愛猫が失踪して3週間 タロット占いや不思議な出会いに導かれ、奇跡の再会を果たす

 福岡市にある「ビストロクワバラ」は、秘伝のソースを用いた美味しいオングレ(牛サガリ)ステーキやフランス菓子が味わえる、アットホームな雰囲気のフレンチレストラン。店主でシェフの桑原竜一さん(45)の飼い猫「ヌガチン」(メス 推定6歳)は、常連客やスタッフから愛され、今や店にいなくてはならない存在だ。だが今から5年前、一時期、失踪して行方がわからなくなってしまったことがある。捜索の過程で、たくさんの協力者が現れ、不思議な出来事もあって、奇跡的に再会を果たすことができた桑原さんとヌガチン。一体何があった?桑原さんに話を聞いた。

 桑原さん 2015年10月、店に出勤途中、尻尾をピンとたてて、街中を優雅に歩いている姿をたまたま見かけたのがヌガチンとの最初の出会いでした。生後5ヶ月くらい。その時は、気品のある猫だな、きっと飼い主がいる迷い猫だろう、と思っただけでした。

 その1週間後、店からの帰宅途中、偶然知人女性と会い、その彼女を送るためにふだんは通らない道を歩いていたら、ホテル兼マンションの防災管理室で、警備員さんが1週間前に見たその子猫に餌をあげていたんですよ。あっ、あの子だと思って、警備員さんに声をかけると、「飼い主さんを探してるんだけど、もし見つからなければ保健所に連れていかないといけないかも」とのことでした。

 それなら、見つかるまで僕が家で預かりますよと。猫を飼ったことはなかったんですけど、こんなに美しい猫が殺処分とかされてしまったらかわいそうですし。今から振り返ると、一目惚れだったんだと思います。

 でも、連れて帰ろうとしたら、すごく暴れて…。これはだめだと一度は諦めて家に戻ったんです。でも、部屋で弁当を食べながらテレビ観てたら、チラチラ気になるんですよ。それでやっぱり迎えに行こうと、空き箱を持ってタクシーに乗り、警備員さんの所へ戻りました。その空き箱にヌガチンを入れたら、タクシーの車内で暴れまくって大変だったんですけど、なんとか家までたどりつきました。

 最初は警戒して部屋の片隅にいました。でも、あれだけ暴れてたのに、朝起きたら僕のふとんの上で寝てるんですよ(笑)。結局、飼い主は現れず、僕が飼うことに。猫用のリュックサックにヌガチンを入れて、一緒に店へ出勤するようになりました。

 猫がいると、店の雰囲気やお客さんって変わるんですよね。猫好きの優しいお客さんをたくさん引き寄せるようになり、ヌガチンはお客さんやスタッフの間で、アイドル的存在になっていったんです。

 2016年8月のある日。営業を終えた深夜、ヌガチンをバイクの前の蓋付きのカゴに乗せて帰宅していたとき、暑いからちょっと風に当ててあげようと思って蓋を開けたら、ヌガチンがカゴから地面に落ち、慌てて僕もバイクごと転倒。ヌガチンはびっくりして、一目散にどこかへ走り去ってしまったんです。

 朝まで必死で探しましたが見つからず、そのことをSNSで報告すると、お客さんたちは「えっ、いなくなったの?」とみんなびっくり。その中で印刷関係の仕事をされている方がすぐに捜索チラシを作ってくれて、SNSでも拡散しました。そのおかげで、いろんな目撃情報が寄せられ、そのたび現地へ確認にいくのですが、ヌガチンによく似た模様だけど違う猫だった、ということが何度も続きました。

 別のお客さんは、趣味でタロット占いをしているという女性を紹介してくれました。当時、占いはあまり信じていませんでしたが、何か手がかりがつかめたらと、その方に占ってもらったんです。すると、「最強のカードが出ました。絶対、ヌガチンは生きているので、安心してください」と。

 その女性は、続けてこう予言しました。「今思われている場所よりもはるか遠く、川を挟んだ向こう岸にいます。人が集まるところ、お金が動くところ、暗いところにいるイメージが浮かんできます。背後に気をつけてください」とのことでした。

■占いの女性が言っていたことと、すべてが一致

 その日の夜、店入口の扉を開けていたら、ふと背後に気配を感じて厨房の入口を見ると、まったく知らない猫がそこに座っていたんです。猫が勝手に店に入ってくることなんてないので、もうびっくりして。占いの女性にそのことを報告すると、「いい兆候です。きっとみつかりますよ」と。その後、半信半疑ながら、予言に該当しそうな場所を探してみたのですが、やはり見つかりませんでした。

 それからしばらくして、捜索チラシを見たという、30代くらいの見知らぬ女性が店にやってきました。ヌガチンがいなくなって3週間が経った夜でした。初対面にもかかわらず、彼女は熱心に地図まで示して「さっきおたくの猫を見ました。このあたりです。間違いありません。絶対に行ってくださいね」と言って、立ち去っていったんです。

 そこまでいうならと、営業後、言われた場所に行ってみました。そこは店から1キロほど離れ、さすがにこんな遠くまでは行っていないだろうと思われる場所でした。ところが、すぐに鳥肌がたってしまいました。というのもそこは、川を渡った向こう側で、人が集まる天神の繁華街。目の前には日本の中央銀行である日銀があり、女性が目撃したのは、道路を渡った斜め前の、ビルとビルの間の暗がり。占いの女性が言っていたことと、すべてが一致していたんです。

 そばの屋台の人に事情を説明し尋ねてみると「そんな感じの猫、たしかにこのへんにおるよ。見かけるようになったんは2週間くらい前からかな。お腹すいてるやろうからといつも餌をやってたんよ。ここでずっと待ってたら必ず会えるけん、諦めんでね」と。その言葉を信じて、そのあたりを探しまわりました。でも、やっぱりいない…。

 朝4時をすぎ、あたりが薄明るくなってきたころでした。探し疲れて、ビルの前の花壇に座って携帯を眺めていたんです。すると突然、にゃーという声が、背後から聞こえました。ハッとして振り返ると、そこにヌガチンがいるではないですか!

 僕は我を忘れて、逃すまいとおやつを差し出しました。すると、ヌガチンも僕にとびかかってきて、「なんでもっと早く迎えにきてくれなかったの?」といった目で僕を見つめました。そのまま僕は、ヌガチンをぎゅっと、その場でしばらく抱きしめていました。こんな夢のような、ミラクルって実際あるんやなと、思わず頬をつねったほどでした。

 占ってくれた女性は、今はもう占いはしていないそうですが、その彼女をはじめ、大勢のお客さんや猫好きさんが、僕とヌガチンの縁を再び繋いでくれたんだと思うと、感謝で涙がとまりませんでした。ヌガチンとは、僕が生まれる前から深い付き合いだったんじゃないかと、今はそんな気がしています。

【店名】ビストロクワバラ

【住所】福岡市中央区渡辺通3-7-1 ボヌール天神南1F

(まいどなニュース特約・西松 宏)

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