狭いケージで暮らしていた元繁殖猫 「ここのおうちの子になる」猛アピールの末、念願の家猫に
奈良県奈良市に住む山田まゆみさんは昔から「猫より犬派」を公言していたが、ペットショップで見かけたスコティッシュフォールドの男の子に一目惚れし、一緒に住むようになって以来、大の猫好きになった。猫、夫、子供と幸せな生活を送っていたが、突然猫との別れがくる。
悲しみに暮れていたまゆみさん一家だったが、いつまでもくよくよしてはいられないと、残った猫用のご飯やグッズを寄付するために保護施設を訪れた。施設で暮らすたくさんの猫たちにまゆみさんの心は癒されたが、やはり新しい子を迎える気にはならなかった。そんなとき1匹の猫がまゆみさんの元に近づいてきた。ロシアンブルーのアンちゃんだ。
アンちゃんは当時2.1キロほどの小さな体をまゆみさんに擦り付け、何度も頭突きをしながら一生懸命甘えてきた。「なぜか、そのときアンは私たち家族にものすごくぐいぐいとアピールしてきたんです。まるで“撫でて、撫でて”と言っているみたいで、私たちはずっとアンの体を撫でていました。そうしているうちに、主人が“この子、いいな”と言い出したんです」
■小さな体で猛アピール
施設のスタッフから、他にも生まれてまもない子猫や元気いっぱいの猫を紹介されたが、まゆみさんらはこの小さく弱々しいアンちゃんに心を鷲掴みにされてしまった。
保護施設のスタッフは「アンちゃんはもともとあまり愛想がなく、猫風邪をこじらせているのか鼻水もずっと出ていて、引き取り手がなかなか見つかりませんでした」と振り返る。
アンちゃんは高齢のため業者が処分しようとしたところ、保護団体に救出された元繁殖猫。施設に来るまでは何年間もずっと狭いケージで暮らしていたため、人との接触や愛情に慣れていなかったことから愛想や表情が乏しく、猫風邪も長年の不衛生な環境が原因だった。
それでもアンちゃんは自分の意思で山田さん一家に精一杯のアピールをし、ついに自分のおうちを見つけることに成功した。まさしく「猫が飼い主を選んだ」ケースだ。
■失敗も欠点もすべて個性
そうしてアンちゃんは山田家の一員になったが、初日はさすがに慣れない環境に怯えて姿を見せなかったものの、2日目からは堂々とリビングの床で寝転んでくつろいでいた。食べ物も選り好みすることなくなんでも食べて、すぐに新しい家になじんだ。
晴れて幸せをつかみとったアンちゃんだったが、問題もあった。どうしてもトイレがうまくいかないのだ。カーペットやブランケット、果てはリビングに置いてある上着など所構わず粗相をしてしまう。施設ではトイレのしつけはできていたはず。まゆみさんは原因を探るべくトイレの砂を変えたり、場所や環境を変えたりとさまざまなことを試したが、うまくいかなかった。
「困るといえば困りますが、それもアンの個性かなって思うようになりました。強要するよりもこちらが工夫すればいい話ですよね」とまゆみさんは笑う。
■家族を夢中にするツンデレっぷり
長年、狭いケージに閉じ込められていたアンちゃんは、階段の上り下りもソファに飛び乗ることもできない。階段を数段上がっては毎回大きな声で鳴いて家族に助けを呼ぶ。
今でこそ大きな鳴き声を聞かせてくれるアンちゃんだが、保護施設にいるときは一度も鳴いたことがなかった。山田家で初めて鳴き声をあげたとき、かわいい顔に似合わない濁声で家族みんなを笑わせた。また、呼んでもこないタイプの猫だと思っていたが獣医によると内耳炎を患っていることから耳が聞こえていないかもしれないということもわかった。ねこじゃらしやおもちゃで遊ぼうとしても、じゃれずに奪って自分の寝床に持っていってしまうアンちゃん。それらすべてが「アンの個性」とまゆみさんは話す。
保護施設ではあんなにもぐいぐいとアピールをしてきたアンちゃんだったが、おうちにきたとたん家族に対して完全なる塩対応なのだという。それでも時々、まゆみさんの膝に飛び乗ったり、通りすがりに足元に体を擦り付けていく。それがたまらなく可愛く、愛おしいとまゆみさんはいう。ツンデレなアンちゃんに山田家は今日も夢中だ。
(まいどなニュース特約・和谷 尚美)