「ぼくは先生の一番弟子だにゃ」能楽師の先生とお弟子さんの稽古を見守る“猫支配人”のみぃちゃん

 福岡県糟屋郡宇美町にある「猫と花の隠れ家 おうちギャラリー 馬場文化堂」。民家の一室に猫アート・雑貨専門ショップがあり、奥座敷では能やヨガ、編み物、おはなし会などの文化教室を開催している。店主・馬場和子さん(59)の飼い猫「みぃ」(オス、推定12歳)はお能教室が大好き。能楽師の先生とお弟子さんたちの稽古をそばで見守っている。馬場さんに、みぃの“猫支配人”ぶりを聞いた。

 馬場さん ギャラリーでは猫アート・雑貨販売、お庭ではガーデニング教室、奥座敷では能、ヨガ、編み物、文章添削などの文化教室を催しています。みぃちゃんは、能の謡(うたい、能の声楽にあたる部分)が心地いいのか、なぜかお能教室が楽しくてしかたないみたいなんです。

 稽古の日は朝からそわそわして窓の外を見ています。先生はシテ方宝生流の女性能楽師・久貫弘能(くぬき・ひろの)さん(重要無形文化財保持者・総合認定)。みぃちゃんは先生が乗る車の音をちゃんと覚えていて、車がやってくると、タタタッと玄関まで走っていき、真っ先に先生を出迎えます。まるで「ぼくは先生の一番弟子だ」って思ってるかのようです(笑)。

 稽古が始まると、先生とお弟子さんの様子をそばで座ってじっと眺めていたり、みなさんの間を見回ったりしています。

 先日はこんなハプニングがありました。稽古中、畳の上にスマホを置いて、囃子(はやし)を再生しているんですけど、みぃちゃんがそのスマホの停止ボタンを偶然踏んづけてしまったんですよ。みなさん、真剣に稽古されていたので、かまってくれなかったのが寂しかったのかもしれません。突然、音が止まって稽古は中断。やらかしたのがみぃちゃんだったので、先生もお弟子さんも大爆笑でした。

 みぃちゃんが初めてうちの庭にやってきたのは2010年9月のある日。外出先から戻ってきて門を開けたら、向こうから走ってきて私の足にスリスリしてきたんです。成猫で毛並みもきれいだったので、最初はどこかの飼い猫だろうと思い、「おうちへ帰りなさい」と言ったんですよ。

 でも、ずっと庭にいるんです。たぶん捨てられたんでしょう。私が買い物へ行くため近くのバス停まで歩いていくと、後をついてくることもありました。危ないので、それならむしろ庭にいてくれた方がいいわと、気づかれないよう、こっそりタクシーを呼んで出かけたこともあります。次第に家の中にも入ってきたので、うちの子になりなさいと。

 実は私、その数年前からしばらくうつがひどくて、ずっと寝たり起きたりの生活をしていたんですよ。好きで集めていた猫雑貨を一部屋に集めて店(おうちギャラリー)を開いたのは2016年。私のように引きこもっている人や猫が好きな人などが、すっぴん、サンダルで気軽に寄れて、おしゃべりできる場があったらいいなと思って。みぃちゃんがずっとそばにいてくれたから、元気になり、店を開くこともできました。

 ギャラリーのテーマは「無理して元気にならんでよかろうもん」。何らかの悩みを抱えておられる方、猫雑貨が好きな方など、お客さんは様々ですが、みぃちゃんは人なつこくて、やってきた人に遊んでもらうのが大好き。次第に「みぃちゃんにまた会いたい」という方が増え、今ではすっかり来訪者を癒す“猫支配人”になっています。

 うちではたまに、保護された子猫を里親が見つかるまでの間、預かることもあるんですけど、みぃちゃんはそんな子猫に対しても面倒見がいいんですよ。じゃれあっているとき、子猫が噛みつきすぎると、加減を教えたり、走り回るやんちゃな子には早く寝るように促したり。ごはんのときは、他の猫が食べたのを確認してから、自分の分を食べ始めることもあります。

 人や猫のそばで、さりげなく寄り添ってくれる紳士です。もし世界中の人間がみぃちゃんみたいだったら、世界は平和だろうなあと思うほどなんです。

(まいどなニュース特約・西松 宏)

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