猫バンバンして発車、それでも中に子猫がいて…左耳を失った子が運んできてくれた幸せ
熊本市西区にある「ひよこ雑貨店」は、オーナー・網野知恵子さん(46)の祖父母が長年営んでいた薬局を改装したおしゃれな雑貨屋。熊本を中心に、九州、関西、関東在住の作家の作品など、ここでしか手に入らない魅力的な商品が並んでいる。網野さんと一緒にお客さんを出迎えているのが、ハチワレ(鼻筋を境に「八」の字に分かれている柄)の「てぶくろ」(メス、6歳)と、左耳がない「羽(はね)」(メス、1歳)の2匹。最初はてぶくろだけだったが、ある出来事がきっかけで羽が家族に加わり、今は2匹との暮らしに感謝の日々だ。どんな事件があったのか。網野さんに話を聞いた。
網野さん あれは忘れもしない去年(2020年)の6月30日。車で店から近くの銀行へ出かけた時のこと。銀行の駐車場に車を停めようしたら、後続の車の男性が窓を開けて、「ストップ、ストップ!」と叫ぶので、「なんでしょう?」と尋ねると、「車の下に子猫がいる!」と。
その少し前から、店の周りを野良の子猫がうろうろしていたんです。店の前の道路は狭いけどバスも通ります。危ないので、なんとか保護できないかとちょうど思っていたところでした。でも警戒心が強く、どこからか鳴き声は聞こえるものの、なかなか姿をみせなくて…。
その日、銀行へ行く前も、車の下をチェックし、「猫バンバン」(自動車のエンジンルームなどに入り込んだ猫を逃すためにボンネットをバンバンと叩くこと)をしてから発進したのですが…。詳しい状況はわかりませんが、逆にエンジンの内部に入り込んでしまったらしく、減速したはずみで地面に落ちたようなんです。
子猫は左耳をケガしていて、切れた耳もそばに落ちていましたが、幸い命に別条はない様子でした。私はどうしようと気が動転してオロオロするしかありませんでした。でも、居合わせた数人の方が子猫をタオルに包んでくれたり、他の車を誘導してくれたりして、私とその子猫を助けてくれたんです。ちょうど月末で混んでいたのが幸いでした。いま思い出しても涙ぐんでしまいます。それが羽との出会いでした。
すぐ動物病院に駆け込み、ケガしたところの縫合手術をしてもらいました。治療を終え、エリザベスカラーをつけて帰宅した後は、ケガしたことを感じさせないくらい、よく食べよく動くので、一安心でした。
左耳を失い、顔の左側がつっぱっていますが、右耳は正常ですし、不自由なそぶりもみせないので、生きていくのに問題はないようです。今はすっかり回復し、羽はお客さんになでられるのが大好きです。
一方、先住猫のてぶくろは2015年春生まれ。夫と結婚したばかりで、「猫を飼いたいね」と話していたんです。なんとなくですが、「飼うならハチワレがいいね」と。それで、ハチワレ猫のイラストを添えて、保護猫団体の方に、「こんな柄の保護猫がいたらご紹介ください」と頼みました。
紹介してもらったとき、あっ、この子だと確信しました。希望していたハチワレだっただけでなく、4本の手足が白い手ぶくろをしているみたいでとても可愛くて。さらに鼻元に「ひげ」のような模様まであったのが決め手になりました。
お客さんは「てぶちゃん」って呼んでくれています。たいがい男の子と間違えられます。それで赤いリボンをつけてみたんですけど、タキシードを着ているみたいになり、よけい貫禄ある男子に見られてしまっています(笑)。
てぶくろが5歳のとき、前述の事件があって、羽が我が家にやってきたわけですが、実は2匹の仲はよくないんです。同じ空間にはいても、近づきすぎると互いに攻撃しあいます。夜は私をはさんで右側と左側にそれぞれが寝ていることが多いんですけど、どちらかがねぼけたりして近づきすぎると、布団の中で喧嘩が始まります。いつか、2匹が仲良く寄り添って寝ている光景を見るのが夢です。
てぶくろを飼ったとき、2匹以上飼っておられる方から「1匹より2匹の方がいいよ」って言われたことがありました。そのときは餌代や医療費など、2匹だとなんでも倍かかるしなあ…と躊躇していたのですが、今は2匹になって本当によかったと感じています。
我が家は夫婦2人暮らしなので、羽がきてから一人一猫体制になり、どちらも寂しい思いをしなくて済むようになりましたし、自宅では「あっ、こんなとこにいたの?」と見つけてワクワクする回数も増え、2匹に癒されること、心が潤うことが何倍にも増えました。だから2匹にはいつも感謝の日々なんです。
【店名】ひよこ雑貨店
【住所】熊本市西区横手4-12-4
【ツイッター】@hiyokozakkaten
(まいどなニュース特約・西松 宏)