劣悪なブリーダーのもとにいた繁殖犬 コロナ禍に引き取られた家族の愛情で、目がキラキラと輝いた
ボンちゃん(推定3歳・メス)は、劣悪なブリーダーのところで繁殖犬をしていた。一緒に保護された犬たちは声帯を切り取られていたが、ボンちゃんの声帯は残っていた。帝王切開された痕には癒着が認められ、悲しい過去を忍ばせるが、それでもボンちゃんは人にも犬にも懐っこく、可愛らしい犬だった。
■劣悪ブリーダーから保護された繁殖犬
ボンちゃんは、劣悪なブリーダーに繁殖犬として使われていた。2020年4月6日、ボランティアが5匹保護したうちの1匹だった。すぐに獣医師の診察を受け、トリミングをしてもらい、保護犬カフェにデビューした。
神奈川県に住む松井さんは、11年7カ月飼っていたウサギが死んでしまい、家族みんなペットロスになっていた。悲しみにくれていたら4カ月後コロナ禍に。小学2年生の息子とテレワークの夫の3人で、ひたすら家にこもっている生活になった。
「自粛も辛いし、もともと実家で犬や猫が常にいる生活だったので、念願だった犬をますます飼いたくなりました。コロナ禍だったので、ネットで色々な保護犬のサイトを見て探しました」
やがて松井さんは、保護犬カフェにいたボンちゃんを見つけた。
■ワン!と鳴いた
4月7日、松井さん一家は、ボンちゃんを見に行った。ボストンテリアはもう少し大きいと思っていたが、小柄で可愛らしい顔と体型をしていた。ボンちゃんはとてもオテンバで、他の保護犬のトイプードルたちを追い回し、とうとうケージに入れられてしまった。しかし、人懐こく、なでられるのが大好きだったので、松井さん一家はボンちゃんを家族に迎えることにした。
第一回緊急事態宣言が発出された翌日に迎えに行ったので、保護犬カフェのスタッフはバタバタしていた。保護した経緯は詳しく聞かないことを条件に譲渡されたので、詳しい生い立ちはまったく分からなかった。妊娠している可能性があり、歯に中程度の歯石がついているということだけ教えてくれた。万が一妊娠していた場合、子犬を産ませて1匹は松井さんが引き取り、他の子は保護犬カフェが引き取ることになっていた。
「妊娠はしていませんでしたが、後日避妊手術を受けると、1、2回出産していて、帝王切開されたため傷跡が癒着していることが分かりました。これ以上妊娠させずに済んで良かったです」
保護犬カフェから家までは車で1時間半かかるが、そこで買ったキャリーバッグにカフェの匂いがたっぷりついていたようで、車の中でボンちゃんはぐっすり寝ていた。家に着いても最初はケージをチェックしたり、部屋をうろうろしたりして落ち着きがなかったが、到着したのが夜だったのですぐにぐっすり眠りに落ちたという。
翌日の朝、ごはんをあげようとしたら、ボンちゃんは初めてワンと鳴いた。一緒に保護された犬たちは声帯が切り取られていたので、ボンちゃんも声帯がないかもしれないと聞いていたので心配したが、松井さんは安堵した。
ウサギの名前がきなこだったので、夫はあんこちゃんという名前がいいと言ったが、松井さんがボストンのボンがいいと言い、息子も気に入ったのでボンちゃんにした。
ボンちゃんは、家に来た当初から大きな目をキラキラさせていたが、家族以外の人は「最近、表情が良くなった」と言う。譲渡当初は、ボンちゃんなりに緊張していたのかもしれない。譲渡時のボンちゃんの体重は4.7kgだったが、いまは6.2kgになった。
■もう離れられない
最初、ボンちゃんは散歩を怖がっていたが、こまめに外に出していたら、家に迎えて100日目くらいで、喜んで散歩に行くようになった。
「最初は思うように散歩に行ってくれなくて、正直、しんどいなと思ったこともあります。でも、毎日散歩を楽しむようになって一安心、気持ちが楽になりました。日を追うごとに心を開いてくれるので、とてもうれしく思っています。ボンちゃんがいるだけでいい。存在が毎日心を癒やしてくれるので、もう離れられません」
長男は一人っ子なので、ボンちゃんという妹ができて、毎日イチャイチャしている。ボンちゃんも長男がいないと寂しいようで、学校から帰ってくると大興奮で迎えに行く。
ボンちゃんは腸が弱いが、松井さんは、食べ物やストレスに気をつけて仲良く寄り添っていきたいと思っているという。
「今まで出会ったたくさんの犬たちを思い出しても、出会った場所はあまり関係ありません。傷ついている分、保護犬の方が愛情深い気がしています。犬を飼うと色々大変なこともありますが、一緒に暮らせる喜びの方が優っています」
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)