「畳の上は気持ちいいにゃ」畳屋さんの看板猫“たたみちゃん” 部屋の畳で爪を研ぐのが悩みの種

 福岡県筑後市にある「近本畳工業」は明治8(1875)年創業の老舗畳店。4代目で畳職人歴30年になる近本秀明さん(64)、妻で広報担当の由美子さん(57)の飼い猫は、その名も「たたみ」ちゃん(メス、3歳)。工場の隣にある畳敷きのショールームでは、栽培にこだわったい草を用いた畳の心地よさなどが体感できる。たたみちゃんはそこでくつろいだり、気持ちよさそうに寝ころんだりしながら、気ままにお客さんを出迎えている。由美子さんに出会いや接客ぶりなどを聞いた。

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 由美子さん 長い間、うちではずっと犬を2匹飼っていたのですが、2015年と16年にどちらも17歳で虹の橋を渡り、喪失感からペットはもう飼わないと決めていたんです。でもやはり寂しくて…。時々、買い物帰りにペットショップの前で立ち止まり、今度飼うなら、犬よりも自由きままな猫の方がいいかなあ、なんて思いを巡らせたりしていました。

 愛犬たちがいなくなって1年が過ぎた17年12月、近所の公民館で体操教室を催していたとき、知人女性の携帯待ち受け画面が猫の写真だったので、「あら、かわいい猫ちゃんですね」とたまたま声をかけたんです。すると彼女から「猫好きなんですか?いま、飼い主を募集している赤ちゃん猫がいるので、一度見てみませんか?」と言われたのが、たたみと出会うきっかけになりました。

◆駐車場で鳴いていた子猫を保護

 たたみは4匹の子猫の中の1匹でした。久留米で美容院を営む夫婦が、駐車場で鳴いていたところを保護したとのこと。初めてみたときは「お願いだから連れて帰って」といわんばかりのつぶらな瞳で、申しわけなさそうな表情を浮かべていたのが忘れられません。翌春、長女が大学進学のため家を出て、私たち夫婦だけの生活が始まるとの事情もあり、引き取ることに決めたんです。

 うちに来たときは生後2、3週間くらいだったので、しばらくは哺乳瓶でミルクをあげていました。その頃はおとなしくて、すごく可愛い子だったんですよ。ところが、大きくなるにつれ、猫用の爪研ぎを買って設置してるのに、わざわざ部屋の畳でガリガリ爪を研ぐようになって…。最初はストレスがたまっているのかなとも思ったんですが、どうやら畳で爪を研ぐのが気持ちいいみたい(笑)。爪を切ろうとすると大暴れして切らせてくれないし、商品に手を出すことはないので、部屋の畳ならまあいいかと、いまは半ば諦めているんです(笑)。

◆たたみちゃんは最も気持ちいい場所を知っている

 たたみは、温度や光の当たり方、肌触りとか、家の中でそのとき最も気持ちいい場所を知っていて、お気に入りの場所がいくつかあります。特に夏や冬は畳敷きの部屋が快適なようで、気持ちよさそうによく寝ころがっていることが多いですね。い草の香りも落ち着くみたいです。猫と畳って、昔から相性がいいんですよね。

 最近はライフスタイルや住宅事情の変化などの理由で畳離れが進み、畳替えをするご家庭は年々減っていますね。いま、あえてお金をかけて畳替えをしようという方は、家族が笑顔で心地よく過ごすということに、価値や重きを置いておられる方が多いように感じます。

 たたみはお客さんが来たら、「私、かわいいでしょ」という感じで自分から近づいていくのに、しばらく撫でられると、噛みつきはしませんが、「もう構わないで」という態度にでます。そうやって偉そうにしたかと思えば寂しがりの面もあって、しばらく相手をしないと私たちがいる所にやってきて、足にスリスリしてきます。誰に媚びるでもなく、いつも自分が心地いいことに基準を置いて、生きることを純粋に楽しんでいるように見えます。

 これまで私は、仕事を何度も辞めたり、親の反対を押し切って夫と結婚したりと、けっこう好きなことを自由にやってきて、周囲に心配をかけてきたんですけど、たたみを見ていると「自分の気持ちに正直に、ありのままの自分で生きればいいんだよ」ということを示してくれているような気がするんですよね。たたみと私ってよく似ているなと思います。たたみといると、自己肯定感あがります(笑)。

 いまは時代が大きく移り変わろうとしている時期。「これからは、自分らしく好きなことをしながら生きていける時代になっていく」とよく言われていますよね。猫はそんな時代の象徴だと思うんです。

(まいどなニュース特約・西松 宏)

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