若人よ、ポテチの素手での取り合いは「将来のお口の健康」に危険かも? 歯周病にまつわる新常識

歯周病にまつわる常識が、21世紀になってどんどん変わっているのをご存知ですか。症状で悩むのは中高年になってから多いですが、実は病気のリスクを決めるのは18~20歳のころ。人の唾液を通じて感染する、歯周病菌によって引き起こされる病気のため、キスなど「感染の危険性が高い行為」に気を付けなければならないといいます。

そのほか歯周病の「新常識」について、歯科医師の宮本日出(ひずる)さんに詳しい話を聞きました。

■ささいなことでも感染する可能性がある歯周病菌

-そもそも、歯周病は「感染」する病気なのですね。

歯周病は歯と歯ぐきの間に繁殖する歯周病菌によって起きる病気です。炎症によって歯ぐきや骨が破壊され、進行すると歯が抜けたり全身の健康に影響を及ぼします。

歯周病菌にはいくつか種類がありますが、特に病原性が高い細菌が3種類あり、それらをまとめて「レッドコンプレックス」と呼んでいます。レッドコンプレックスの中で最も病原性が高いのが「P. gingivalis」(以下P.g.菌)と呼ばれるものです。医学調査によりバラツキはありますが、15~40歳の健康な歯周組織を持つ口の中から20~50%の割合で、P.g.菌が検出されています。

歯周病菌は18歳から20歳のころ、口の中に定着します。ですのでキスなど感染しやすい行為はこのころは避けた方が良い…というのが現在の「常識」です。

-歯周病は中高年の人が悩む病気と思っていました。若いころから気をつけないといけなかったのですね。

こういった知識は、歯科医療業界では「21世紀の常識」として、歯科医師はもちろんのこと、歯科衛生士まで広まっています。歯周病については、20世紀で考えられていた常識は覆され、さまざまなことが明らかになってきました。あらためて整理すると、原因や感染時期など、7つの項目において20世紀と21世紀で全く異なることが分かります。

-どのようなことをすると歯周病に感染しやすいのか、もう少し詳しく教えてください。

相手の唾液から菌をもらうわけですから、相手の唾液と接する行為が感染経路になります。たとえばキスは直接感染ですから、最も危険な行為です。その他の偶発的(間接)唾液感染には、他人と食べ物を介した感染が考えられます。

大皿に盛られた料理を直箸で取る行為がそれに当たります。また、ピザやお菓子、ポテトチップスを数人で素手で取り合う、飲み物の回し飲みなども、全て感染の可能性があります。

-そんなささいなことでも、ですか…。

日本では直箸で料理を直接取る行為はマナー違反とされていますが、中国や韓国ではそのようなルールはなく、むしろ友好の証とされています。実際、中国や韓国では、日本と比べ歯周病率が高いデータが出ています。

一方、大阪名物・串カツ屋さんでは「ソース2度付け禁止」が基本ルールになっていますが、これは歯周病予防の観点からすると、とても良いマナーです。

ちなみに、ペストが流行したEU圏では、当時流行していた「チーズフォンデュ」が感染拡大の原因だったとされています。不特定多数の人が串に刺した食べ物を温められたチーズに付けて食べる行為は、間接的な唾液感染なのです。会話中の唾液が飛んでも感染しますから、家族内で菌が移ることは多いです。

■歯周病菌と「うまく付き合うこと」はできるのか

-他人に感染させるおそれがある場合、自分自身が歯周病菌を持っているか気になる人もいると思います。感染を確かめる方法はありますか。

唾液検査で自分の菌を調べることができます。一般的にクリニックで行っている方法は、「虫歯リスク・歯周病リスク」を調べる方法で、最近はP.g.菌の有無を調べる簡易的な方法が出てきています。

実はP.g.菌にも種類が6種類あり、その中の1つが特に病原性が高く、44倍以上の歯周病を発症させる悪性度を持っているといわれています。そのP.g.菌の種類まで調べるには、検査会社や大学病院で検査する必要があります。

一方、口の中の状態から推測することも難しくありません。口の中を丁寧にブラッシングしていてもP.g.菌を持っている人は、歯周病が発症し進行しています。反対にP.g.菌を持っていない人は、口の中が汚れていても発症していないことが多いです。

-心配な歯周病菌が口の中にいた場合、なんとかして取り除くことはできないのでしょうか。

菌をやっつける内容にはいくつか段階があります。「消毒」は除菌と同じような意味で、菌の数を減らすに過ぎません。「殺菌」は消毒よりもう少し効果のある方法ですが、いずれも菌が生き残るので、歯周病的には意味はありません。菌は10分から2時間で数が倍に増えますから、90%の細菌をやっつけても1~10時間で元の数に戻ります。ドラッグストアやネットで「歯周病を除菌!」といったセールストークを見ることがありますが、あまり乗らない方が賢明と思われます。

また、全ての菌をやっつける方法を「滅菌」といいますが、そのためには2気圧・121度の中に20分いることが必要です。菌の前に人間がやられてしまうでしょう。歯周病菌のような、常に口腔内に住み着いて絶対に消失しない菌のことを「口腔内常在菌」といいますが、現代の医療ではそのような菌を治療する方法はありません。それよりも、自分の菌と共存する方法が最も良いといわれています。腸内細菌の付き合い方と同じですね。

-ということは、歯周病菌とは…一生付き合うことになるのですね。

口腔内常在菌を変えることはできませんが、うまく付き合うことはできます。要は、菌が活発にならずに、生体(からだ)とバランスを保っていれば良いのです。そのためには、口の中を清潔に保つ「口腔ケア」が大切です。

口腔ケアは「セルフケア」と「プロケア」に分かれます。セルフケアは、自分で日頃に行う歯磨きのこと。自分にあった歯ブラシ、歯間清掃グッズ(フロス、歯間ブラシ)、歯磨き粉、洗口液などを使い、口の中に浮遊するプラーク(菌の塊)を除去し、菌が活発になる元を抑えます。適切な方法はプロ(歯科医院)で教えてもらいましょう。

プロケアとは、歯科医院で行ういわゆる「クリーニング」や「メンテナンス」をさします。専門的には「バイオフィルム治療」といいます。本当に悪い菌は薬や免疫が効かない「バイオフィルム(菌膜)」の中に潜んでいるので、歯科医院で剥ぎ取るしかありません。

たとえ悪質なP.g.菌を持っていても、口腔ケア(セルフケア+プロケア)をしっかり行うことで、歯周病予防になります。歯周病が発症する40歳よりも前から始めることで、十分に対応できます。発症した後でも、口腔ケアをしっかりすれば、進行させずに症状を沈静化させ「寛解」できます。

◆宮本 日出(みやもと・ひずる) 歯科医師・歯学博士。幸町歯科口腔外科医院・院長。1965年石川県金沢市の日本海のそばで、三人兄弟の末っ子として生まれる。「オープンカーで女の子とデートしたい」という不純すぎる動機で歯科医師に。石川県立中央病院、豪アデレード大学、明海大学を経て、2007年、埼玉県志木市に幸町歯科口腔外科医院を開業。フジテレビ系列「ホンマでっか!?TV」に口腔外科専門家として登場するなど、歯やお口の健康について最新の情報を分かりやすく発信している。

(まいどなニュース・川上 隆宏)

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