「僕って猫なの?」…命の恩人の犬が「大好き」な猫が、初めて他の猫から「大好き」と慕われ、戸惑いの日々
3歳のチョコくんは今、人生最大の修羅場に見舞われています。それは、自分が猫だと認めざるを得ない状況だからです。今まで彼は、飼い主のKさん姉妹とトイプードルのあんずちゃんとしか触れ合っておらず、猫の存在を知りませんでした。
そんなチョコくんのもとにやってきたのが、2匹の猫です。生後9カ月のムギくんと生後半年の胡桃ちゃん。元気いっぱい天真爛漫を絵に描いたような2匹が、チョコくんに猛烈アタック。「お兄ちゃんなの?好き好き大好き!」と。
そんなことをされたことがないチョコくん、2匹が近寄ろうとするだけで脱兎がごとく逃げていきます。そして、遠くから眺める。あんずちゃんとは違う生き物に戸惑う一方です。
この状況、チョコくんは人生最大の修羅場だと感じているかも知れません。しかし、実は生後約3カ月のころが、彼の人生最大の修羅場だったのです。
忘れもしない2018年4月27日、あんずちゃんの夜の散歩をしている時でした。夜の闇の中、どこからともなく聞こえる子猫の鳴き声。どこにいるか分かれば手を差し伸べたい。しかし、明かりがないことに加え、相手は子猫です。小さくて見つけられるか…。
途方に暮れたKさんは、イチかバチかで犬のあんずちゃんにお願いをしました。
「あんちゃん、探して」
するとあんずちゃん、脇目も振らず木の根の方へ。そしてKさんを見上げて「ここだよ、ワンワン」。Kさんがしゃがみこんで見ると、震える子猫が…。すぐに抱きかかえ、家に連れ帰ります。
その日は暖かくして、お水を飲ませただけ。あんずちゃんのケージで休んでもらいました。あんずちゃんは一晩中、チョコくんが入ったケージの傍から動かなかったとのこと。
夜が明けると、すぐ病院へ。チョコくんは栄養失調と診断されました。あと1日か2日遅かったら、命はなかったとも。あんずちゃん、大手柄です。
それからチョコくんはたくさんご飯を食べ、体調を整えていきます。あんずちゃんはチョコくんに寄り添い、あれこれお世話を焼いてくれたのだそう。
この様子にKさん姉妹はビックリです。
「あんずは我の強い犬なんです。まさか子猫の世話ができるなんて思いませんでした」
こうやってお世話をしてもらった上に命の恩人ですから、チョコくんはあんずちゃんが大好き。片時も離れようとしません。あんずちゃんがKさんと散歩に行く際は、とても寂しそうに玄関まで見送りにいくのだとか。
あんずちゃんの方はというと、チョコくんが無事に大きくなってからさほど構わなくなりました。元通りの、我の強いわがままお嬢様に。機嫌が悪いと、チョコくんの胸ぐらにアタックすることも。
それでもチョコくんはあんずちゃんが好きでたまりません。あんずちゃんと一緒にいたい、同じことがしたい、全部同じにしてほしい。だって、あんずちゃんが大好きだから。
犬と猫、仲がいいのは本来嬉しいことです。ですが、Kさんはとても心配になったと言います。命の恩人のあんずちゃんと離れることが、チョコくんにとって恐怖になっているのではないかと感じたのです。Kさんと離れることも不安なようで、ずっと家の中をついてまわります。
このままでは何かあった時、チョコくんの心が壊れてしまうのではないか。まだ若いうちにこの状態から脱して、安心できる生活を送ってほしい。そのためには、チョコくんと他の猫の交流をさせてやりたいと考えました。
そこでKさんは、チョコくんの飼育相談に乗ってもらっていた大阪市淀川区にある保護猫カフェ「ねこの木」で相棒になる猫を探すようになります。
昨年の緊急事態宣言の間に新たな猫を迎える準備を整え、久しぶりにねこの木を訪れた際、運命的な出会いを果たします。それがムギくんと胡桃ちゃんでした。とても人懐っこく、猫社会でのコミュニケーションスキルも高い猫たちです。この子たちなら、チョコくんと仲良く過ごしてくれるだろうと考えました。
でもまあ、そう上手くいくものではありません。先述した通り、チョコくんはおっかなびっくり。この戸惑いは、自分以外の猫と初めて会ったからだけではなさそう。
チョコくんは今まで誰かに「大好き」としか言ったことがなかったのです。それが今ではムギくんと胡桃ちゃんから「大好き」と言われる日々。どう返して良いのか分かりません。
しかし、「大好き」に「大好き」で返せるようにならなければ、チョコくんを包む不安は消えることがないでしょう。Kさん姉妹は根気強くチョコくんに「大好き」と伝えながら、成り行きを見守ります。
暗闇の中、あんずちゃんに見つけ出してもらったチョコくんは今、ようやく広い世界へ第一歩を踏み出したようです。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)