「心細くて怖くて寂しかったね」娘から預かった猫は極度の人見知り 激しく威嚇されても「私が飼う」と決めた
愛猫家のゆうみんさんは、何匹もの猫を保護して飼っていた。そんなゆうみんさんの子供たちも猫が大好き。ひとり立ちした長女も友人が保護した野良猫が産んだ子猫、チョコちゃんを飼い始めた。ところが、長女に思わぬ変化が訪れた。
■友人が保護した野良猫が産んだ子猫
2016年の春、大分県に住むゆうみんさんの長女は、友人が保護した妊婦の猫が産んだ5匹の子猫のうち、キジトラの女の子を引き取った。可愛い子猫に、長女は「チョコちゃん」という名前をつけた。ゆうみんさんが長女に理由を聞くと、子猫を抱き抱え、「この子のお腹を見てみて、トラ柄が無くて、ミルクチョコレートみたいな綺麗な茶色でしょ。だから、チョコという名前にしたの」と言う。ゆうみんさんは、なるほどと納得した。
当時、長女は全国的に有名な山間の温泉地にある病院で看護師をしていた。「就職と同時に親元を離れ、初めての一人暮らしをしていたのですが、病院での仕事は緊張の連続。引き取った子猫は、娘の心を癒してくれたと思います」
ゆうみんさんは、車で1時間半かかる長女のアパートへ月に一度、長女の好物を持参して通っていた。子猫のワクチンや避妊手術は、ゆうみんさんが飼い猫を診てもらっているかかりつけ医で行った。エイズ、白血病とも陰性で、ゆうみんさんはひと安心した。
■チョコちゃんを預かる
チョコちゃんはとても警戒心が強く、人見知りが強い猫だった。最初の頃、ゆうみんさんを見ると、ベッドの下やテレビの後ろに逃げ込み、こっそりゆうみんさんの様子を伺っていた。だが半年を過ぎた頃にはそっと近寄って来て、身体をすりすりしてくるようになった。
長女とチョコちゃんの生活が3年目に入った頃、長女に、以前一緒に働いていた先輩看護師から、転職の誘いがあった。ゆうみんさんが住む町の近くにある、設備の整った大きな病院だった。長女のキャリアアップのためには、願ってもないチャンス。問題は、入職後1年間は病院の寮へ入寮することが条件になっていることだった。もちろん、ペットは飼育禁止。チョコちゃんは、一旦、ゆうみんさんが預かることになった。2019年9月30日、長女の引っ越しの日に、チョコちゃんはゆうみんさんの家にやって来た。
「人見知りなチョコですから覚悟はしていましたが、予想以上の状態になりました。部屋に連れて入り、ペットキャリーの蓋を開けた瞬間、ウーと低い声で唸り、シャーと私を威嚇!用意したケージに入れようと手を伸ばした瞬間、再び火を吹くのではないかと思うくらいにシャーと言いながら、もの凄い勢いで、鋭い爪を出して本気の猫パンチ!」
ゆうみんさんは、今まで保護した猫たちから一度もそんな態度をとられたことがなかったので、かなり動揺したという。なんとかケージに入れ、周りを布で覆ったが、少しでもゆうみんさんが動いたり、猫たちが近づく気配がしたりすると、ウー、シャーっと威嚇した。
車での長時間の移動、着いた場所には大好きなお姉ちゃんはおらず、待っていたのはたくさんの猫たち。「心細くて怖くて寂しくて、たまらないんだろうなと。そんなチョコの気持ちを思うと、事情があって仕方ないことですが、チョコが不憫で、シャーっという声が聞こえる度に、涙が溢れてきました」
ゆうみんさんは、「ごめんね、ごめんね、チョコちゃん、びっくりしたよね。でも怖くないからね、何も心配しなくていいからね」と、布の向こうにいる見えないチョコちゃんに優しく声をかけ続けた。
■うちの子にする
先住猫のあずきちゃんは、わさびちゃんが来た時と同じように、チョコちゃんのケージの上に乗り、香箱座りで夜を明かした。他の猫たちは、何事もなかったかのようにマイペースでそれぞれの場所でくつろいでいた。新しいケージに気づかないはずがないが、今は近づく時ではないと知っているかのような態度だった。そんな猫たちを見て、ゆうみんさんは、ますます涙が溢れて止まらなかった。
1年半後、チョコちゃんは相変わらずケージ暮らしを続けている。ケージは広めの二段ケージに変えた。まだまだ完全にフリーにはできない。ゆうみんさんが居る時にケージの扉を開放すると、そろりそろりと出て来て膝に乗り、ゴロゴロ言うが、あずきちゃん以外の猫がちょっとでも動くと、さっとケージに戻ってしまう。ただ、あずきちゃんには心を許していた。あずきちゃんが自分のケージに入ってくると、すぐにそばに寄って行って鼻キッスをして、ペロペロとグルーミングしてあげた。
「チョコが我が家にやって来たあの夜から、あずきとチョコにしか分からない会話をしているのかもしれません」
チョコちゃんの様子をずっと見てきたゆうみんさんは、長女に「チョコをうちの子にする」と伝えた。
「娘はこれから結婚、妊娠、出産、育児と人生に大きな変化があるでしょう。娘のところにチョコを戻すと、チョコはそのたびに変化に順応していかなければなりません。チョコが環境の変化に弱い子だということを身にしみて感じたので、このまま今の環境に慣れて欲しい。チョコが心から安心できようになるには時間がかかると思いますが、気長に待とうと思います」
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)