強いられた静寂の中で聞こえてきた音は?…絵本の世界とコロナ禍の現実が重なる舞台「世界でいちばんやかましい音」

世界中から人工の音がなくなったとき、そこに聞こえてきたのは……。絵本の世界とコロナ禍の現実がオーバーラップする舞台公演「世界でいちばんやかましい音」が、大阪市の阿倍野区民センター小ホールで行われる。

■大きな音を出すことを競い合っている世界から音が消えたら!?

「世界でいちばんやかましい音」(こぐま社刊)は、アメリカ合衆国出身の作家ベンジャミン・エルキン原作の絵本で、日本では小学校の教科書にも載っている作品だ。

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やかましいことが大好きなガヤガヤの都の王子は、王様から「6歳の誕生日に何がほしい?」と訊かれて「世界でいちばんやかましい音が聞きたい」とお願いする。王様は多少の功名心も手伝って、王子の誕生日に全ての人が一斉に大きな声で叫ぶよう、世界中の国へ協力を要請する。

果たして王子の誕生日に、人々が予想もしなかった展開とは--。

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大阪市演劇鑑賞会は「初心者に鑑賞しやすい質の高い演劇鑑賞会を実施することによって、感性を育み、演劇に興味をもつ機会の提供をし、鑑賞者の裾野を広げること」を目的に、平成29年度から毎年、企画運営業務の委託業者を公募して舞台演劇の公演を実施している。ちなみに、令和元年度は委託業者と演目が決まっていたものの、新型コロナウイルス感染症による影響を考慮して、公演は実施されなかった。

令和2年度は6社が応募し、書類審査とプレゼンによる審査の結果、合同会社尾崎商店が委託業者に選ばれた。この尾崎商店、じつはイベントには欠かせない存在だという。

「公演を実施するにあたって、さまざまな雑事が発生します。宣伝、チケットの販売、印刷の仲介などを請け負っています。最近ではCOOL JAPAN PARK OSAKA WWホールのこけら落としで、ケータリング部門を担当しました」

このような後方支援的な業務を、年間最高で100件超手がけている。そして今回の公演では、はじめて作品制作に挑戦する。演者はオーディションで140人の応募者から20人を選出したほか、吉本興業所属の俳優・福田転球氏を迎えた。

 「ノウハウはありますし、大学で『舞台制作』というテーマで講師もやっています。苦労がないわけじゃないけど、その時々を楽しく過ごさせてもらっています」

■音が消えた世界に現代と通じるものを感じた

演目に「世界でいちばんやかましい音」を選んだ理由を、尾崎商店の尾崎雅久氏に訊いた。

「原作は小学5年生の国語の教科書にも載っていて、知る人ぞ知る作品です。原作を読んでまず感じたのは、人間のエゴです。『自分も世界でいちばんやかましい音を聞いてみたい。自分1人ぐらい叫ばなくてもいいだろう……』という人が現れます。ある種のエゴですね。それがコロナ禍でマスクを買い占めたりトイレットペーパーを買い占めたりして高値で転売する人が現れる、現実の世界に通じるものがあるんじゃないかと感じました。そういうことをしてしまった結果、みんなが困っている様子を見たときに『なんてことをしてしまったんだ』と、己の身勝手さに気付いて悔い改めるところも、二律背反して矛盾を抱える人間の心が象徴的に描かれています。コロナとの戦いが続く今、観る人の共感を得られると思います」

2020年4月の緊急事態宣言で、人通りがなくなったニューヨークに「小鳥のさえずりが聞こえた」というニュースが流れた。またインド北部の街では、コロナウイルス対策のロックダウンで大気汚染が改善され、ほぼ30年ぶりに200Km先にあるヒマラヤ山脈が見えたという。

「強いられた静寂の中で、人々は自然が奏でる音を聞き、本来の生活の原点を見つめなおしたのではないでしょうか」

この作品を通して、尾崎さんがいちばん伝えたいことは?

「人を愛したり、みんなで協力しあったりしたいという心がありながらも、やっぱりどうしても自分のことだけを考えてしまう利己的な側面は、誰もがもっていると思います。それでも小鳥のさえずりや風が吹く音を聞いて、その素晴らしさに気づく。そういうことを通して、利己的なところも含めて自分なんだと認めること。そして鍛錬を重ねた演技、歌、ダンスを観て、癒されたり感動したりして、明日も頑張って生きようという勇気や活力にしてもらえれば嬉しいです」

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「世界でいちばんやかましい音」の舞台公演は、3月26日から28日の3日間4公演。当日券あり。4公演ともオンライン配信される。上演時間は約60分。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

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