新型コロナの感染が再拡大、まん延防止にいま知りたい疑問に豊田真由子が答える<前編>
各地で新型コロナの感染が再拡大し、4月14日現在、大阪、兵庫、宮城、東京、京都、沖縄の一部地域に、「まん延防止等重点措置」が適用され、愛知、埼玉、神奈川、千葉などにも拡大される予定です。
■緊急事態宣言は解除すべきでなかった?
「緊急事態宣言を解除したら感染が再拡大することは予想されたのだから、解除すべきではなかった」といった声がありますが、これは政策判断としては、致し方ないところだと思います。緊急事態宣言解除には、基準となっている指標(病床占有率、重症者用病床占有率、療養者数、新規陽性者数等がいわゆる「ステージ4」)があり(※「設定されたその基準の数値がベストか」という点は議論があるかもしれませんが)、それらを満たしていれば基本的には解除しないわけにはいきません。同様に、要件に達した場合は、緊急事態宣言を発出することになります。なおそもそも、緊急事態宣言とそれに伴う様々な要請は「公権力による私権の大幅な制限」ですから、「最小限の内容・最低限の期間」であることが求められます。
ただし、緊急事態宣言を解除する場合に、「解除して、何も無し」にするのではなく、「まん延防止等重点措置」を同時に行うなどして、実際の規制内容としてもメッセージとしても、段階を踏んでいくといったことが必要だったのではないかと思います。重点措置適用の要件は「ステージ3」または局地的に急速な場合は「ステージ2」と幅があり、裁量が働くわけですが、いずれにしても迅速な判断が求められると思います。
緊急事態宣言の解除と春の到来とで、人の動きは大幅に増えました。国民は、長期にわたる緊急事態宣言下で疲弊していましたので、解除されたら一斉に外に出ますし、エネルギーあるふれる若者はより一層そうなります。これを責めることはできないと思います。
以前より申し上げていますが、そもそも、新興感染症の感染の波は、大きいもの小さいもの、何度も繰り返し来るのが通常です。新型コロナの第4波のような一つの感染症の流行の仕方としてもそうですし、今後の異なる新興感染症の発生という意味においても、です。
特に新型コロナウイルスは、これまでの多くのウイルスと比較しても、症状が軽いものから死に至るものまで多岐にわたることや、不顕性感染の割合が高いこと、変異株の流行などが、さらに対応を難しくしており、世界各国が対応に苦慮しています。
危機管理として「来ないはずのものが来た」ではなく、「来るのは仕方ないが、それをどうやって、皆でできる限り抑えるか」という発想が、心構えとして有用ではないかと思います
■変異株の特徴は?
急激な感染拡大の大きな要因のひとつは、感染力が強くなった変異株の流行です。
変異株のスクリーニング検査の結果を見ると、急速に従来株が変異株に置き換わっていっており、陽性者のうち、東京都(健康安全研究センターによる調査分)では、3月29日から4月4日の週で、74.1%が変異株(41.8%がE484K、32.3%がN501Y)、大阪府では、3月21日~27日で、66.5%がN501Yの変異株となっています。
このままのペースで感染者が増え続けた場合、関西だけでなく関東や中京圏、沖縄でも5月前半には、ほぼ変異株に置き換わると予想されています。(4月14日厚生労働省アドバイザリーボード)
一口に「変異株」と言っても、変異の仕方によって性質が異なります。ウイルスの変異自体は通常起こることで、新型コロナウイルスの場合、平均して2週間に1回程度のペースで変異しているとされますが、ウイルスのたんぱく質を構成するアミノ酸が変わると性質が変わる場合があります。
現在日本で流行している変異株は主に、感染力が強くなっているといわれる「N501Y」と、ワクチンの効果が弱まっているといわれる「E484K」があります。
(※)「N501Y」と呼ばれる変異は、ウイルス表面にある「スパイクたんぱく質」の501番目のアミノ酸がアスパラギン(略号N)からチロシン(略号Y)に置き換わっているという意味
「E484K」と呼ばれる変異は「スパイクたんぱく質」の484番目のアミノ酸がグルタミン酸(略号E)からリシン(略号K)に置き換わっているという意味
英国型の変異株(N501Y)は、感染力、重症化率、致死率ともに、従来型より高くなっているという研究報告があり、また、若い世代でも重症化するケースが出ています。N501Yは、重症化するまでの日数が短く、一方で、症状が落ち着くまでの日数が長くかかる、という報告もあり、体内に侵入・増殖するウイルス量が多くなっている可能性が指摘されています。
■変異株は子どもにかかりやすくなっている?
大阪府の3月15日から4月5日までの新規感染者の年代は、30代までが感染者全体の55.1%、20代までが全体の41.4%を占め、若い世代に感染が広がっている傾向がみられます。昨年10月10日から今年2月末までの第3波では、30代までが感染者全体の45.6%、20代までが全体の32.2%で、第3波と比べても若い世代の感染が多くなっています。
変異株が従来株に比して、「特に子どもにかかりやすくなるように変異した」ということではなく、「すべての世代にかかりやすくなっていて、結果として、これまで『かかりにくい』とされてきた子どもにも感染するようになった」ということだと考えられます。
従来株がなぜ子どもの感染が少なかったか、という理由には諸説ありますが、ウイルスがヒト細胞に侵入する段階で、ウイルス表面のスパイクたんぱく質と結合して吸着する、ヒトの細胞表面の受容体(たんぱく質の一種であるアンジオテンシン変換酵素II:ACE2受容体)の数が、子どもは少ないからではないか、という説があります。
今回の変異株N501Yは、ウイルス表面のスパイクたんぱく質の構造が変わり、結果として結合力が上がっていると考えられ、そうすると、暴露するウイルス量が少なくても、あるいは、子どものように受容体の数が少なくても、ウイルスのヒトの体内への侵入が成立する、ということになります。
つまり、変異株は、大人も子どもも、かかりやすくなっている。したがって、今までと同じ行動を取っていたら、(これまでは大丈夫だったかもしれないが)変異株には感染してしまう、ということになります。
さらに、若年層にも感染することから、学校での対策が必要となり、大阪府では、小中高校の部活動と大学の対面授業の自粛が決められました。私は、学校の一斉休校は、弊害がとても大きい(学びの機会が著しく棄損される、虐待や貧困家庭の状況悪化等)ため慎重であるべきと考えます。集まって関わり合いたい強いエネルギーを持つ若者に、今の状況を正しく理解してもらって、感染リスクを抑える行動を取ってもらうか、そして、どうやってできるだけ制限少なく日常を送ってもらうか、彼・彼女らの気持ちに立って考えることが必要だと思います。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。