豊田真由子、緊急事態宣言延長の影響を考える オリパラ「どうしてもやる」ならすべての人々を守って!

緊急事態宣言の延長が決まりました。

①純粋に感染拡大抑制の観点からは、「今、解除することはできない」ということになるわけですが、②社会経済活動や国民感情の観点からは、「もういい加減にしてほしい」ということなのだろうと思います。

難しいその両方のバランスを取り、国民の理解を得て、協働に導くのが、本来政治の役割ですが、なかなか厳しい状況です。

■緊急事態宣言の延長の影響

コロナ渦で、本当に多くの方が、非常に苦しい状況にあります。失業や倒産、その一歩手前のギリギリの状態。緊急事態宣言で休業や人数制限を要請された業種だけではなく、影響を受ける業種・分野は、極めて多岐にわたります。

政府は、生活困窮世帯に3か月で最大30万円(単身月6万円、2人同8万円、3人以上同10万円を3カ月間)を給付する方向で検討しているとのことですが、そういったことや資金制度・貸付等では対応できない、さまざまな事業者の「もう、もたない・・・」という声に、果たしてどう応えることができるのか、重大局面だと思います。

経済面の問題に加え、学校行事の中止やリモートばかりの学生生活、DVの増加、高齢者の廃用症候群等々、教育や心身等への影響も甚大です。

---と、1回目の緊急事態宣言から、ずっと同じことを申し上げているなあ(状況がほとんど変わってないということだなあ)、とガックリきます。政治・行政の方々の尽力も分かるのですが、どうにもうまくいっていない・・・。

繰り返しになりますが、人口当たり病床数世界一の日本で、相対的に少ない感染者数で、1年5か月経っても医療が逼迫していることは改善すべきで、そして、ワクチン接種を、(無理なく)着実・確実に進めることが、状況を打開するひとつの鍵ではあります。

■いつになれば緊急事態宣言を解除できるのか

これは、本来は「時期」ではなく、「新規感染者数や医療逼迫状況といった指標が、どれだけ改善されるか」という「ファクト(数値)」の問題です。

現在は、従来株からほぼ変異株(英国型)に置き換わっていることにかんがみても、緊急事態宣言を解除するのは、これまでのように、ステージ3に下がるだけでは不十分で、ステージ2まで、あるいは、それ以上にもっと下がらなければ、すぐリバウンドしてしまう、という見方が増えています。

具体的には、10万人当たり新規感染者数(1週間)が、ステージ3が25人未満、ステージ2が15人未満で、1日当たり新規感染者数で見ると、ステージ3、2それぞれ、東京は約500人・約300人、大阪が約315人・約190人、北海道が約190人・約110人、愛知が約270人・約160人、福岡が約180人・約110人といったことになります。

解除については、ワクチン接種の進捗状況や変異株の動向などにも、留意する必要があります。

■変異株の流行状況 ~英国では最大75%がインド変異株に

日本国内は、すでに従来株から英国変異株(N501Y)にほぼ置き換わっていますが、さらに

感染力が強いといわれるインド変異株(B.1.617.2)の感染拡大が懸念されます。

日本でのインド変異株の確認状況は、空港検疫では5月17日までに160人、国内では、5月24日までに7都府県で計29人で、5月21日に公表した国内事例11人から18人増加しています。都道府県別の最多は千葉県と大阪府で各6人、東京都と静岡県の各5人、兵庫県(4人)、神奈川県(2人)、広島県(1人)と続きます。

英国では、急激なインド変異株への置き換わりが起こっています。英国は、ヨーロッパで最も感染者数が多かった(新規感染者数6万人/日(1月上旬))のですが、ワクチン接種の進展等もあり、新規感染者数が大幅に減少していました(2.4千人/日(5月25日))。

しかし5月27日、ハンコック保健相は、インド変異株の感染件数が、先週から倍増して約7千件となり、新規感染件数の最大75%がインド変異株になっている、と明らかにしました。

実際に、英国のゲノム研究所(Wellcome Sanger Institute)の調査によると、英国各都市でのインド株への置き換わりが、4月中旬から急激に進み、5月15日時点で、81% (ベッドフォード)、90.4%(ブラックバーン)、 64%(ウィーガン) 等となっています。

■米国が日本への「渡航中止勧告」

5月24日、米国務省は、日本での新型コロナウイルス感染者の急増を理由に、日本への渡航警戒レベルを「レベル4:渡航中止勧告」に引き上げました。(日本から米国への渡航については、以前から「渡航中止勧告」です。)

これについて、米国の国内メディアの報道を見ると、

・日本は、新型コロナの感染者が急激に増えている

・ワクチンの接種率が低い

といった理由を挙げています。

米国は、現在151か国を「レベル4:渡航中止勧告」の対象にしており、ヨーロッパやアジアの多くの国々も「渡航中止勧告」です。英国、豪、NZ、中国、台湾等はレベル3、韓国、シンガポール等はレベル2ですが、相手国の状況に応じて、全体として頻繁にレベルの上げ下げを行っています。

5月17日~24日の間に米国の「渡航中止勧告」に加えられた国は、日本の他に10か国(カンボジア、アフガニスタン、コロンビア、ベネズエラ、スリランカ等)あります。

感染状況の考え方としては、5月25日時点の新規感染者数(1週間平均1日当たり)は、インド約24万人、ブラジル約6.6万人、米国約2.4万人、フランス約1.1万人、ドイツ約7千人、日本、スペインは約5千人、英国2.4千人で、日本が突出して多いとわけではありませんが、他国が「感染者が極めて多かった状況を、だいぶ抑えてきている」一方で、日本は「感染を抑えられていない」と分析しているということだと思います。

こうしたことを踏まえれば、今回の米国の「渡航中止勧告」への引き上げは、「日本だけがとんでもなく危険視されている」ということでは全くありませんが、日本が「感染が抑えられていない」かつ「ワクチン接種率が低い」ことを問題視されているということになります。

■五輪はどうなる?

国内外で反対の声は高まるばかりですが、開幕まで2か月を切り、どなたに聞いても、関係者は「なにがなんでもやる」ということになっていますね・・・。

感染拡大や医療への負荷など、五輪開催への私の懸念につきましては、これまで繰り返し述べてきており、また、国内外の報道は広く取り上げられていると思いますので、今回は、一つの学術論文をご紹介したいと思います。なぜなら、コロナ渦での「安全安心な大会の開催」は、科学・エビデンスに基づいてしか、本当には実現できない、と考えるからです。

5月25日、米「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」が、東京五輪開催に向け、参加者と日本国民を守ることを企図した新型コロナウイルス対策に問題があるとする論文を掲載したことに、私は少々驚きました。なぜなら、米国の医学研究の中心地であるマサチューセッツ医学会が発行するNEJMは、数多ある医学雑誌の中で、最も権威が高いとされ、世界中で広く読まれ・引用されているものであり、そして、あまり一方に偏った、あるいは政治的な内容のものを掲載することが少ない印象があるからです。

バイデン大統領のアドバイザーも務めるミネソタ大感染症研究政策センターのオスターホルム所長ら4人が執筆し、感染予防策をまとめたIOCの「プレーブック」について、「科学的に厳格なリスク評価に基づいて作成されていない」としました。

具体的には、

(ⅰ)参加する選手全員が、ワクチンを接種して行くわけではない(副反応への懸念や、17歳以下の選手はほとんどの国で接種できない)

(ⅱ)一部のパラリンピック選手はハイリスク者である

(ⅲ)トレーナー、ボランティア、スタッフ、交通やホテルスタッフ、といった多くの人たちを適切に守ることになっていない

(ⅳ)屋外・屋内、接触・非接触型など、競技の特性ごとに異なるリスクを考慮していない

(ⅴ)競技場以外のバス、食堂、ホテル等もリスクが高い

といったことが指摘されています。

そして、この論考は、日本の収まらない感染状況や低いワクチン接種率にも触れ、「五輪は中止することが最も安全な選択肢かもしれない」と述べた上で、「五輪を前に進めるためには、早急な行動が求められる」としています。 WHOが東京五輪のために緊急委員会を開催してアドバイスを行うことも推奨しています(※WHO緊急委員会は、2016年のジカ熱流行に際して、リオ五輪に指針を提供した)。

感染拡大抑制の観点からは、今でも、中止した方がいいと思います。

ただ、「どうしてもやる」ということであるのならば、国内外の声に真摯に柔軟に耳を傾け、参加者や関係者はもちろん、すべての日本と世界の人々を守る形で行っていただきたいと、切に願います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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