駐車場で保護されたよちよち歩きの3匹の子猫 別々に引き取られたが、再び一緒に暮らすようになった
2020年4月、当団体のボランティアの1人から相談が入った。宝塚市の自宅近くのマンション駐車場に母猫とよちよち歩きの子猫3匹がいるという。生後まだ数週間ほどで、しっかりと歩くことができない子猫が車の出入りのある駐車場にいるのはとても危険だ。
そのボランティアさんは保護しようかと思ったが、自宅には介護が必要な老犬と、気の強い老猫がいるため、保護が難しい。そこで、当団体で保護ができないか相談の電話をしてきたのだ。
「生後そんなに経ってなさそうな子猫が駐車場をうろうろしているんだけど、どうしよう?」
幸い、その時は子猫の保護スペースが確保できる状態だった。私は「こちらで保護しますよ。このままそちらに向かうので、先に子猫を保護してください」と答え、現場へと直行した。
到着すると、すでにボランティアさんが3匹の子猫を保護してくれていた。見るからに頼りなさそうで、生後2週間ほどだろう。当団体で保護するため、こちらが準備したキャリーバッグに移しかえ、次に母猫を捜索した。TNRするためにはできれば、このタイミングで捕獲をしたい。
というのも猫は繫殖能力が高く、メス猫は1年に数回、妊娠と出産を繰り返す。子猫は外の過酷な環境で育つことは難しく、外敵に襲われたり、交通事故で命を失うことがある。不幸な命を減らすため、避妊手術をして元の場所に戻すことを考えた。
TNRとはTrap(捕獲)、Neuter(不妊・去勢手術)、Return(元の場所に戻す)の頭文字をとったもの。手術済みの猫は、その証しとして耳にV字の切り込みを入れており、それがサクラの花びらの形に似ているため「さくらねこ」とも呼ばれる。しかし、母猫は姿を消しままだった。子猫もいるため、一度捜索を切り上げ、現場をあとにした。その後もしばらくの期間、ボランティアさんが探したが、母猫は結局見つからなかった。
子猫を連れて帰ると、すぐにご飯の用意をした。小皿に入れた離乳食を顔の前に持って行くと、すごい勢いで食べ始めた。みんな元気そうで安心した。3匹のきょうだいは茶トラ柄、茶白柄、キジ柄をしており、茶柄の2匹はオス。キジ柄はメスだった。まだ自力でトイレができなかったため、刺激を与えてトイレの手伝いをした。
子猫たちが自力でトイレできるようになったタイミングで、預かりボランティアさんのところでお世話してもらうことになった。名前は茶トラ柄が「シン」、茶白柄が「アーサー」、キジ柄が「チイ」に決まった。
チイは賢い性格で、ドライフードを食べることや自力でトイレすることなど、何でも一番にできる子だ。その子に、この後、ちょっとした不幸が訪れるとは思いもよらなかった。シンとアーサーはオスということもあり、取っ組み合いをして遊んだりとても元気で陽気な性格だ。3きょうだいはとても仲が良く、遊ぶ姿や、遊び疲れて一緒に丸まったりひっくり返って寝ている姿を見ると、とても愛おしい気持ちになった。子猫の成長をYouTubeで配信すると、かわいい仕草に反響があった。
3匹はその後も順調に育ち、里親募集を開始。するとすぐに希望する家族が現れた。シンとアーサーは2匹で、チイは1匹で迎えられることになった。トライアルを経て正式譲渡となりかけていた段階で、問題が発生した。優等生だったチイの家には先住猫がおり、なかなか猫同士の相性がうまくいかない。トライアルを延長し、家族も猫同士の距離が縮まるように様子を見ていた。
チイは用意してもらったケージで数日間過ごし、その後猫同士対面させると、はじめは先住猫がチイを避けていた。一方、チイは子猫ということもあり、怖がることなくすぐに環境になじんでいった。先住猫は家族のベッドで時々トイレをすることがあり、ストレスを抱えているように見えた。
こんな状態が続いたある日、異変が起こった。先住猫が自分の方が強いと分かったのか、今度は本気でチイのことを追いかけるようになったのだ。すぐに家族から相談があり、そのやり取りを家族が動画で撮影し、LINEで送られてきた。動画では互いに凄い大声を出して、チイが追いかけ回されていた。チイは自分のケージに追い詰められ、小さな体を小刻みに震わせ怯えていた。それを見て、これ以上トライアルを続けることは、お互いのストレスが強すぎると判断。家族も残念がっていたが、チイは預かりボランティアさんの元へ帰って来ることになった。
チイは帰りの車中で今まで聞いたことがない声で鳴き叫び、ストレスがあったことを感じさせた。預かりボランティアさんの家に帰ってきたチイは、猫を警戒するようになり、同じくらいの月齢の子猫や、ボランティアさんの家猫が近寄るとシャーシャー威嚇をし、1匹でいることが多くなった。私自身、怖い思いをさせたことに申し訳ない気持ちになった。
預かりボランティアさんと今後、チイをどうするか話し合い、1匹で飼ってくれる里親さんを待つことになった。すると、数日後にシンとアーサーの里親から「チイちゃんは、もうどこかの家族になりましたか?」と連絡が入った。チイがトライアルから帰ってきたことを知り「旦那と相談したんですが、きょうだいで引き取ってあげたいと話しています」と声をかけてくれた。
しかし、チイはきょうだいと離れて少し時間が経っていたため、お互いを忘れている可能性がある。しかもチイは他の猫を威嚇するような状態になっていたため、私は「いまのチイは慣れるのに時間がかかると思います」と伝えた。それでもチイを迎えたい気持ちは変わらなかったようで、2匹の里親はすぐにチイに会いに来てくれた。熱心な家族と話している間、私は「このご家族なら辛抱強く仲良くなるまで見守ってくれる」と確信した。
チイはトライアルのため、きょうだいがいる家族の元へ出向いた。きょうだい達は久しぶりの再会に少し戸惑いもあり、想像していたようにすぐ打ち解けることができなかったが、家族はきょうだい達を温かく見守ってくれた。その後、きょうだい達は元通りまでとは言わないが仲良くなり、無事トライアル終えて正式譲渡となった。
3匹を迎えてくれた家族は「きょうだいがみんな一緒になって良かった」と言ってくれた。今では当団体のボランティアとして、施設の清掃や譲渡会の手伝いに来てくれるようになった。
(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)