質屋で働き17年目のKさん…スバリ“手取り月収”は? 介護職から転身「人に言いづらい悩みで役立ててうれしい」
街角でときどき見かける質屋さん。「物」を預けてお金を借りることができる便利なシステムだが、そこで働いている人にとってはどのような業界で、どれくらいの収入が得られるのか。京都で質店を営むKさんに聞いた。
■▼Kさん(40代、京都府在住)
世間一般に「質屋」とか「質店」と呼ばれるが、法律上の正式名称はなんと呼ぶのだろうか。
「1950(昭和25)年施行の質屋営業法には質屋と書かれています。よって正式名称も質屋です」
なるほど「質屋」が正式名称だった。ちなみに「質屋」をしようとする者は、公安委員会の許可を受ける必要がある。勝手に質屋をやってはいけないのだ。
仕事の内容を尋ねると、おおむねイメージしていた通りで間違いないようだ。
「仕事は『物品を質に取る』、すなわちお客さまがもって来られた『物』に金額を付けて、その金額の範囲内でお金をお貸し付けすることです。そして後日、お貸しした金額と質料(手数料)をお支払い頂けた場合に、品物を預かったときのままの状態でお返しします」
Kさんが質屋の世界に入ったのは25歳のとき。以前は介護の仕事をやっていたが、母親が倒れたのを機に、もともとご両親が営んでいた質屋を手伝うことになった。実家が質屋を経営しているとはいえ、自分がやるのは別の話。まったく未経験の業界に飛び込んでみて、はじめのうちは仕事の内容が全く分からなかったという。
「父の経営する店は、あまり流行っていないお店が閉店せず細々とあり続けているように感じていました。そういうお店に飛び込んだ感覚でした」
京都には古くからある質屋が多く、とりわけKさんが住む地域には創業150~160年という老舗が多いという。その中でKさんが営む店は約80年で、京都ではまだまだ新参者という感覚なのだそうだ。
「仕事の内容より、他の地域の質屋を参考にするために、客を装って見物して回りました」
そのKさんも今年(2021年)、質屋で働き始めて17年目を迎えた。
■いろんな「物」を観て触れる愉しみ
質屋を利用する客の年齢層は20代~80代までと幅広く、持ち込まれる品物もさまざまだ。
「最新のデジタルカメラから数百年前の茶道具まであります。当然に勉強も必要ですが、お客さまが大切にされているさまざまな品物を手に取って観られる愉しみがあります」
また、職業ゆえの癖なのか、道ですれ違う人や同じ電車に乗っている人の持ち物やアクセサリーを、頭の中で査定してしまうそうだ。
「いつ誰が何をもって来られるかわからないし、査定は安過ぎても高過ぎてもいけません。お客様の満足のいく金額と質屋の利益が出る金額は相反するので、バランスがとても難しいのです」
いろんな物を観たり触れたり、査定の苦労がある中で「やりがい」は何だろう。
「品物を迎えに来られたとき『助かりました。人にはなかなかお金を貸してとはいいづらくて』と、確かにお客様のお役に立てたことを実感したときです」
介護の仕事をやっていたときも、仕事が辛いと思うことがあっても、いつもお年寄りの方々から言葉をもらって、気持ちの面では大きな喜びを感じていたというKさん。質屋の経営をやるようになって、大きく変わったことがあるという。
「常に動き回る介護職から、今はほぼ座って業務をする仕事内容になりました。体重が増えたので、日々運動を心掛けないといけなくなりました」
それでも今は残業がなくなり、趣味に使う時間が充分にとれるようになったため、生活面で不満はないそうだ。
Kさんは現在2店舗を経営しており、Kさんのほかに2名の従業員がいるそうだ。お互いに40代半ばぐらいで年齢が近いせいもあり、人間関係は良いという。
■収入は…「介護の仕事をしていたときより多いです」
テレビの密着取材などで質屋が取り上げられるとき、高級ブランドバッグやブランド腕時計を査定している場面をよく見かける。
「ああいうお客様はごく一部です。私どもの営業内容は、お年寄りのお客様が結婚指輪をおもちになって2万円~3万円を借り、年金支給日や給料日まで預けておくというケースがほとんどです。ご利用される99%が地元のお客様です」
つまり利用者にとっては生活に密着した存在で、手元が心細くなってきたときに、品物を預けて「ちょっと融通してもらう」という気軽な感覚なのかもしれない。
では、質屋で働いている人のお給料はどうなのだろうか。あくまでKさんの場合だが「介護の仕事をやっていたときよりは多いです」という。
「月の手取りが40万円で、業務内容から考えても満足しています」
質屋に対して「入りづらい」とか「なんだか怖そう」というイメージをもっている人が多いようだが、上手な利用法を最後に訊いてみた。Kさんによると、質屋は700年前の鎌倉時代から日本各地にあり、少額を短期間だけ、その場ですぐ借りられる利便性においては右に出るものがない優れたシステムだという。
「品物を売ってしまわずにお金に換えることができるのは質屋だけですし、万が一返済できなくても品物を手放すだけで返済義務がなくなります」
もちろん怖くはない。店に入るなり、いきなり噛みついたりもしないのでご安心を。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)