不登校児の新しい居場所「特例中学校」が岐阜市に開校 義務教育の間もそれぞれの子にあった選択肢を
友人のYさん(40歳・大阪府在住)は、現在高校生と中学生の息子さんを育てているシングルマザーです。そのYさんの息子さんたちが不登校だと聞いたときには驚きました。数年前に会ったときにはとても楽しそうに通学していたからです。
Yさんの住む市にも適応指導教室が一応はあるそうなのですが、開店休業のようで機能していないとのことでした。かといって、フリースクールは高額で、シングルマザーのYさんは毎月の支払いを考えるとなかなか通わせてあげることもできません。
この先の息子さんの居場所について悩んでいたときに、ちょうど岐阜市の特例中学校のことを知ったとのことでした。2021年4月に開校する、中部地方で初めてできる公立の「不登校特例校」だといいます。
不登校特例校とは、学習指導要領にとらわれず、不登校生の実態に配慮した特別な教育課程をもつ学校のことで、2020年4月時点では全国に13校があるといいます。
岐阜市の学校は「ありのままの君を受け入れる新たな形」をモットーに、個に応じたケアや学習環境の中で心身の安定を取り戻しつつ、新たな自分の可能性を見出すことを目指すといいます。これまでの学校のシステムに合わせることに疑問を感じ、不登校を経験したり、いままさに悩み苦しんでいる生徒達にとっては、希望の光となるようなシステムだと思います。授業のモデルとして
1:家庭学習が基本
2:週数日登校
3:毎日登校
の3パターンが提示されていますが、実際は学習の進み具合や生活実態に合わせ、個別に教育課程を編成していくとあります。個別の学びを実現するために定員は40人。各学年1クラス、1年生10人、2、3年生は各15人の予定だそうです。説明会には定員を大きく上回る3倍の希望者が集まり、また、公立のため岐阜市への引っ越しを検討されている市外のご家庭もあることから、需要の高さがうかがえます。
■義務教育とは?
文部科学省によると、不登校児の数は過去最多を更新し18万1272人となり、7年連続で増加の一途をたどっています。
そもそも、学校に通う「就学」については「保護者は、子の満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満12歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う」(学校教育法第17条第1項)、また「子が小学校又は特別支援学校の小学部の過程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満15歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、中等教育学校の前期過程又は特別支援学校の中等部に就学させる義務を負う」(同条第2項)と定められています。
つまり「義務教育」とは、「保護者が教育を受けさせる義務」であって、「子どもが教育を受けなければならない義務」ではありません。子どもが教育を受けることは、義務ではなく権利になります。しかし、文部科学省は、インターナショナルスクールやフリースクールなどへの就学については「就学義務を履行していることにはならない」としており、自宅で教育を受ける「自宅学習(ホームスクーリング)」についても同様になります。
■「教育」の多様化
不登校児の居場所として、フリースクールなども増えてきており、それらを利用しているご家族も多くいらっしゃると思います。ですが、その子たちが世間に認められている所属場所は公立の小中学校です。Yさんが言うには、不登校の子供たちは家でゲームをしたり、動画を見たりして楽しく過ごしているように見えても、心の奥では「本来行かなければいけない場所に行っていない自分」というものに、大人が思っている以上に苦しみ罪悪感を持っているそうです。Yさんの上の息子さんは中学校を卒業後、通信制の高校に進学しました。通信制ですのでいままでと同じように家に居ることに変わりはないのですが、息子さんの表情がとても明るくなり、家族との会話や勉強に取り組む姿勢も驚くほど変化したと話していました。家に居るということは同じでも、「通信制高校」という所属場所があり、正当な理由で家に居るんだと子ども自身が思えることで、罪悪感を持たずにさまざまな事に前向きになれるのだろうということでした。
中学校卒業後は全日制高校、定時制高校、通信制高校、就職など、その子に合った場所を選択することができます。しかし義務教育期間は、私立学校を除いては居住する地域で定められた学校に通うという選択肢しかなく、そこが合わない子どもには他に選択できる場所がないのが現実です。
フリースクールなど、不登校児が安心して居心地よく過ごすことができる場所が増えてきたことはとてもいいことだと思いますが、Yさんのようにシングルマザーで経済的にも難しい方もいます。そんな中、公立でさまざまな学習スタイルに適応した「学校」が全国的にも展開され創設されることは、「個」が重視されるこれからの時代にもマッチしているのではないかと思います。
私の身の回りには、子どもはまだ小さいですが、大きな声や音が苦手など聴覚過敏なところがあり集団の中にうまくなじめるのか心配している人たちがいます。
義務教育の本来の目的は、子供たちが自分で生きる力を育む土台となる基礎を身に付けるというものです。インターネットが発達した現代社会で、これからの「教育」はますます多様化し、学び方の選択肢が増えることが大事になってくることと思います。
(まいどなニュース特約・長岡 杏果)