目の見えない人にほうれい線の位置や化粧品の種類…どう伝える? 美容のプロ・ビューティーセラピストの新たな挑戦
資生堂が、このほど視覚障がい者向けの美容セミナーをオンラインで開催した。同社では、目の不自由な人の社会参加を「身だしなみ」からサポートしたいとの思いのもと、以前から点字版の美容テキスト作成や自身で簡単にできる化粧法「ガイドメイク」を展開しているが、リモートでのセミナーは初。コロナ禍で化粧品においてもこれまでのような自由に肌に触れることへの制限や、カウンセリングにも非接触が求められる中、ニューノーマル対応に向けた新たなチャレンジ。スタッフも試行錯誤しながらのスタートとなった。
同社のビューティセラピストで講師の東沢ゆかりさん(57)と、視覚に障がいがある50代の女性2人の自宅をZoomでつないでセミナーが開かれた。東沢さんは、健常者なら鏡を見ればすぐわかるまゆ頭や目尻、ほうれい線といった顔の部位を言葉で説明し、2人が指で実際に触ることで位置を確認してもらった。
事前に配られた化粧水と乳液のサンプルは、貼られたシールの数で種類を分別させた。あらかじめ点字で書かれた使用量シールを配布し「500円硬貨大」や「パール粒」といったイメージしやすい量を指定。「お顔の丸みに沿って、円を描くように…ほうれい線を横に伸ばします」などと、ラジオ体操のように美容法をレクチャーしていった。
資生堂では、視覚障がい者向けに対面形式での講座は行っていたものの、オンラインでの指導メソッドはなかった。東沢さんらが一から作成したといい、障がいを持つ同社社員らが実際に検証。化粧水や乳液サンプルの見分け方や切り口の位置、切り方の伝え方などにも工夫を重ねた。
東沢さんは「内容を構築していくなかで、表現方法など指摘も受けた」と、わかりやすい伝え方に苦心したという。5月からセミナーを本格展開する予定で、視覚障がいを持つすべての人が「美」を通じて自信を持ち、前向きな気持ちで日々を過ごすことを応援することが目的だ。
参加した主婦の植田智子さん(59)は、4年前に視覚を失った。「ふだんの化粧法は、それまでやっていたのを思い出して感覚でやっている。娘に『大丈夫やで』と確認してもらっている。今回教えてもらったやり方で、ぷるんぷるんになった」と肌に手をやる。福祉職に従事する石川佳子さん(51)の視覚は、鏡がシルエットでわかる程度で「教え方がていねいで、わかりやすかった。塗り方がなるほどと思った」と新しい発見を喜んだ。
東沢さんは「化粧は楽しくおもしろかったと気軽に受講してもらえれば。誰しもきれいと言われたいもの。セミナーをきっかけにお化粧を楽しんでほしい」と手応えを話す。約1時間のセミナーを終えた後は講師も、参加者も笑顔がはじけていた。
(まいどなニュース/デイリースポーツ・杉田 康人)