先住猫に遠慮し、気配を消して暮らすこと1年…甘え下手な猫が精一杯の「スリスリ」をしてくれた!
モフモフでゴージャスなモフさんは、サイベリアンのように見えますが元野良猫。今年で7歳ぐらいです。生後約1年で保護されました。その頃からモフモフの女の子だったみたい。
ゴージャスな見た目とは裏腹に、モフさんの性格はとても控え目。一緒に暮らす10匹の猫たちと積極的に遊んだり、飼い主のHさんにグイグイ甘えたりはしません。お気に入りの段ボール箱の中でゴロンゴロンしたり、うつらうつらしたりがモフさんの日常です。
そんなモフさんが暮らす東京都大田区は、一昔前まで町工場が立ち並ぶ工業地帯。しかし、バブル崩壊にともない大企業が海外へ工場を移転をしていき、この工業地帯の灯は一つまた一つと消えていきました。残されたのは、誰もいない工場と倉庫。
人がいなくなった場所に居つくのは、野良猫です。モフさんも人が少なくなった工業地帯で、母猫やきょうだい・いとこ達と暮らしていました。ただ、モフさんが生まれたころには再開発が始まり、野良猫が棲みにくい街になりつつあったのです。
これを見かねて個人で猫の保護活動を行っているHさんが、モフさん保護に乗り出します。保護猫を飼いたいという人も確保。
ところが、飼い主候補の気が変わってしまいます。これにより、モフさんはHさんの家の子に。加えて、避妊手術で怖い思いをしたモフさんは重度の人間不信に陥りました。
さらなる受難は、控え目な性格のモフさんとは正反対の性格で同性の猫が、すでにHさん宅にいたこと。新入りのモフさんは肩身の狭い思いをしてしまいます。
こうしてモフさんは、飼い主のHさんの前にすら姿を見せない家の中の「野良猫」になってしまいました。写真を撮ることなんてできやしません。
忍者のように気配を消して暮らす日々が1年弱、モフさんに転機が訪れました。性格が正反対の猫の里親が決まったのです。
その子がいなくなって数日経った日のこと、Hさんがいつものようにテレビの予約録画の操作をしていました。するとモフさんが、足元にスリスリしてくれたのです。この時のことをHさんはこう言います。
「ビックリしました。この機会を逃してはならないと思いましたが、大喜びをしたらモフが驚くかと思って、この時は軽く“有難うね“で済ませました」
続けてHさんは、こうも言いました。
「モフは遠慮していたのかもしれません。里親さんのところに行った子は、グイグイくる甘え上手の子でした。その子が甘えたいのなら、自分は我慢しようと思っていたのかもしれません」
猫は案外空気を読むもの。特に家族で野良猫をしていたモフさんなら、猫なりの社会性もあります。ここがずっとの家であるモフさんは、出ていく子に遠慮をしていた可能性は十分に考えられます。
それでも、一度甘えることを覚えたモフさんは、Hさんが一人になった時を見計らって甘えてくるように。
猫を飼い始めて約40年のHさん。猫のことは熟知していると思い込んでいました。しかし、多頭飼いだからこそ猫の性格に気を配ってあげれば良かったと、今になって思うそうです。特に女の子同士の猫の相性は、男の子以上に気を遣うべきだったとも。
現在、Hさんは控え目な性格のモフさんに声をかけ続けます。分かってあげられなかった分、愛情を込めて。
モフさんは、Hさんが名前を呼んでスマホを向けてくれるのを楽しみに待ちます。この時は、Hさんが他の猫を見ないでくれる瞬間だからです。全部同じような写真でも、モフさんにとっては大切なもの。
多頭飼いでも飼い主と猫、1対1の関係が築けなければならない。それをHさんに教えてくれたのがモフさんだったようです。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)