「元野犬は私の相棒」・・・動物愛護推進員、8年間で約300匹の子犬を譲渡につなげた 活動への思いを語る
元野犬の染五郎くんが、滋賀県動物愛護推進員の松若菊美(まつわか・きくみ)さんのところに来たのは8年ほど前。当時、松若さんは推進員として同県保護管理センターから収容されている野犬の子犬を引き出して保護する活動をスタートしたばかりでした。
元野犬の染五郎との出会いは、滋賀県保護管理センター
1匹目の譲渡を終えたあと2匹目の引き出しをしようと、松若さんがセンターの職員に声を掛けたときのこと。
「野犬いいひんの?」
「4カ月くらい。ちょっと大きいのが2匹いるけど・・・」
そこで、松若さんは数人のボランティアとともに、犬房(収容棟)に足を運びました。まず1匹だけ出すこととなり、実際に犬房の外に出そうとつかんだのが染五郎くんでした。
「私がつかんで出した際に、染五郎は何十メートルも垂れ流していました。よっぽと怖かったんでしょう。連れて帰って2週間ほどは人前で餌を食べないし、目も合わさない子でした。でも徐々にこっちを見たり、目が合ったりするようになってきて・・・その小さな変化がうれしかったです。また、慣れない首輪とリードを付けてお散歩することなどが苦手ではありましたが、トイレは教えなくてもすぐにできるようになり、とっても頭がいい子だなと思いました」と松若さん。
「野犬たちは危険を回避しながら自然界で生きていく術を身に付けています。染五郎も子犬ではありましたが、普通の飼い犬よりも用心深く、犬というより人の感情に近いものを持っているように感じました」と振り返ります。
野良犬が自然繁殖して野生化したのが「野犬」・・・子犬でも殺処分対象
そして、感情豊かな染五郎くんをおうちに迎えられてから、野犬のイメージがガラッと変わったといいます。
「染五郎は私にとって一番頼りになる相棒。まるで私の保護活動を後押ししてくれるかのように、私が野犬の子犬を自宅に連れて帰ってきたら優しく接し、遊んでくれます。心強いです。私たち家族にも人間なのかと思うくらい、大きな愛情を持って寄り添ってくれます。保護活動を始めた当初から染五郎がいてくれたからこそ、たくさんの野犬の子犬を引き出すことができたと思います。
多くの方が一般的に『野犬(やけん、のいぬ)』というと、眼光が鋭く向こうから襲ってくるような怖いイメージがあるかと思います。確かに、私たち人間が追い詰めたりしたら自己防衛として襲ってくるかもしれません。でも、野犬は好きで野犬になっているのではありません。もともとは人が飼っていた犬から始まったんです。人が捨てた犬、あるいは迷い犬が野良犬となって・・・その野良犬が山野に生き残り、 自然繁殖して野生化したものが野犬です」
松若さんによると、野犬は子犬でも成犬でもセンターに収容されたら殺処分の対象だとのこと。以前はセンターでの譲渡もあったようですが、野犬は万人に懐かない犬が多く一度は譲渡されても手に負えず返されることもあり、「譲渡不可」になったそうです。
保護活動をする前は、センターでトリマーとして譲渡候補の犬をトリミングしていたという松若さん。そのうちセンターの職員らと意見を交わすなど顔なじみとなり、犬房に出入りするように。そこで野犬の子犬でさえも譲渡候補にならず、殺処分の対象になることを初めて知ったことが大きなきっかけで、センターから野犬の子犬を引き出す活動を始めたといいます。
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警戒心の強い野犬、せめて子犬だけでも「生きる道を」・・・推進員の思い
滋賀県保護管理センターによると、近年における野犬の捕獲数は令和元年度が86匹(うち子犬74匹)、同2年度は63匹(うち子犬51匹)。年齢を重ねた成犬は人間に対して警戒心が強く賢いとのことで、なかなか捕まらないそうです。今年で保護活動を始めてから8年ほどという松若さんは、これまで約300匹の子犬をセンターから出して、里親さんへの譲渡につなげてきました。
松若さんの活動は、まず野犬の子犬が捕獲されるとセンターから連絡をもらい、センターに収容される1週間の期限が切れたら迎えに行きます。迎えに行くころに合わせて、混合ワクチン接種やノミ・ダニの駆除、お腹の虫下しの処置などを済ましてもらえるようセンター側に依頼。引き出したあと、下痢あるいは皮膚の状態が悪いなどさまざまなトラブルのある子については病院に連れて行くとのこと。さらに、松若さんはセンターから出した子犬を毎日シャンプーして皮膚のケアなどしながら、松若さんの犬たちと一緒に“人間社会”での生き方を子犬に学ばせ、譲渡につなげているそうです。
「(センターから)出してきた頭数が多いときは、これまで私が子犬を譲渡した里親さんたちが手分けして預かってくれます。里親さんたちとは何年経っても“チーム”となって困ったことがあればお互いに相談にのったり動いたりしている関係なんです」と松若さん。
子犬の里親さんを探す際には「子犬をケアしながらSNSや譲渡した里親さんたちと協力して新たな里親さんの募集をかけます。里親さんになっていただいた方には、わが家にいる間は『うちの犬』としてお世話をしているので、かかった医療費など一切請求はしません」と話します。
さらに、これから犬を飼いたいと考えている人に向けて、松若さんはこう訴えます。
「野犬が繁殖したのは、人間の無責任な餌やり。それも元はといえば人間が無責任に犬を捨てたから。とはいえ、全ての野犬を保護することは難しいことです。私は、せめて万人に懐きやすい子犬だけでも殺処分ではなく、『生きる道を』と思って活動しています。
犬を飼いたいと思っている方に今一度考えていただきたいのが、迎えた犬が介護になったときの自分の年齢や自分が対応できる大きさの犬なのかどうか・・・飼ったあとの人生を思い描いた上で検討していただきたいです。また、今飼っている方は飼えなくなったら捨てたり、センターや保健所に連れて行ったりしないでください。これ以上不幸な野犬を増やさないためにも」
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子犬の里親募集についてのお問い合わせは、松若さんのFacebookのDMまで。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)