「猫はショップで買う」の固定観念を排した出会い 保護猫に目尻を舐めてもらい、感動してまた涙
「可愛い」「かわいそうだから」と言って野良猫にエサをあげる人がいるが、不妊手術はしないことが多い。しかし、猫の繁殖力は強力で、最初はたった2匹でも1年に50匹、60匹に増えることもある。そうなってくると、個人の力ではどうにもならない。市役所や保健所には「悪臭がする」「糞尿被害で困っている」という苦情が寄せられて発覚したり、ボランティアが気づいて介入したりする。
■野良猫にエサを与えていたら、あっという間に繁殖
東京都の住宅地で、自宅の庭で野良猫たちにエサを与えている人がいた。やはり不妊手術はしていなかったので次第に繁殖して増えていった。保健所が介入し、保護団体に成猫の不妊手術と子猫たちの捕獲と里親探しを依頼した。
ボランティアたちは長年に渡り、地域の猫達の不妊手術を手伝った。ただそのときは、手術を受ける前に妊娠した猫がいて、そのときは5匹の子猫を出産してしまった。
2020年10月14日、子猫たちは手で捕まえられるような状態ではなく、捕獲器をしかけて捕まえた。まず2匹入り、また仕掛けると2匹入った。最後に1匹残ったその子はパニックになるので心配したが、粘って待つと、やっと捕獲器に入ったという。その最後の1匹が後に「うり」と名付けられたオスの子猫で、きょうだいの中では1番大きかった。
■初めて参加した譲渡会
一方、都内に住む中野さんは、猫を飼うことを長年夢見ていた。時々、買い物のついでにペットショップをのぞいていた。「そこで気に入った子がいたらいつか買おう」。もちろん、そのころは保護猫の里親になるとは想像していなかった。そもそも猫はショップで買うものだと思っていた。
従兄弟から「里親が見つかるまで子猫を育てるボランティアをする」と連絡があった。従兄弟の家に行ってみると、まだ小さい子猫が4匹いた。
「今まで子猫に触れる機会がなかったので、たびたび従兄弟の家に行くようになりました。このことがきっかけになり、夫婦で何度も話し合い、保護猫の里親になると決めたんです。いつの間にかペットショップで猫を買おうと思わなくなっていました」
譲渡サイトでうりくんを見つけて中野さんは一目惚れした。うりくんが都内の保護猫ボランティアグループ『ミャオ!ねこのおうち譲渡会』の譲渡会に参加する予定になっていた。
「初めて譲渡会に参加するので緊張しました。私たち夫婦はインドア派なんですが、この時ばかりは早めに行ったほうが、熱意が伝わるのかな?なんて話しながら、譲渡会が始まる時間に合わせて朝一番に行きました」
2000年11月8日、譲渡会に行った。会場にはたくさんの猫がいたが、中野さんはすぐにうりくんを見つけた。きょうだいたちと一緒のケージに入っていて、小さな身体で他のきょうだいを守るように中野さんを見ていた。「改めてこの子の里親になって、家族になりたいと思いました」。そのとき保護主はうりくんの性格や保護したときの様子を細かく教えてくれた。
■悲しくて泣いていたら慰めてくれた
譲渡会後、トライアル期間を経て正式に里親になることが決まった。11月15日、保護主が家までうりくんを連れてきてくれて、猫を飼うのが初めての中野さん夫婦に丁寧に飼い方を教えてくれた。
夫婦2人で必要なものを買い揃えるための買い物リストを作ったが、「爪研ぎ」と書こうとして「瓜研ぎ」と書いてしまったので、うりくんという名前にした。
うりくんはおとなしくしていたが、目が落ち着かない様子だった。3日ほどケージの中で過ごさせ、徐々になでて触れるようにした。ケージの外に出すと何事にも興味津々。壁やカーテンが傷つくのは覚悟していたが、意外と市販の爪研ぎだけで満足したようだった。
甘えん坊で活発なうりくん。名前を呼ぶと振り向くか鳴くか尻尾を振って答えてくれる。毎朝、ケージから出すとカーペットの上に寝転がり、そのあと膝の上に乗ってきてゴロゴロ喉を鳴らすのがうりくんの朝の日課だ。
「おもちゃを投げるとくわえて戻ってくる犬みたいな猫なんです。猫とは一緒に遊ぶことができないと思っていたので予想外でした」
うりくんが来てから中野さんは悲しいことがあって泣いたことがある。うりくんは膝に乗ってきて、そのあと目尻を舐めてくれた。
「悲しくて泣いていたのに、うりのその行動に感動してまた泣いてしまいました」
夫婦は、暇さえあればデパートに行って猫用品をみたり、気になることがあれば動物病院や保護主に電話で相談したりしている。夫は結婚した時より活動的になった。中野さんは、コロナ禍、在宅ワークになって少し不眠気味になっていたが、うりくんが来てから以前より眠れるようになり、生活のリズムが整った。1匹の保護猫との出会いで、中野さんは生活に潤いを感じられるようになった。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)