ナガシマの絶叫マシン「白鯨」の内部に潜入 世界中のジェットコースターを知る男が迫る「造形美」
世界中を飛び回り400以上のジェットコースターに乗った「ジェットコースター男」さんが、三重県の巨大遊園地・ナガシマスパーランドにある名物絶叫マシン「白鯨」の内部に潜入! 巨大なアート作品のようにも感じられるコースターの造形美に迫りました。関係者しか見ることのなかったアングルの写真をまじえながら、知られざる白鯨の魅力を紹介します。
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「白鯨」はナガシマスパーランドが誇る、日本初の木と鉄のハイブリッドコースター。1994年にオープンして話題になった世界最大級の木製コースター「ホワイトサイクロン」を鉄で補強して2019年にリニューアル。木製では実現できなかった激しく揺さぶられるトリッキーなコースレイアウトが魅力のジェットコースターである。
普通の人は、ジェットコースターは乗って楽しむものと思っているかもしれない。確かに、スピードや浮遊感を体感するのは一番の醍醐味だ。しかし、マニアの中には乗るだけではなく、走行している車両やうねうねと曲がりくねったレールを眺めて楽しむという強者も存在する。鉄道マニアの撮り鉄のように、ジェットコースターマニアもお気に入りのポイントで写真を撮影して眺めて楽しむのである。
白鯨は木製コースター時代の白い木組みが活かされており、有名建築家が設計したようなデザインが現代アートのようで美しい。仕事や人間関係で疲れたときは、遊園地の外にある誰にも教えたくないお気に入りのポイントから夕日に照らされてオレンジ色に輝く白鯨をうっとりしながら眺めていた。ずっとずっと眺めているうちに、美しい女性に恋をするように白鯨のことが好きになってしまった。そして、いつしか白鯨の「中心」に入りたいと思うようになった。
すると、奇跡が起きた。運営元のナガシマリゾートから白鯨の中に入るチャンスをいただいたのである。2021年3月の平日、営業が始まる前の時間帯に、特別に白鯨の敷地内に入らせてもらうことができた。
事前に伝えられた待ち合わせ場所に到着すると、ナガシマリゾートの担当者(爽やかな好青年)が出迎えてくれた。ヘルメットを装着して、安全対策万全でSTAFF ONLYと書かれた扉の前に立つ。
「どうぞ…」
禁断の扉が開かれ、普段は絶対に入ることのできない場所を進んで行く。木組みの下を潜り抜け、見上げてみると幾何学模様のように重なり合った木の柱がジャングルジムのように見える。感動もつかの間、少し開けた場所に出ると目の前に夢の世界が広がった。
青空に映える白い木組みと青いレール。360度見渡しても、すべてが「白鯨」にたどり着いた。想像以上の世界に夢か現実か分からなくなり、必死で正気を保つ。白鯨で一番好きなファーストドロップ(一番最初の大きな急降下)をレールの隙間から覗き込み、天高く聳える憧れのジェットコースターに向かって想いを伝えた。
「I LOVE ♡ HAKUGEI」…叫びたい気持ちを抑え、コロナ禍のため心の中で思いっきり愛を伝える。長年の夢が叶った。
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担当者によると、これまでも白鯨内部を横断する通路に入ったことがある人はいたようだったが、「そこから更に内部へ入り、レールの隙間から顔を出したのは関係者以外では初めて」だと聞いた。コロナ禍で余裕があった時期だからこそ可能だったことかもしれない。
白鯨は約1万坪の敷地に作られた高さ55m、全長1530mのコースター。ハイブリッドコースターとしては世界的にも高さで3位、全長で2位の規模だ。
通常の鉄で作られたジェットコースターと異なり、木製コースターは強度を強くするために、木の柱を交差するように幾重にも重ね合わせる必要がある。「白鯨はレールが鉄になったのですが、木製の支柱や骨組みをそのまま活用しているので、木製コースターならではの見た目が非常に美しいジェットコースターになっています」と担当者。
「ホワイトサイクロン」時代のアメリカ松(サザンイエローパイン・特殊加工)約4千立方メートルを活用して組み立てられているといい、その木材の量は4LDKの家屋に換算すると約800戸分にもなるという。
敷地内を歩いてみると、地面にホワイトサイクロンで使用していた土台がたくさん残っている。巨大なジェットコースターの土台は基礎工事が大変なので、撤去せずに今でも埋まったままになっているのである。等間隔で並んでいる土台を辿ってみると、巨大な円形になっていた。ホワイトサイクロン時代の名物だった、台風の目のような巨大な渦をイメージした旋回コースが思い出される。美しく生まれ変わった白鯨だが、実際に中に入ってみるとホワイトサイクロンの面影が随所に残っていた。
訪れたのは営業開始の90分前。専属のスタッフたちが敷地内をくまなく歩いて、コースターに異常がないかをチェックしていた。レールの横に設けられたキャットウォーク(点検用通路)を歩いて、レールに異常がないかすべて目視で細かく点検するという。滑りをよくするためにレールにグリスを塗っている姿もあった。
実際に高所まで歩いて点検していた作業員の方に怖くないのかと聞いてみると、笑顔で「全く怖くない」とのことだった。普段点検できない箇所や細かい部分については、定期的に設けられている運休日にメンテナンスを行っているという。
敷地内やコースの点検が終わると、こんどは人型の水タンクを重りにして試運転を行う。天候や気温によって速度が変わるので、その日の状態で重さを変えるという。予備の車両も点検して、運営中に異常があった際はすぐに予備の車両を使えるようにしているそうだ。
朝早い時間帯から総出で点検して、ジェットコースターを日々安全に走らせることは大変なのだと実感した。これからジェットコースターに乗るときは、もっと感謝して大切に乗ろうと心に決めた。
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【ジェットコースター男】ジェットコースターに乗ることが生き甲斐のマニアで、世界420機種のジェットコースターに乗車。日本国内のジェットコースターはすべて制覇しており、次は乗車数500を目指してジェットコースターに乗る日々を送っている。ジェットコースターに乗るだけではなく写真を撮影するのも好きで、日本発となるジェットコースター写真展を開催。SNSで撮影した写真や映像を用いてジェットコースターの魅力を発信しており、テレビやラジオなど数々のメディアにも出演している。