散歩もしたことがなかった元繁殖犬、18歳&19歳のご長寿コンビはペンションの看板犬に

 琵琶湖畔を走る幹線道路からほんの数分、車を走らせると、“森のかくれ宿”というフレーズがぴったりのペンション『シープ』(滋賀県高島市)があります。「ワンちゃん、ネコちゃんが主人公」をモットーにしたペット同伴可の宿で、部屋も食堂もケージやクレートは必要なし(ネコちゃんは入ったほうが安心するかも)。筆者も愛犬と泊まりましたが、スタッフがきめ細かい目配り、気配りをしてくれるので、「うちの子、大丈夫かな?」という初心者でも安心して宿泊できそうです。広~いドッグランと犬用プールもあります。

 シープのホームページには「看板犬」「看板ねこ」という項目があり、かわいいワンニャンの写真が掲載されています。オーナーの浜田さんご一家はこれまでに犬猫あわせて28匹を飼ってきたそうで、そのすべてが保護した子たち。現在「看板犬」として紹介されているのはウエストハイランドホワイトテリア(ウエスティ)のプリンちゃんとチワワのボンボンちゃんで、どちらも“優良”とは言い難いブリーダーの下で繁殖犬として飼育されていました。

「プリンは6年半、何度も出産させられていたようです。コンクリートに囲まれた無機質な部屋の中にいて、引き取るとき『散歩したことないから歩かないと思う』と言われました。ケージから出してもらえるのは交配のときだけだったんでしょうね。うちに来た頃は歩き方がおかしくて、側溝にハマったこともありましたし、目が見えていないんじゃないかと思ったくらいです」(浜田さん)

 浜田家にやって来たのは12年前。つまり、プリンちゃんはもう18歳なのですが、今も元気にお客様を出迎えていて、「プリンちゃん」と呼ばれると、トコトコとかわいらしい足取りで近づいてきてくれます。当たり前だと思われるかもしれませんが、最初は名前を呼んでも反応しませんでした。きっと、名前も付いていなかったのでしょう。声を掛けられたことすらなかったかもしれません。「1か月半くらい名前を呼び続けて、やっと認識してくれました」と浜田さん。その後は“急接近”したそうで、ドッグフードも手作り食も食べなかったのが、名前を認識してから食べてくれるようになったそうです。

「ただ生きているだけで、心の扉は閉ざしていたんでしょうね。『プリン』として生きていっていいんだと分かってようやく鍵を開けてくれた気がします」(浜田さん)

 おぼつかなかった足取りも毎日の散歩でしっかりしてきましたし、目と耳が正常であることも分かりました。遊びを覚えると「感情が表に出るようになった」(浜田さん)そうです。宿泊しているワンちゃんとの交流も大好きで、朝ごはんの時間になると食堂でスタンバイ。立派に“看板犬”の役割を果たしています。昨年秋にはこんなことがありました。

「12歳のウエスティを連れたお客様が来てくださったんです。他の犬が苦手だとおっしゃっていたのですが、プリンに会わせると一緒に遊んで、ドッグランへの道をプリンが走るとその子も走ってついていきました。ごはんを食べなくなって、1週間に3回も病院で点滴を打っているような子だったのに。おうちに帰ってからも元気で、自分でごはんを食べられるようになったと報告してくださいました。プリンに会って他のワンちゃんが元気になってくれるのはうれしいですね」(浜田さん)

 もう1匹のボンボンちゃんも元繁殖犬。たまたま立ち寄ったブリーディングもしている大きなペットショップで出会いました。

「表には普通に売られている犬がいたのですが、小学生だった息子が『あっちにいる子が気になる』と。お店の奥のサークルにたくさんの犬が入れられていたんです。息子がボンボンを抱き上げて『この子が欲しい』と言うと、『持ってって。もう繁殖に使われへんからやるわ』って。ボンボンも6~7年は繁殖に使われていたようです」(浜田さん)

 こちらは一応、名前が付いていたそうですが、過去を忘れてほしいと新しい名前を考えました。「これからうちで平凡でもいいから幸せになってもらおう!」というのが名前の由来。その通り大切に育てられ、なんとプリンちゃんより年上の19歳になっています。

「空気が読めないから(笑)」(浜田さん)という理由でお客様の前にはあまり登場しませんが、たまたま出てきたとき、「亡くなったうちの子にそっくり!」というお客様がいたそうです。その方は「ボンボンちゃんが元気なうちはずっと来るから」と、今も毎年通ってくださっています。

(まいどなニュース特約・岡部 充代)

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