学べるのは絵の描き方と「命の大切さ」…「保護猫部屋」のある画塾を経営するボランティアの思い
滋賀県で猫や犬などの保護ボランティアとして活動する、同県動物愛護推進員の吉田祥子さん(34)。漫画イラストレーターをしながら画塾経営者の“顔”も持つボランティアさんです。経営している画塾では、主に国公立・私立美術大学や美術系高校の受験を目指す生徒さんを指導。画塾にいる保護猫とともに、生徒さんの“学び”を支えています。そんな多才な吉田さんに、動物の保護活動を始めたきっかけや現在の活動などについてお話を伺いました。
■保護活動のきっかけは、1人の保護ボランティアの女性との出会い
吉田さんが保護活動を始めたきっかけは、8年ほど前のこと。滋賀県保護管理センターで保護ボランティアをしていた女性との出会いでした。当時、その女性からモルモットの絵の依頼を受けてから、少しずつ保護活動について興味を持つようになったそうです。あるとき、女性に保護管理センターに連れて行ってもらいました。そこには、ただ“殺処分”を待つだけのたくさんの動物たちがいたのです。
「今まで殺処分というワードは知っていましたが、初めは正直見たくない、怖いという感情が強かったです。でも、私財や時間に限りある中、1匹でも救おうと頑張るそのボランティアの女性の強い気持ちや言葉をお聞きして、やっと私の中で勇気が出て一緒に連れて行っていただいたんです。やはり、そこには死を待つたくさんの犬や猫たちがいて…。初めて現実を見たときは鼻水と涙でぐしゃぐしゃになりました」と吉田さん。
「当時はまだ精神的に幼かった自分がいてすぐには行動を起こせませんでしたが。しばらくして『動物たちを助けるために、何かをしなければ』という思いに押され、自分ができる範囲で活動をスタートしました」と振り返ります。
吉田さんによると、保護管理センターで収容されているのは、迷い犬・猫や老犬をはじめ、多頭飼育崩壊や飼育者の高齢化・入院などによる飼育放棄されたペット、猟シーズンが過ぎて捨てられた猟犬、山奥に大量に放棄されたウサギやモルモットなどの動物たち。
「県中から集まり数が多すぎて、行政の担当者やボランティアの方々が泣きながら『この子は助けられる。助けられない』と命の選別をしています。そして、たくさんの生き物が殺処分されているのが現実」といいます。
そんな過酷な現実を目の当たりにした吉田さんは「1匹の命でも救いたい」という思いがさらに高まり、5年ほど前から動物愛護推進員として保護管理センターに収容された動物たちを引き出して保護するようになったそうです。
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■画塾に猫の保護部屋…保護猫こてつくんが生徒たちの“癒し”に
吉田さんは画塾を開設したのは6年ほど前。マンガクラスの講師を務めていた滋賀県内の画塾が閉所したことから、受験を目指して絵を学ぶ場所を失った生徒さんたちのためにと新たに画塾を立ち上げたといいます。現在、美術系の学校を目指している生徒さんら約80人を抱え、漫画やイラストの描き方などを教えています。
画塾には猫の保護部屋が設けられ、保護猫こてつくんが生徒さんたちの“癒し”となって活躍しています。こてつくんは6歳の男の子。温厚な性格なので生徒さんたちから大人気。
絵を学びながらこてつくんをなでたり、抱っこしたり…。自然と心がほっこりして生徒さんたちも楽しく絵が描けるとか。また、画塾を卒業した生徒さんたちはプロの漫画家としてデビューしたり、有名企業でイラストレーターなっていたりと社会で活躍しているそうです。
■パートナーは動物愛護家のアメリカ人 保護猫2匹と元野犬2匹と暮らす
プラベートでは、アメリカ人英語講師の男性がパートナー。吉田さんと同様、動物が大好きで、保護した猫や犬をかわいがってくれるといいます。そして、現在自宅で保護しているのは画塾で人気のこてつくんと、行き倒れていたというチャトランくん猫2匹をはじめ、元野犬2匹のちゃんたくんとぽんたくん。4匹ともに保護管理センターの殺処分対象の犬猫でした。
「新しいおうちでわがままをたくさん聞いてもらい、かわいがられすぎて溶けているような姿を見るとすごくうれしく感じます」と保護した動物たちにメロメロな吉田さん。
「これまで犬猫以外にも軍鶏(しゃも)やイグアナなどいろいろな動物との出会いがありました。1匹、1羽の命を助けようと保護したり譲渡したりと自分なりに細々と活動してきました。今感じているのは仕事や保護活動を通じて、悪者以外は動物も人間もみんな幸せなって欲しい。ただそれだけです。捨てられる動物に対して、もっと多くの人たちが関心を持ち、一人一人が考えて行動していただければ殺処分される動物たちも減っていくと思っています」と訴えます。
絵の仕事と保護活動の“二足のわらじ”を履いて、日々奮闘されている吉田さん。そんな“先生”から絵を学んでいる生徒さんたちは、動物の命の大切さも同時に学んでいるのかもしれませんね。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)