お寺に捨てられていた茶トラの子猫、キャリーバッグの中から「ここから出たいよ」とアピール
ふくくん(1歳半・オス)は、子猫の時、兄弟と一緒にお寺に捨てられていた。その数日後、千葉県を記録的台風が襲い、地域猫のことが心配になったSさん夫妻は、被害の大きかった地域に向かった。Sさんは、友人からふくくん兄弟のことを聞いていたので、お寺にも足を延ばした。
■記録的台風と地域猫
2019年9月8日から9日にかけて記録的台風が千葉県を襲った。幸いSさんが暮らす地域はライフラインが正常に機能していたが、近隣では断水や停電が起きていた。Sさんはニュースで、県内の被害の大きかった地域で飼い犬が逃げてしまったり、猫がパニックになり行方不明になったりしているのを見た。
「そこで暮らす地域猫たちはどうしているんだろう。こんな暑さの中で水もご飯ももらえず苦しい思いをしているのではないかと夫と話していたら、だんだん居ても立ってもいられなくなり14日に水とエサを持って家族で被害の大きい地域に向かいました」
神社や公園を回り、猫がいるところを探し、水とごはんを与えた。警戒していてなかなか食べてくれない子がほとんどだったが、お腹がすいていたからか、Sさんたちが少し離れるとすぐに食べてくれた。Sさんは、「みんな頑張って生きて」と心の中で思いながら猫たちの姿を見守った。
■お寺に捨てられていた子猫
Sさんは、最後に友人の母親が働いているお寺に寄った。そのお寺のまわりにも地域猫がいた。台風が来る前に3匹の子猫が捨てられていて、友人の母親が世話をしていると聞いていたので安否が気になった。3匹のうち1匹は里親が決まり、残りの2匹はお寺の事務所の中で暮らしていた。
「お母さんが持ってきてくれたキャリーバッグの中には小さな子猫が2匹入っていたのですが、1匹はとても臆病でバッグの隅にピッタリくっついて怯えていました。もう1匹の子猫は元気な茶トラの子猫で、外に出してもらうとニャーニャー鳴いていました」
友人の母親は、近くのスーパーに里親募集の張り紙を貼っているが、台風の影響で誰からも連絡がないと困っていた。さらに停電と断水で事務所内もかなりの暑さなので、子猫がかわいそうだと言っていた。
「なんとかしてあげたい!と思い子猫を見ると可愛い瞳で私をじーっと見ていました」
「連れて帰る?」と夫に聞くと、初めて子猫を抱っこして「可愛い、可愛い」と興奮していた子どもたちも「連れて帰ろうよ!!」の大合唱。
停電と断水で普通の生活すらままならない状態で、お寺にいるたくさんの地域猫たちの世話に加え、この子猫たちの世話も一人でやらなければならない友人の母親のことを考えると、Sさんは何か力になりたいと強く思った。夫も、「じゃあ連れて帰るか」と言った。
残された1匹の子猫が気になったが、知り合いが見せて欲しいと言っていると聞いたので、Sさんは安心した。
■先住猫と兄弟のように仲良く
子猫は目ヤニがひどく目が開けづらそうだった。Sさんは、先住猫のそうくんに病気がうつってはいけないと思い、自宅に帰る前に動物病院に向かった。帰りの車内で子猫の名前を何にするかの家族会議をしたのだが、捨てられていた寺の名前から「福」という字をもらい、たくさんの幸せ(福)が舞い込むようにという願いを込めて、ふくくんと名付けた。
獣医師に診てもらうと、体重660g、生後1ヶ月半くらいだということだった。目ヤニの原因は結膜炎。ノミがついていたので駆虫をしてもらった。一週間後1回目のワクチンをして、体重も順調に増え、結膜炎もすっかり良くなった。
数日後、先住猫のそうくんと初めて対面。そうくんはゆっくり部屋に入ると、ふくくんに近づき、匂いを嗅ぐと、部屋を一周してそのまま出て行ってしまった。「この匂いの正体は君だったんだな。」と確認したようだった。そうくんのストレスにならないよう、ほんの数分だけ会わせて、少しずつ2匹で過ごす時間を増やしていったが、そうくんは毛繕いをしてあげたり、しっぽで遊んであげたり、兄のように振舞った。
「最初は心配だったのですが、2匹は、あっという間に本当の兄弟のように仲良くなっていきました」
ふくくんの技はたくさんあるが、なかでもボールキャッチが得意。Sさんが、紙を丸めた小さいボールを「ふく!いくよー!」と言って上に投げると、両手でしっかりキャッチする。夜は、Sさんが寝ている間に1階のリビングからおもちゃをせっせと運び、枕元に置く。朝起きると、たくさんのおもちゃがSさんの頭上に置いてあるので、毎回笑ってしまうという。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)