壁の中から子猫の声が! 救い出してくれた住職をお母さんだと思い、16年間ずっとベッタリ

大阪府にあるとあるお寺、お朝のお勤めを住職であるお父さんと一緒に行う猫がいます。16歳のみぃくんです。住職の左肩が彼の定位置。住職の右手は木鍾を叩くので、空けておかなくてはならないというみぃくんなりの気遣い。でも、左手も鐘を叩くので左肩に乗られるのも少し困ります。

お勤めが終わると、今度はお父さんのあとをずっとついて回ります。お父さんが何か用事をして構ってくれないと、なんとみぃくんは従業員さんを呼びにいくんですって。何をするのかというと、お願いです。「お父さんが抱っこしてくれないから、ちょっと言ってやって」と。お父さんの方向をチラチラ見ながら「にゃー」と言うのだそう。

こんな風にみぃくんはお父さんが大好き。昨年から続くコロナ禍は、みぃくんにとって願ってもないもの。だって、お父さんがずっと家にいてくれるんだもん。檀家さんのところなんて行かずに、ずっと一緒にいてね。

みぃくんは、お父さんのことを自分のお母さんのように思っているみたい。それには理由がありました。今から16年前、みぃくんはお父さんに救い出されたからです。

恐らくみぃくんの本当のお母さんは野良猫。お寺の屋根裏でみぃくんを産んだのですが、生後1週間も経たないうちにみぃくんは落下。外壁と内壁の間に挟まってしまいました。暗く狭い中、身動きのとれないみぃくんは心細かったに違いありません。声の限り鳴きました。

「助けて」

すると轟音が響いたあと、真っ暗な壁の中に光が差し込みました。そして、温かく大きな手がみぃくんを抱き上げたのです。

「もう大丈夫」

その救いの手を差し伸べた人こそ、お父さんでした。まさに地獄に仏といえるでしょう。大工さんを呼んで壁を壊してくれました。

すぐに動物病院へ連れていき検査をし、その後はお父さんの部屋でみぃくんは過ごすことになります。母乳から得られるはずだった免疫はほとんどないはずなので、家族であってもみぃくんと接触は控え目。お父さんがいる時に少しだけ、当時小学生だった子供たちはみぃくんと遊べました。

お父さんがここまで過保護になってしまったのは、以前みぃくんと同様に壁にはまった子猫を助けられなかった悲しみから。その子も生後1週間前後でした。あの時、どうすれば良かったのか思い悩んだ結果が、家族ですら接触を限定する方法でした。もう救った子と別れたくない。

お父さんの愛情を一身に受け、すくすくと大きくなるみぃくん。生後半年を超えて、ようやく他の家族とも一緒に過ごすことになりました。といっても、ずっとお父さんとだけの生活が続いていましたので、みぃくんはお父さんにベッタリ。お父さんの左肩に乗って、お寺の中をのんびり移動です。

実はこのみぃくん、お父さんが言うことなら分かるよう。お父さんが「ちゅーるが欲しい人は手をあげて」と言うと、右手をひょいとあげるんですって。数回お父さんが手を取って教えると、覚えたのだそう。

こんな可愛い姿を、お父さんは写真におさめることができません。カメラを構えると、みぃくんはお父さんに寄っていってしまうから。他の家族や従業員さんがカメラを構えると、みぃくんはぷいっとどこかに行ってしまいます。

こんな感じですから、お父さんの悩みは自分以外に懐いてくれないこと。もっとみぃくんをたくさんの人に可愛がってもらいたいと思っているのに、当のみぃくんはお父さん以外はあまり好きじゃないみたい。「困ったなぁ」と言いながらも、お父さんは嬉しそう。

こんな幸せな時間が16年続いています。猫の平均寿命を考えると、残された時間はあまりありません。今、お父さんがみぃくんに願うことは「できるだけ長生きしてほしい」。一緒にいる時間が長いからこそ、みぃくんがいない生活が考えられないとのこと。

みぃくんもお父さんがいない生活は考えられないでしょう。暗い壁の中に光を差し込んでくれた人なのですから。

お互いに光り輝く存在。それを見つけられたからこそ、みぃくんとお父さんの時間は穏やかに過ぎていきます。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)

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