カラスの襲撃から奇跡の生還! 恐怖で心を閉ざしていた猫が、ようやく人間と寄り添えるようになるまで

野良猫の子猫がカラスに襲われて絶命をする。それは、自然の摂理かもしれません。しかし生き残ったなら、精一杯生きてほしい。そう願っても罰は当たらないでしょう。

大阪府の10歳になるむつみちゃんも、カラスから襲われたものの生き残った猫。兄弟猫はカラスに襲われ残念ながら……。むつみちゃんは兄弟たちの亡骸の片脇で、呆然としていたところ保護されました。

保護してくれたのは、姫路市の料理屋の姉妹。そこを訪れたのが、今むつみちゃんと一緒に暮らしているHさんです。当時は姫路市に住んでいました。

むつみちゃんはよほど怖い思いをしたのか、保護してくれた姉妹にも敵意剝き出し。満足なお世話もできない状態です。このままなら保健所に…というところ、Hさんが飼い主に名乗り出ました。

凶暴な子猫だったむつみちゃん、なぜか初対面のHさんのお膝には載ったのです。これには姉妹もびっくり。このままHさんに連れて帰ってもらうことになります。

この頃、Hさんは個人的に猫の保護活動を行っていました。保護した猫をニコニコ動画の生配信で紹介し、里親を探していたのです。むつみちゃんが家の子になった日は、むつみちゃんの紹介です。この時、まだ名前はありませんでした。

すると、リスナーさんの一人が、「今日は6月3日だから、6の【むつ】と3の【み】でむつみにしたらどうだろう」と提案してくれたのです。これなら出会った日を忘れません。

こうして、2011年6月3日はHさんとむつみちゃんにとって、記念すべき日になりました。

Hさんのお膝には載ったものの、むつみちゃんは孤独が好きな猫。ご飯だけ食べて、あとは知らんふり。ゴロゴロすりすりなんて夢のまた夢といった感じ。まだ自分以外の生き物は怖かったのかも知れません。

そんなむつみちゃんの転機は、2014年の冬。新たに子猫がH家に迎えられることになりました。この子は、自宅マンションのエントランスにいた生後1カ月に満たない子猫。恐らく野良猫の子で、母猫に捨てられたよう。

それもそのはず、脳に重い障害があったのです。獣医師からは「このまま安楽死も……」と勧められるほど。どう治療しても、長生きはできないと宣告されました。ところが、むつみちゃんはこの子猫を甲斐甲斐しくお世話を始めたのです。Hさんはとても驚きました。むつみちゃんにこんな強い母性があるとは。

この子猫は恐らく11月3日生まれだろうというので、名前は「いちみ」になりました。いちみちゃんは障害のせいか、体がなかなか大きくなりません。成猫になっても、体重は1.5キロほど。歩行障害もあり、真っ直ぐ歩くことができません。

それに、上手に鳴くこともできませんでした。「にゃー」というところが「きゃっ」と鳴きます。それをむつみちゃんが「にゃー」と教える。すると、2歳になったころには、ようやく「にゃー」と鳴けるようになりました。

障害があってもいちみちゃんは、むつみちゃんといるとリラックスして過ごせました。むつみちゃんもまた、頼ってもらえることが嬉しいのか穏やかな性格に。

こんな時間は、永遠ではありません。獣医師の宣告通り、いちみちゃんは4歳になった2018年12月6日の朝、起きてきませんでした。夜のうちに、ひっそり息を引き取ったのです。Hさんは覚悟を決めていたつもりでしたが、喪失感が大きかったよう。獣医師に報告すると、「僕の見立てより1年長かったよ」と。

それでも、いちみちゃんがいなくなった哀しみは癒えません。それはむつみちゃんも同じことだったようで、いちみちゃんが虹の橋のたもとに旅立ってから、Hさんに寄り添い始めたのです。

大切な家族を見送った哀しみは、人間も猫も同じ。初めてHさんとむつみちゃんの気持ちがひとつになりました。それから、今まで以上に家族の絆が深まります。Hさんが喘息の発作を起こした時は、意識が飛ばないように二の腕を噛み続けることもしたんですって。

弱っている人、困っている人を助けたい、そういう気持ちがむつみちゃんは大きいのでしょう。兄弟の死や、いちみちゃんとの生活がむつみちゃんの心に大きな影響を与えたのかもしれません。

でも、むつみちゃん。自分が困っている時はHさんを頼って良いんだよ。家族なんだから。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)

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