プランターで出産した赤ちゃん猫を保護 「命を救いたい」母猫の代わりに夜通しミルクをあげた
「庭のプランターで猫が出産。家主さんが保健所に引き取りの電話をしたようです。保護をお願い!」…そんな"SOS" を仲間の保護ボランティアから受けて、外猫が出産したという現場に駆け付けた安藤武夫さん(東京都在住)。縁側にある腰掛けの下をのぞくと、プランターの土の上で赤ちゃん猫が小さく動いていたといいます。急きょ母猫を捕獲したあと、赤ちゃん猫6匹を保護しました。
安藤さんは8年ほど個人で保護ボランティア活動をしていますが、プランターの中で猫が出産したケースは初めてで驚いたそうです。「プランターには土だけが入っていて。ちょうど雨風がしのげるような場所に置いてあり、きっと母猫は安心して出産できると思ったのでしょう。本当は生後2週間くらいまでは人間を介在せずに母猫と離さない方が良いので、家主さんにお願いして2週間くらいそっとしておいてもらおうかと思ったのですが…このままにしていたら保健所の方が来てしまうし、車通りの多い道路に面した場所だったこともあり、とても危険。急きょ保護しました」と振り返ります。
■生後2日の赤ちゃん猫は6匹、母猫は授乳できない
保護したのは、3月17日。赤ちゃん猫たちは生後2日ほど経っていました。安藤さんによると、家主さんは猫のことで困ったら保健所にお願いするものだと思い連絡したとのこと。飼い主が見つからない場合は、保健所で殺処分されることなど全く知らなかったといいます。とはいえ、保健所からは「餌などをあげないで放っておいてください。(母猫たちが)いなくならなければ取りに行きます」と言われていたそうです。そこで、母猫たちを保護した安藤さんが自宅でお世話をすることになりました。
しかし、安藤さんが帰宅後、ケージに入れた母猫が興奮し、右前足の傷口のかさぶたをなめて取ってしまい、血と膿(うみ)が溢れ出てきたといいます。すぐに母猫を動物病院に連れて行ったところ、右前足にかまれたような傷痕があり、そこに膿がたまって化膿(かのう)していたことが分かりました。さらに、猫エイズの陽性が判明したほか、40度を超える高熱もあったという母猫。「とても授乳できるような状態ではない」と獣医師から診断を受けたそうです。
当時、母猫が授乳していなかったと見られ、赤ちゃん猫たちの体重は80グラム前後しかなかった。「私が母猫の代わりにミルクをあげなければ、この子たちの命は救えない」と思い立った安藤さん。保護したその日から、赤ちゃん猫たちにミルクをあげる毎日が始まりました。
■シリンジでミルクを飲ませたが、悲しい出来事が…
最初は、赤ちゃん猫たちが小さ過ぎて哺乳瓶からミルクを飲ませられないため、安藤さんはシリンジ(針なし注射器)で飲ませていました。しばらくは1時間ごとにミルクを飲ませ、夜中もほとんど寝ずに授乳を続けていたそうです。保護から1週間ほど経ち、赤ちゃん猫たちの体重が100グラムを超えたところで、哺乳瓶からミルクを飲ませられるように。そんな矢先、1匹の赤ちゃん猫が亡くなったのです。
「赤ちゃん猫は通常1日10グラムずつ体重が増えると言われているのですが、この子たちは小さ過ぎてそんなに飲めなくて。1日3グラムから5グラムずつほどしか増えませんでした。ようやく哺乳瓶からたくさんのミルクを飲ませられると思ったときに、1匹が亡くなりました。哺乳瓶に変えてから授乳の間隔も3時間ごとになりましたが、亡くなった1匹だけは体調が良くなくて1時間半おきにシリンジでミルクを飲ませていたのですが…」とショックを受けたという安藤さん。しかし、悲しんでいる暇もなく、残された5匹の赤ちゃん猫を守るため授乳を懸命に続けました。
■体重が増えた矢先に2匹目も…母猫に「申し訳ない」
安藤さんがお世話を始めて2週間が過ぎた4月初旬。5匹ともに体重が200グラムを超えました。保護時に体重75グラムと一番小さかった赤ちゃん猫も何とか200グラムに到達。喜びもつかの間、再び安藤さんの心を打ち砕く出来事が起きたのです。
それは4月6日のこと。一番小さかった赤ちゃん猫が朝と昼とミルクの飲みが悪く、夕方の授乳で飲みが悪ければ病院に行こうと考えていたという安藤さん。夕方、ミルクをあげるとグビグビとたくさん飲んだため、ひと安心していましたが…、夜の授乳の際、ミルクの飲みが悪かった赤ちゃん猫が冷たくなって横たわっていたといいいます。
「一番小さくて成長が遅かった子が200グラムを超えて喜んでいたところだったんです。夕方にたくさん飲めたので、安心していたんですが…。2匹目を亡くしたかと思うと悲しくて、涙が止まりませんでした。授乳できないママ猫に、本当に申し訳ないです。残っている4匹をなんとか無事に育てたい」(安藤さん)
亡くなった2匹は、川崎市内のお寺で個別に火葬してもらい納骨されました。赤ちゃん猫の命を守ろうと必死に授乳を続けてきた安藤さんでしたが、辛い別れを二度も経験され、小さな命の重さを痛感されたといいます。
ただ、先輩ボランティアの方からは「安藤さんが保護しなかったら、赤ちゃん猫は全て亡くなっていたかもしれない。ママが授乳できない以上、安藤さんは十分力を尽くしている」と励まされたそうです。
■保護から1カ月過ぎ、離乳食へ 元気な“子猫”に成長
安藤さんによると、保護してから1カ月が過ぎ、今は離乳食になって4匹は元気な“子猫”に成長しています。4匹のうちシャムミックスで真っ直ぐな白っぽいしっぽの猫が雄、ほかの3匹は全て雌猫とか。母猫も化膿した傷や体調も良くなり、改善に向かっているといいます。
実は安藤さん、自営業のかたわら保護活動をしているのですが、授乳をしている間の約3週間は仕事を休み、赤ちゃん猫たちのために尽くしたとのこと。また、赤ちゃん猫たちが無事に成長して、ウィルス検査などを受けられるようになってから、東京都内で開かれる譲渡会に参加する予定だそうです。
今回保護した猫の様子などを安藤さんはTwitterを通じて公開しています。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)