寿司が食べたくて…台湾で名前を「鮭魚(サーモン)」へ改名する人が続出! その背景が意外すぎた
名前にも流行があるものだが、今、台湾の若者が続々と本名を「鮭魚」へ改名しているという。「鮭魚」とは、文字通り魚のサケ、サーモンである。すでに135人の台湾人が「鮭魚」のつく名に改名し、ついに政府機関が「もっと名前を大切に」と注意喚起を行う騒動にまで発展。「サーモンの乱」と呼ばれるこの現象は、なぜ起きたのだろうか。
■本名を「鮭魚」に改名する台湾人が続出
サーモンの乱のきっかけを作ったのは、回転寿司チェーン「スシロー」の台湾法人だ。2021年3月、台湾スシローが春のサーモンフェアに合わせてこんなキャンペーンを告知した。それは、3月17日~18日限定で、氏名に「鮭魚」の字がつく人を含むグループ6人までの飲食代を無料にするというものだ。
台湾でも子供の名前に「鮭魚」とつけることは一般的ではない。台湾スシローの「鮭魚さんは無料」は完全にネタで、キャンペーンのメインは「鮭魚と同じ音の名前の人は飲食代が最大50%オフ」の方だと思われたが、キャンペーン初日を迎えると本名を「鮭魚」に改名した客が各地の店舗に現れたというのだ。
さらに改名済みの身分証の写真もネットに出回った。当初は、画像加工が疑われたが、台湾の大手メディア蘋果日報の調査によると17日までに台湾全土で135名が改名。多くが大学生などの若者であるという。この事態に内政部(内務省)がFacebookの投稿で、法律で改名は認められているとしながらも「自分の名前を大切にしましょう」「役所のリソースも大切に」と呼びかけるに至った。
確かに、台湾でサーモンは人気の寿司ネタだ。それに最大で6人分の飲食代が無料になるのも魅力的ではある。だが、それだけのために改名とは……日本では全く考えられないが、「サーモンの乱」が起きたのには台湾ならではの背景があった。
■台湾では生涯に3回改名できる
台湾では「姓名条例」により原則、生涯で3回改名することができると定められている。さらにその手続きは、日本より圧倒的に簡単だ。日本の場合、改名には正当な理由を立証し、家庭裁判所の許可を得る必要があるが、台湾の場合は「学校や職場等に同姓同名がいる」「名前の字義が低俗である」など姓名条例の定める改名理由を役所に申請し、必要書類と手数料を添えれば改名が可能。最速で申請当日に新しい名前の身分証明書が発行されるのだ。
主な姓TOP10だけで人口の半数以上を占める台湾は同姓同名がとても多く、姓名条例に定められた理由を挙げて申請することは難しいことではない。つまり、このサーモンの乱では、改名の機会が2回以上残っていればキャンペーンのために「鮭魚」と改名し、その後、元の名前や別の名前に再改名すれば生活に支障は起きないのである。
■台湾で改名が多いワケ
それにしても「改名をそんなカジュアルに考えていいの!?」と驚いてしまうが、そもそも台湾は毎年約10万人が改名するという社会だ。その理由は前述の通り同姓同名の人が大変多いことのほか、運気アップのために改名するケースもある。台湾は風水や占いが盛んで「改名」が「改命(運命を変える)」へつながると考えられており、運気が下がったときや就職や結婚など人生の節目に改名する人も多い。改名はそんなに珍しいことではないのだ。
もしスシローが日本で同じキャンペーンを行ったとしても、日本ならネタかオチだと流されて終わりだろう。改名の手続きが難しくなく、心理的ハードルも高くない台湾だからこそ起きた「サーモンの乱」だと言える。
(まいどなニュース特約・沢井 メグ)