愛猫が極寒の山中に脱走→190日間におよぶ執念の捜索 帰ってきたら目つきが険しいワイルドな猫になっていた
冬になると雪深くなる山間部で愛猫が脱走した。しかも、その猫は足に障がいがある。「もし自分の猫だったら…」と、愛猫家ならそんな状況を想像しただけでも卒倒しそうになるが、脱走した猫を探すことを決してあきらめず、190日後に発見した夫婦がいる。長野県在住のはとさん夫妻だ。
はとさんの愛猫が脱走したのは、昨年10月5日。夕飯後、散歩に出かけたまま帰ってこなかった。実は、夫婦2人のはとさん夫妻は、田舎暮らしを求めて、9月14日に長野県東筑摩郡山形村の清水高原という標高1400メートルの自然豊かな新居に引っ越したばかりだった。
それ以前は、徳島県内でマンション暮らし。夫婦が働いていたお弁当屋さんに、2019年9月2日、のちに脱走することになる子猫のタロスケくんが現れた。2人はともに“犬派”だったが、毎日、エサを求めてやってくるタロスケくんの可愛さにすっかり魅了され、出会いから1か月半となる10月18日に保護、家族の一員として迎えた。
タロスケくんは出会ったころから、左の前足がブラブラして歩き方がおかしかったため、動物病院で診てもらったところ、原因は分からないが神経がないと告げられた。生後半年ぐらいだったタロスケくん。神経がなくても器用に前足を使っていたことから、獣医師から勧められた「切断」という選択はせずに、そのままにすることにした。
■“犬派”の夫婦がタロスケくんの可愛さに魅了される
その後は、すっかり完全室内飼いの家猫生活を堪能。部屋の中で、おもちゃで遊んだり、大好きなCIAO ちゅ~るのCM曲を流すと、喜んではとさんの元にやってきたという。部屋の窓から外を見るのが好きなタロスケくんは平穏に暮らしていた。
そんな都会生活に別れを告げ、長野の新居では、窓から見える大自然に興味津々。野生の本能が騒いだのか、外に出たがるようになり、夫妻は時々、一緒に敷地内に出すようになった。そのうち短い散歩にも行くようになった。そんなときタロスケくんは、今まで見せたことがないくらい目をキラキラさせて、高原をかっ歩していた。ところが、引っ越しから21日目、散歩に出掛けたまま、姿を消してしまった。
はとさんはそれからといもの、毎日の聞き込みやポスティング、迷子ペットの検索ページの登録、関係機関への連絡、お店や動物病院などへのチラシの配布、早朝や深夜の時間を問わずの声掛け、捕獲機の設置や置き餌、ありとあらゆる手で、捜索に没頭した。しかし、目撃情報は一切なく時間だけが過ぎていった。
■「もう生きて会えることはないのかな」
現地の清水高原の冬は積雪40~50センチ位になる場所。気温は里よりもかなり低く、マイナス10度以下になる日もあった。また、野生動物がたくさんいて、毎晩のようにイタチやキツネが庭を横切っていたことから、「希望は捨てていませんでしたが、もう生きて会えることはないのかなと思っていました」とはとさん。
山の上ばかりを探してたはとさん夫妻だが、念のために里にも足をのばした。聞き込みを続けるうちに、なんと、そのうちの1人の女性から「この猫ならお隣でごはんをもらっているよ」と有力情報を聞くことができた。実に探し始めて190日後、4月13日のことだった。はとさんは胸が高鳴り、足早で隣家を訪ねた。
そして、ずっと会いたかったタロスケくんが、目の前にいた。発見した場所は、新居から直線距離で1.5~2キロほどだった。半年ぶりに会ったタロスケくんは、すっかり野生に戻った様子で、かなり顔つきが険しくなっていた。体も一回り大きくなり、ワイルド感があふれていた。ただ、「タロスケ」と声をかけるとはとさんのことを思い出したのか、甘えた声で近づきその場で、ゴロンゴロンとお腹を見せた。
捕まえて帰ろうとしたときに一悶着あった。捕まえようとすると逃げるの繰り返しで捕獲まで1時間の時間を要した。やはり半年間の外生活で警戒心が強くなったようだ。最後ははとさんが奥の手として用意していたCIAO ちゅ~るをCM曲を流しながら取り出すと、タロスケくんは駆け寄ってきた。
厳しい冬を越して無事だったタロスケくん。発見した家では、外猫を複数匹飼っており、タロスケくんもそこへ仲間入りしたため、食いっぱぐれはなかったようだ。
はとさんは言う。「今は帰ってきて間もないので、まだ警戒しているようですが、キャットタワーや座布団など自分の使っていたものは覚えているようで匂いを嗅ぎまくっています。今まで以上に甘えん坊になり、ずっと私の膝の上にいます。これからゆっくり元の生活にもどっていけたらなと思います。もう2度と外には出しません」。ワイルドな険しい目つきになって帰ってきたタロスケくんだが、元の穏やかな目つきに戻るのはすぐだろう。
(まいどなニュース・佐藤 利幸)