「ふらつくことが」タンタンだけじゃない 高齢化進む動物園の動物たち “ネガティブ”な看板に込めた思い
「ふらつくことがあります」「もうおばあちゃんです」「優しく見守って」…。先日、神戸市立王子動物園のジャイアントパンダ、タンタン(メス、25歳)に心臓疾患の疑いがあると発表されましたが、各地の動物園では最近、動物の体調不良や高齢ゆえの状況を丁寧に説明する情報発信が増えています。動物たちの元気でいきいきした姿、かわいらしい赤ちゃんやカッコいい姿を見せたいはずの動物園があえてネガティブな情報を出す理由は? その思いを王子動物園の担当者に聞きました。
■ライオンの岩場に大きなフェンス
自然の岩場のような高低差がある造りが特徴的なライオンの獣舎に昨年秋、行く手を阻む大きなフェンスが登場しました。岩の上で威風堂々佇む姿、夫婦が仲良しぶりを見せつける姿が人気だったのに、なぜ? 理由を伝える掲示には、「高齢のライオンが岩の上から落ちるのを防ぐため」とありました。
「実は、オスの『ラオ』(当時23歳)が上から落ちてしまったことがあって」と獣医師で飼育展示係長の谷口さん。幸いケガはなかったものの、以前から高齢ゆえのさまざまな体調の変化が心配されていたラオ。外に出してあげたいもののまた落ちてしまったら…と話し合った結果でした。工事が終わり展示が再開され、メスの「サクラ」と寄り添う姿にホッとしたのも束の間、ラオは間もなく亡くなってしまいました。人間でいえば100歳近くという国内でも最高齢クラスで、死因は老衰。大往生でした。「最期に外で過ごさせることができてよかったと思っています」と谷口さんは振り返ります。
■ヒグマも、ヒツジも…。治療内容も公開
同園では、チベットヒグマのオスの展示場でも昨年、ゴツゴツした岩場のような造りの一部を工事し、段差を減らしました。足腰が弱り、時々立ち上がれなくなることもあった「ボー」(29歳)がプールに落ちたり、岸に上がれなくなったりする事故を防ぐためです。今も、ふらついたり、次の一歩が出にくかったりする時もあり、見守るお客さんたちからは戸惑いの声も出ますが、掲示では投薬治療をしていることなども説明しており、心配は応援に変わっていっているようです。
ヒツジやカピバラ、小動物などと触れ合える「ふれあい広場」には、ヒツジの展示スペースに「おばあちゃんです。温かく見守って」との掲示が。13歳になるメスの「スー」は足腰が弱ってきているため動きにくそうに見えることもあります。飼育スタッフはスーのために専用の歩行補助道具を準備し万が一の事態に備えていますが、食欲はあり、まだまだ元気。でも、よく見ると首の辺りだけ毛がありません。「毎年5月に一斉に行う毛刈りがスーの負担にならないよう、少しずつ進めているんです。エサに夢中になっているすきにバリカンを入れています」とのこと。しかもお肌により優しい人間用バリカンを特別に使用。徹底的に「優しい」のです。
■どんな状況でも生きることに懸命で、決して諦めない
また、広場のスタッフルームでリハビリに取り組む動物も多くいます。ガチョウのオス、「こう」(20歳)は以前患った感染症をきっかけに脚力が落ち、自力歩行ができなくなりましたが、マッサージや歩行練習のおかげで短時間なら自力で歩けるまで回復しました。「毎日コツコツ頑張って本当に強い。すごいと思います」と飼育スタッフ。その様子をこまめに掲示や公式ツイッターで伝えています。「高齢、病気だと『かわいそう』と思われてしまうことが多いですが、動物はどんな状況になっても生きることに懸命で決して諦めません。そんな強さ、頑張りを知ってもらいたい」と力を込めます。
健康管理のため、同園でも多くの動物に「ハズバンダリートレーニング」を取り入れています。「必要な行動を動物が自発的に行えるようにする」トレーニングで、麻酔を使用したり、強制的に押さえつけたりすることなく手入れや治療ができ、動物のストレスを少なくできる方法だといい、巨大なアジアゾウが号令に合わせ動き身体のケアを受ける姿は圧巻です。動物園ではコアラやレッサーパンダを飼育員が抱っこしたりナデナデしたりと、ファンからはうらやましいだけの光景もよく見られますが、これも、人に慣れさせ、検査や治療時に直接触ることができるようにするための大切なトレーニングなのです。
■心臓疾患が判明した、タンタンも
「動物が健康で快適に過ごすことができるよう、向き合うスタッフの取り組み、治療に努める動物たちの姿を通じ、命の尊さを考えていただければ幸いです」と谷口さん。先日、ジャイアントパンダの「タンタン」の体調不安が公式発表され気になるところ。いつも「彼氏目線」の言葉でファンとタンタンをつなぐ飼育担当の「ぼく」さんはすかさず、「皆さん不安だと思いますが、たんたんさんが元気に過ごしていけるよう努めたい」とキリリとツイート。今、体調不安にある動物たちが健やかに過ごせるよう、治療がうまく進むよう願うばかりです。
(まいどなニュース特約・茶良野 くま子)