裕仁皇太子の台湾視察の献立を再現! 台湾のホテルが復刻した「台湾行啓」の料理「摂政宮皇太子御宴」とは

 今から約100年前の1923年4月、日本の統治下にあった台湾で官僚総出とも言える一大行事が行われていた。のちに昭和天皇となる皇太子裕仁(ひろひと)親王が摂政として台湾を視察した「台湾行啓」だ。12日間で台湾の主要都市を訪問した。

 さてその台湾行啓の際に裕仁親王が召し上がったというコース料理が、時を越えて台湾で再現、「摂政宮皇太子御宴」という名で一般への提供が始まったという! この宴会料理が台湾料理の基礎になったとも伝えられているが、当時の台湾料理は、今日の台湾料理とは何が異なるのだろう? 日本と台湾の歴史・文化に関わる料理について取材した。 

■皇太子のための料理「摂政宮皇太子御宴」がすごい

 台湾行啓の宴会料理を復刻させたのは、台南市にある5ツ星ホテル「シルクスプレイス台南(台南晶英酒店)」だ。これらの料理は裕仁親王が旧台湾総督官邸(現・台北迎賓館)で召し上がったもので、当時の新聞によると料理は全13品だという。シルクスプレイス台南では、さらに新作料理1品を加えた計14品が提供される。料理の詳細はというと……

 【摂政宮皇太子御宴・料理一覧】

1.雪白官燕(ツバメの巣のミルクゼリー添え)

2.金錢火鶏(豚肉の挟み揚げ)

3.水旭鴿蛋(福州風ワンタン)

4.紅燒大翅(海鮮スープ)

5.八寶焗蟳(カニと豚肉の揚げ団子)

6.雪白木耳(白キクラゲのスープ)

7.半點炸春餅(揚げ春巻)

8.紅燒水魚(スッポンの煮付け)

9.海參竹茹(ナマコとキノコのスープ煮)

10.如意鱧魚(スズキの蒸し)

11.火腿冬瓜(冬瓜とハムのスープ煮)

12.八寶飯(もち米のデザート)

13.杏仁茶(杏仁ミルク)

 以上13品が当時の料理の復刻版。そして、14品目となるロブスターのインパクト大な新作料理「龍騰躍八仙」が加わる。

 どれも「美味しそう!」という言葉だけでは言い表せないほど、美しく精緻を極めた料理だ。ぜひ味わってみたいものだが、なぜこのタイミングで、そして台南のホテルで料理の再現が行われたのだろうか? 料理を提供するシルクスプレイス台南に聞いてみた。

■当時の料理をどのように再現? ホテルに聞く

(※取材は、台南市の感染警戒レベルが準3級へ引き上げられる前に行った)

-台湾行啓の料理を再現されたきっかけは何ですか?

シルクスプレイス台南「台湾の古都・台南に位置し、南台湾の豊かな食文化を受け継いでいる当ホテルでは、『食芸復興(食文化ルネッサンス)』という運動を推進しています。過去にも台湾の国宝級シェフによる宴会料理の提供や、『阿舎菜』と呼ばれる伝統的な台湾高級料理の再現などを行って参りました。

台湾の食文化の精神を継承するため歴史を辿っていく中で、約100年前の台湾行啓で裕仁皇太子殿下が台南を訪問され、当時の台南州知事官邸(現・知事官邸生活館)に宿泊されていたことがわかりました。この旧台南州知事官邸は台湾に現存する2カ所の御宿泊所のうちの1つです。

そして当時の新聞では裕仁皇太子殿下が召し上がった台湾料理の詳細が大々的に報道されていたこともわかりました。そこで当ホテルのシェフが一丸となって当時の13品を調査・再現し、そこに新作料理を加えた14品のフルコースを提供することにしました」

 こうして、シルクスプレイス台南と御宿泊所となった知事官邸生活館との共同プロジェクトとして「摂政宮皇太子御宴」はスタートしたのだ。

-再現にはどのようなプロセスが踏まれたのでしょうか?

シルクスプレイス台南「台湾行啓に関する文献や書籍を調査したほか、研究者への取材もしました。また実際の台南ご訪問のルートを訪ねて、当時の雰囲気を体感することも試みています」

 着実に当時の料理の再現へと向かって行く中で、最も大変だったのは、資料で確認できる情報に限りがあったことだという。

シルクスプレイス台南「資料にあったメニュー名や料理の説明は参考にはなりましたが、すでに台湾の飲食文化や調理の習慣は変わっています。そこでチームは資料の情報から料理を考えるのではなく、まず使われた食材の本質を捉えることから始めました。そこに料理への解釈を加え、様々な調理法を試し、現代人の好みにも合うよう整えていったのです」

 こうして約半年後、「摂政宮皇太子御宴」は完成した。

 さて、現代人の私たちが「台湾料理」と聞くと、台湾で入手できる食材を地元ならではの手法で調理されたものをイメージするが100年前の認識は少し異なるようだ。

 シルクスプレイス台南によると当時の「台湾料理」というのは荘厳華麗な料理を指し、特に台湾行啓で台湾料理と呼ばれたこの宴会料理は国内外を問わず取り寄せた選りすぐりの一級の食材を中華圏の手法で調理されたものだ。その歴史と解釈が体現されいるのが新作料理である。

-新作料理「龍騰躍八仙」はどういった経緯でコースに加えられることになったのでしょうか?

シルクスプレイス台南「当時の新聞『臺灣日日新報』によると、皇太子殿下は料理の中で特に「八寶飯(もち米を蒸したデザート)」を好まれたそうです。ですが、現代は甘い料理より塩味の方が好まれるため、当ホテルの料理長は甘くない八寶飯・「龍騰躍八仙」をコースに加えることにしました」

 「龍騰躍八仙」はロブスター、アワビ、ホタテの貝柱、卵黄の塩漬け、干しエビ、キノコ、2種の中華風腸詰めという8種類の高級食材を、ハスの葉で包んだご飯と一緒に1時間蒸した料理だ。台湾の伝統的な手法を用い、大海を漫遊するロブスターがイメージされいる。視覚と味覚を同時に満足させる一品だと言えるだろう。

 「摂政宮皇太子御宴」では料理の再現だけでなく、食事の演出にも心が配られている。料理はホテルのレストラン内で提供されるほか、裕仁親王が実際に宿泊した知事官邸生活館で楽しむこともできるのだ。

シルクスプレイス台南「知事官邸生活館では、皇太子殿下がお使いになった書斎や休憩室を解放しています。当時を物語る貴重な文物の陳列もあり、台灣行啓の一部を味覚、視覚、触覚、嗅覚から体験できると言えるでしょう。お客様には時空を越えた新しい食事体験をお楽しみいただけたらと思います」

 料理だけでなく演出にもこだわられた「摂政宮皇太子御宴」。予約が10名からということもあり、家族や友人同士での会食目的がほとんどであるという。

 価格は14品のフルコースが5800台湾ドル / 1名(約2万3000円)、9品コースで3600台湾ドル(約1万4000円)、ハーフコースが2800台湾ドル(約1万円)だ。(要予約、いずれも+10%のサービス料が必要)

 そしてこれらは期間限定ではなく、通常メニューとして提供されるとのこと。今後、日本に住む私たちにも味わえる機会があるかもしれない。1日も早く新型コロナウイルスの流行が収束し、台湾と自由な往来ができる日を心待ちにしたい。

(まいどなニュース特約・沢井 メグ)

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