膝の半月板を損傷したマラソン選手が優勝 「幹細胞移植」ってなに? 話題の「再生医療」を取材した
近年注目を集めている「再生医療」とは自分の「幹細胞」を使い、失った機能を取り戻すことを目的にした医療のことです。この再生医療で、半月板を損傷した女性マラソン選手が幹細胞の治療を受け、半年後に行われた新潟ハーフマラソンで優勝したケースもありました。手術を担当した再生医療センター「リペアセルクリニック」院長の坂本貞範先生に、再生医療のいまを取材しました。
■「再生医療」とは何?
再生医療では自然治癒力を持つ幹細胞を利用して、すり減った軟骨や機能不全になった臓器などに働きかけ、機能回復を促します。
「人体には元々、すり傷などでカサブタができて、自然と傷が治る皮膚の再生機能や、骨折しても徐々に骨がつながっていく自然治癒能力があります。再生医療とはこのような『自然治癒力=再生する力』を活かした最先端の医療のことです」
こう話す坂本貞範院長は1997年に関西医科大学を卒業後、大阪市立大学付属病院で関節や脊椎の疾患、脊髄損傷などの外来や手術に従事。その後は大阪府立中河内救命救急センターなどで脳卒中や心疾患などの内科疾患を幅広く経験しました。膝や股関節の人工関節では専門病院で約1000例以上の手術とリハビリを手掛け、それらの経験をもとに2005年に地元の大阪市住吉区に「さかもとクリニック」を開業し、在宅医療などにも力を入れてきた人物です。
そんな坂本院長が従来の保健医療の限界を感じ始めた時に「再生医療と出合い、今までの限界を超えられる新たな可能性を実感し、この最先端治療を取り入れることにしました」といいます。
というのも、一生つきあっていかなければいけないと思われていた病気も、手術しかないと諦めていた選択肢も、再生医療を取り入れることで機能が回復できるかもしれないと実感したからです。また、自己細胞で免疫力を高めることで病気にならない体づくりが実現でき、美容面では自分の細胞で安全に「いつまでも美しく、健康的でいたい」という夢の実現も可能になったとか。
再生医療に希望を見い出した坂本院長は2019年に大阪市福島区に再生医療専門センター「リペアセルクリニック」を設立。「東京でも」という要望が高まり、この春には東京都港区でも開業予定だと聞きました。
■再生医療のカギを握るのが「幹細胞」
幹細胞は壊れて働けなくなった細胞を見つけたり、細胞の数が減って足りないと判断したりすれば自ら分裂しその細胞を補うことで、体の機能を修復してくれる働きがあります。この幹細胞には大きく分けて、私たちの体の中に存在している「幹細胞」と、胚(受精卵)から培養する「ES細胞」、人工的に作る「iPS細胞」の3種類あるといい、現在、医療への応用がもっとも進んでいるのが「幹細胞」だそうです。
この幹細胞を利用した再生医療は「幹細胞の働きを何千、何百万倍も増幅させて、すり減った軟骨や機能不全になった臓器に集中的に働きかけ、機能回復することで本来、体がもっている機能を再び正常に戻すこと(再生)を目的」としています。
そして、同クリニックでは、幹細胞を生体外で培養し、一定の量まで増やしてから患者本人の身体に戻す「自己脂肪由来幹細胞治療」を積極的に行っています。これは自分自身の幹細胞なので安全性も高く、アレルギーや拒絶反応といった副反応がなく、いま最も注目されている最先端医療技術だといいます。
自己脂肪由来幹細胞治療を行うにあたり、大事なポイントは培養技術だとか。幹細胞の培養は、CPC(細胞加工施設)で行われます。再生医療は第2種再生医療にあたるのですが、第3種再生医療というものもあり、「PRP(多血小板血漿)療法」と呼ばれていて、PRPは現在、様々な医療機関でも取り扱われ、歯科や美容クリニックなどでもよく見られる治療だといいます。
また同クリニックは、疾患・免疫・美容というすべての分野を自己細胞を用いた先進医療で行うことができる国内でも珍しい部類の厚生労働大臣許可医療機関とのことです。しかも、同クリニックではCPC(細胞加工施設)の高い技術により、冷凍しない方法で幹細胞を投与できるので、幹細胞の高い生存率を実現して注目されてもいます。
■半月板損傷のマラソン選手が再生治療後、優勝!
こんなこともありました。有名な監督に伴われ、年代別の女子フルマラソンで日本1位にも輝いた選手が来院。膝関節は軟骨がすり減り、半月板も水平断裂が見られたといいます。「翌年のマラソンの大会を目指して、その選手は1億個の幹細胞の移植を3回も希望されました。当院の幹細胞の基本の数は2500万個。国内の幹細胞治療の平均投与数よりかなり多め。さらに、冷凍せず培養するので数倍以上の効果は見込めるため、1億個は効果絶大です」と坂本院長。実際に、女性選手は半年後の新潟ハーフマラソンで優勝を果たしました。
治療内容としては、半月板損傷をはじめ関節や肩の痛み、スポーツ医療、脳卒中や脊髄損傷、糖尿病、肝臓疾患、変形性ひざ疾患、肌の再生医療、毛髪再生医療(AGA)、免疫細胞療法など、守備範囲の広さにも驚かされます。取材をしてみて、再生医療は今後も目が離せないと感じました。
(まいどなニュース特約・八木 純子)