「人を疑うのは、つらい」困った人のための“無料食堂”に高額弁当を大量注文?2カ月で200食 店主の苦悩
お金が無くお腹をすかせている人に、温かい食事をお腹いっぱい食べてもらおうと奈良のとんかつ店が始めた「無料食堂」。さまざまな反響を呼びつつ、5月で丸3年を迎えた取り組みですが、この春以降、店長やスタッフたちを困惑させる事態が起きています。
■厚切りロースカツ弁当8個、ミックス弁当10個…?
「見た目でお金に困っていらっしゃるかわかりませんので3年間無条件で食事を提供してきた無料食堂ですが、最近元気でお金もある印象の人を中心に『厚切り弁当8個』『ミックス弁当10個』というようなご利用が増えて困惑しています。どこかで意図せぬ趣旨で情報がひとり歩きしてしまっているのでしょうか?」
「まるかつ」店長の金子友則さんが悲痛なツイートをつぶやいたのは、5月10日夜のこと。2.8万リツイート、5.4万いいねが付くなど瞬く間に拡散し、「悲しいし、寂しい」「本当に困っている人が利用しづらくなる」などの声が寄せられました。
金子さんによると、こうした注文が寄せられるようになったのは、今年3月、4月から。しかも「急激に増えた」といい、「最初はコロナ禍で困っている人が増えたのかと思っていましたが、さすがにちょっと異常だと思うようになった」と話します。
■散々お金で苦しんできた人が、一瞬でも解放されたら
無料食堂を始めた当初から金子さんの元には「200円とか少しでもお代をもらった方が」「子ども限定か、数量限定にしては」などの意見も寄せられました。それでも金子さんが「無料」にこだわったのは、シンプルに「今、数十円すら払えない」という人がいるから。「散々お金で苦しんできた人が、一瞬でもお金から解放される時間を」といい、「代わりに働いて貰えば」という声にも、「『働かざる者、喰うべからず』と考えられがちですが、様々な事情で働くことのできない人もいます。働けない自分に絶望し命を絶つ人も少なくない中、『働けなくても生きていこう』『お金がないことと尊厳とは別問題』というメッセージを発信したいし、何より、本当に苦しい中にいても、とんかつを食べて『美味しい』と思ってもらえたら、それが何よりも嬉しいんです」と話します。
だからこそ「これまでどんな服装、どんな態度の人が利用を希望されても、お断りすることはなかったし、今後もしません」と金子さん。“お金や体力がありそう”でも、一時的に困っている事はあり、実際に財布を失くした長距離トラックの運転手が店を訪れたことも。身なりはキレイだったとしても、食費はまともに与えられていない、いわゆる「経済的DV」の可能性も排除できません。
金子さんは、3年以上無料食堂を続けてきた経験から、「本当に困っている人の中には他人に助けを求めることが苦手な人も多い、と感じています。ほとんどの人が遠慮がちに、本当に困った挙げ句、きっと勇気を振り絞ってご連絡下さったのだろうな…という態度で、私たちも本当に喜んで下さっていると感じられる事が多かったです」と振り返ります。
■人を疑うことは、つらい
ところが、今回の人達からはそうした素振りは感じられず、「無料で食べられるんですか?やったー、ラッキー!」「友達も無料で食べたと言っているから自分も!」というような軽い感じで、中には「高速乗ってわざわざ来たんだから早くして!」と店員に迫る利用者も。頼むのも2000円近い高額メニューを大量に。こうした注文は2カ月間で持ち帰りと店内飲食合わせ200食近くに上り、店員たちの話を総合すると恐らく同一人物や、その家族・友人とみられる例も少なくないといいます。
無料食堂は3年間で延べ約800人が利用してきました。ですが、利用者を毎回確認することはありません。それは注文する人の事もありますが、何より「『何回目かを確認する』という作業は、思いのほか店員のストレスになるんです」と金子さん。「今回の事で、この活動が本当に正しいのか悩んで涙ぐむ店員もいます。人を疑うことはつらいことだと思います」と肩を落とします。
今回の事態を受け「不本意」としつつ、当面の間、無料食堂の注文は1人5個までになりました。
「『どんな人でもタダで食べさせてくれるとんかつ店がある』という間違った情報が広まってしまったとしたら、その一人歩きを止めることは難しいと思います。それでも、SNSなどでつながってくださっている皆様のお力も借りながら、コツコツと正しい情報発信をしていくしかない。現在、もし当店が意図しない人が利用されているとしたら、きっとその人も悪気はないと思いますので、誤解を解いていきたい。そう思っています」
(まいどなニュース・広畑 千春)