷してもすぐに店頭から消えてしまうほどの人気を集めている。
SNSでも「やっと手に入れた!」という声のほか、「なんなんですか!この素敵な商品は!」「こういうのがほしかった!」「スリコさん、飼い主の気持ちわかってる!」といった投稿が。
そう、これは「わかっている」から生まれた商品。企画を担当した商品部バイヤー・小早川沙織さんの今は亡き愛猫・クルーシー君への想いから開発されたからだ。
■すべてが大切な思い出だった
クルーシー君は、小早川さんにとって初めてのペット。ずさんな飼育管理から行政指導が入り、急遽閉店が決まったねこカフェから引き取ったという。
「5歳の成猫で気性も荒く、叩いたり噛んだりしてきましたが、私は一目ぼれで『この子!』と決めた。だから迷うことなく連れて帰りました」。
しかしなんと、その帰り道でクルーシー君に異変が起こった。
「ハァハァという口呼吸が止まらなくて。急いで病院に連れて行ったら『肥大型心筋症』と診断されました。心筋症からくる肺水腫で呼吸困難になっていたんです」。
家族に迎えた日にわかった重い病気。さらに医師からは「おそらく5年も持たない。血栓ができたら余命1年だと考えてほしい」と告げられた。
しかし小早川さんとクルーシー君は、そこから約5年間、力を合わせて生き抜いた。
定期検診と投薬を続け、頻繁に肺水腫を起こすようになった8歳頃からは酸素室をレンタル。9歳になり、ついに血栓ができたときには、「1年は生きようね」とクルーシー君に声をかけ、朝晩の皮下注射や毎日のマッサージも取り入れ、1日でも長く一緒に暮らせるように献身的にサポートした。
「徐々に這ってしか歩けなくなり、呼吸も苦しそうになっていきましたが、トイレだけは自力で行っていた。生きようとがんばってくれていたんだと思います」。
そして、血栓ができた日から約1年後の冬の日の夜、クルーシー君は帰りを待っていたかのように、職場から帰宅した小早川さんの腕の中で息を引き取った。
「いつまで一緒にいられるかわからないという毎日だったので、思い出の一つひとつを大切にしたかった。それで取っておいたのが、ひげやカットした毛玉です。お気に入りの缶に入れていましたが、蓋を開けるとクルーシーのにおいがするんですよ」。
いつも一緒に映画を見ていたこと、腕枕で寝てくれたぬくもり、膝の上でぐるぐると喉を鳴らす音…。
においと共によみがえるのは、一緒に過ごした幸せな時間。小早川さんは「この思い出の品がペットロスを乗り越えさせてくれた」と語る。
「私と同じように、メモリアルを大切にとっておきたい人は少なからずいるんじゃないか。さらに低価格なら喜んでもらえるのでは?と思って、ひげケースの企画提案をしました」。
しかし、当時の小早川さんは商品企画部に移動したばかり。開発実績がなかったこともあり、その提案に「ニッチすぎる」と難色を示す上司もいた。しかし、メモリアルを残しておきたい飼い主の気持ちを伝え、「どうしても作りたい!」と主張。そうして小早川さんの商品第1号となる「ひげケース」「毛玉ケース」が完成した。
■猫のひげは幸運を呼ぶ!?
その後も、さまざまなペット商品を開発している小早川さん。SNSでも話題になった「木製ペットベッド」「ペット用お布団」も彼女の企画商品だ。
「クルーシーが病気だったこともあり、商品は安全・安心に一番気を配っています。たとえば猫じゃらしも、誤飲が怖いから鈴はできるだけ外しますし、接着剤の使用も最小限に抑えている。これからも、安くてかわいくて安全な商品を開発して、ペットと飼い主さんの素敵な時間をサポートできたら、と思います」。
日本では金運アップ、ヨーロッパでは恋愛運アップのお守りになるとも言われている猫のひげ。『ひげケース』に大切に保管しておけば、いつもそばで見守ってくれるあなただけのお守りになってくれるかもしれない。
(まいどなニュース特約・鶴野 ひろみ)