「フワフワ」「クルリンパッ」オノマトペ展示を提案したディレクター「コシノヒロコさんの人間像見てもらえたら」

「兵庫県立美術館」(神戸市中央区)で、世界的ファッションデザイナー・コシノヒロコさんの集大成となる展覧会が、5月12日より再開され、6月20日まで行われる(緊急事態宣言の発出で中断されていた)。

同美術館での展覧会は、5年前から準備が進められていたという。安藤忠雄さんの建築が好きで、芦屋市内の自宅も安藤建築だというコシノヒロコさんが、「安藤さんの建物の空間で、自身のコレクションとアート作品の世界を繰り広げたい」と熱望し実現。「今、コロナ禍で精神的に過酷な日々を過ごす人に、この展覧会で少しでも元気を取り戻して欲しい」とコシノさんは、内覧会でアピールした。

展覧会のクライマックスとなる見どころは、歴代のコレクションの中から選りすぐった106点のファッション作品で、コーディネートされたマネキンが大階段に並ぶさまには圧倒される。そして何よりも、全体の展示構成がとにかく斬新だ。

14で構成されるテーマが「フワフワ」「ペチャクチャ」に始まって、「ルンルン」「ニョキニョキ」「クルリンパッ」という具合に、それぞれ「オノマトペ(擬音語)」で表現されている。会場内に掲示されるそれぞれの言葉は、展示内容をイメージしたオリジナルのタイポグラフィーで表されている。

このアイデアを提案したのは、コシノヒロコさんの長年の友人であり、仕事仲間でもあるアートディレクターの三木健さん。展覧会の公式図録のデザインも手がけた。5年前から準備は進めてきたが、コロナ禍に。コシノさんが表現したいことも変わったという。今までに、コシノヒロコさんの「書」の展覧会のディレクションやポスターデザインにも関わってきた三木さんに話を聞いた。

ーー企画していた時からすると、世の中がガラッと変わってしまいました。

もともと、「真の豊かさってなんだろう?」っていう問いを掲げていたのですが、ヒロコさんも「老若男女、全ての人にわかりやすいような形で、この時期に何を届ければいいんだろう」と悩んでいました。ヒロコさんは「戦時中の私の記憶の中にある不安な状況を超えるかもしれないぐらいに大変な世の中だ」と言い、そんな時に「母がパステルを買ってくれて、食うや食われへんやという時に、うれしくてずっと絵を描いていた」と言いました。ものを描く自由さ、豊かさみたいなものは気持ちの中にあったんですね。そこをヒントにワクワク感やドキドキ感を表現したいなという思いが湧いてきました。

ーー「ワクワク、ドキドキ」もテーマの中に入っていますね。オノマトペのアイデアはどこから?

ヒロコさんが、洋服についてスタッフに指示を出すときに「ここはもう少しギュッとやってパッとこうして」とか「シュワシュワッと、こんな感じよ」とか言っているのを聞いてたんですね。確かにイメージが伝わりやすいですよね。それで、オノマトペを提案したんです。そしたらヒロコさんも「確かに私、ギャッとかガツンとかよく言うてると言われる」って。

閉塞している社会の中で、ときめきみたいなものや自由奔放な思い、絵を描くことのうれしさ、楽しさや人を喜ばせることを、これから先も人にバトンしてリレーしていくことが大切だということを、オノマトペなら分かりやすく伝えられるかなと思いました。

ーー展覧会の最初は「フワフワ」でした。

まず、人間・コシノヒロコを作ってみたいというアイデアがあったんです。で、巨大なヒロコちゃん風船人形を作りました。兵庫県立美術館の外観にも巨大なカエルがいるでしょう。私がデザインし、同じ制作会社に作ってもらいました。空中に浮いているということで「フワフワ」。初めのご挨拶として「みなさんのココロをちょっとフワフワとさせてこのてんらんかいをごらんください」というメッセージを添えています。

ーー「ペチャクチャ」の次が「人生オノマトペ 84」ですね。

入ってすぐに、ヒロコさんのお茶目なところや、無茶してるところを出してよということで、ゆるく人生の年表のようにして、「母、不倫」みたいな家族のことや、タンスにゴンのCMなど、起こった出来事を84年間並べました。84歳の人間・コシノヒロコが見えた方がいい、そこを理解して次に進んだ方がいいと思ったので。展覧会のゆるやかなコンテンツにもなっています。作家の年表などは最後に持ってくることが多いので、普通の展覧会とはちょっと違う始まりですよね。

ーーそこから次に見える鮮やかな黄色い壁が、印象的でした。

黄色の壁がパーンと見えてきたでしょう。ここは「ルン ルン」です。安藤忠雄が、建築で自然を切り取るんだったら、コシノヒロコは安藤空間を色で切り取ってみましたという感じです。当初はピンクの壁を想定していたのですが、ヒロコさんが「黄色にしたい」ということで。絵の数も半分以下に絞りました。

ーーそして墨絵の作品とファッションを紹介するモノトーンの空間は「ビュー」。

床を真っ黒にするってことになって。こんな絵を描いているのか、これがテキスタイルになっているのかってことが分かりますよね。前の空間では、入った瞬間にワッと色が広がっている。次の空間は黒。その場で体験しないと分からない余韻が味わえます。

ーー次は「ニョキ ニョキ」の世界です。

ニョキニョキはヒロコさんが当初からやりたいというアイデアだった。タイツが300以上あるから、壁から足が生えているようにしたいと。打って変わって驚きますよね。

ーー「クルリンパッ」も面白かったです。

体操競技の日本代表のユニフォームです。もともと展覧会の開催時期は、東京五輪が終わった後の静かな時期を想定していました。選手の持っている闘志みたいなものの内側に入る感じにしましょうということで、ユニフォームの内側に入ったような気分になれる空間です。歌舞伎の隈取りや市松などの伝統文様といった日本文化がモチーフになっていたので、それをリデザインして壁に3色で表現しました。

ーーまだまだ展開があるのですが、最後の106体のコレクション作品が圧倒的でした。

階段に並べたのは、僕のアイデアなんですが、安藤忠雄の大階段をオマージュして、もう一度そこに人も歩けるぐらいの階段を作ろうと思いました。コンセプトはオーケストラで、ヒロコちゃん人形に指揮棒を持たせようということになって。ちょうど指揮者が着る「燕尾服みたいなんあるわー」とヒロコさんが服をチョイスしました。

そして、最後にミュージアムショップに入っていくのですが、その後に「未来」を続けます。図録でいうと巻頭にある文章を出口に持ってきた感じです。先ほどのパステルの話、普通はこれを先に見せるのかもしれませんが、これは「終わりじゃない、回顧展じゃない、未来へ続くんだ」ということを伝えたかった。で、ヒロコさんが幼い頃にワクワクして絵を描いていたように、子どもたちに笑顔の絵を描いてもらいました。

展覧会を見て感じて欲しいのは、ヒロコさんが子供の頃に買ってもらったパステルで絵を描いていた「ワクワク、ドキドキ感」を原点にして持ち続けてきた、チャーミングな遊び心や、大胆なのに繊細、ちょっとしたしゃれっ気などです。コシノヒロコさんの人間像を見てもらえたら、というのが一番の思いです。あんな小さな体からこんなエネルギーがどうやって出てくるのか。色遣いのセンスなど、本当にすばらしいです。

■コシノヒロコ展ーHIROKO KOSHINO EX・VISION TO THE FUTURE 未来へー

会期:2021年5月12日(水)※再開~6月20日(日)

時間:10:00~18:00(入場は閉館30分前まで、予約優先制)

料金:一般1800円

会場:兵庫県立美術館(兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1)

※緊急事態宣言発令中(5月31日まで)の金・土曜は、19:00まで

(まいどなニュース・金馬 由佳)

関連ニュース

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス